第34話 ありがとう

「やっぱり本場のビールはうまいな~」幸助

幸助はそう言って

今日はハイピッチでビールをどんどん空にする


「大丈夫か?酔いすぎるなよ」愁


・・・やっと冷静になれた俺は

さっきの話の事情を聴く


「俺、今もよく理解できてないんだけど

唯香・・・来てるの?

じゃ

何で一緒に来なかったの?」愁


幸助は口をとがらせて


「お前、俺と二人じゃ嫌なわけ?」幸助


俺はあからさまに引いた顔で


「嫌じゃないけど・・・甘えるなよキモイ」愁


幸助は少し笑って


「あの後さ

お前がドイツに戻って

唯香

やっと冷静に考えられたらしい・・・

お前に好きだって言われて

動揺して

パニックで

あんな風に言っちゃったんだってさ

真面目なんだか可愛いんだか・・・な」幸助


「そんな風に見えなかった

まじで

迷惑なのかと思った」愁


「ま、お前も恋愛に対しては脳みそ半分だからな

唯香の揺れる思いなんて分かんねーよな」幸助


「・・・だな」愁


「おっ素直じゃん」幸助


「今日は・・・お前に感謝しかないしな」愁


「かわいいな~

今夜は抱き合って寝ちゃう?」幸助


「キモイよ」愁


ケラケラと笑って

直ぐに幸助は真面目な顔になって


「唯香があまりにもへこんで

同じことばっかり言って悩んでるから

俺が強引にここに連れてきたの

もし

お前が唯香の事は気の迷いだったって言ったら

愁にはココに来ていることは言わないで

この後

二人で失恋旅行にしようって・・・

その間に

俺が愁の事を忘れさせてやるからって

ある意味

口説いてきたわけよ

結果、俺だけ明日から失恋旅行だけどな」幸助


幸助は俺の胸に

グーパンチをする


コイツ

まだ唯香を思ってんだ・・・ごめん


心で呟いた


「今、心の中で”ごめん”って言った?」幸助


聞こえた?まさか・・・

幸助はニヤリと笑って


「なんでお前は分かりやすい顔してんだよ!!

そういう所な

お前が可愛いのは・・・

”ごめん”とかそう言うのはいいから

幸せにしてやれ!唯香の事

もうこんな役回りはごめんだ!!」幸助


そう言って

またビールを飲み干した


その夜

幸助は10本のビール缶を転がして

ソファーで寝た


イビキうるさかったな・・・


翌朝

朝と言っても昼に近い


俺はクラブの練習を終えて

部屋に帰ると

幸助がシャワー後のドライヤーをかけていた


「おかえり」幸助


スッキリした顔

もう吹っ切れたんだな・・・よかった


「ただいま・・・お前

二日酔いじゃないの?」愁


「ないね

俺、そんなにやわじゃねーから」幸助


そうこうしながら

身支度がすんだ頃

インターフォンがなる


”ピンポーン”


唯香だ


緊張する

どんな顔すればいいんだろう?


ドアを開けに行くと

荷物を持った幸助が一緒に来て

急いで靴を履く


「じゃ、俺は行くから」幸助


「もう少しいろよ」愁


「やっとお互いの気持ちに素直になれたんだ

勢いに乗って

友達卒業しなきゃ

また振り出しに戻るぞ!!」幸助


そう言って

おれに微笑み

ドアを開ける


唯香は大きなキャリーバッグを横に置いて

立っていた


緊張してる?


「久しぶり」唯香


俺だって緊張してる


「・・・うん」愁


そんな俺たちに幸助は


「じゃあなお二人さん

ちゃんとキスくらいしろよ!!子供じゃないんだからな」幸助


そう言って

跳ねるように駆け出して行った


何を言ってるんだよ・・・

あいつらしいけど・・・


唯香は頬を赤くして

幸助を見送る


どう思ってるんだろう?

唯香・・・幸助の気持ち分かってるのかな?

分かってるよな

少し悲しそうにも見える唯香の横顔


俺はいつまでもその場に立っている唯香を部屋の中に引き入れ

少し強引に抱き寄せた


「・・・」唯香


唯香は驚いて

俺の方を大きく見開いた目で見る


俺は唯香が何かを言おうとする前に


唇を

唇に

合わせる


数秒間


少し唇を離して唯香の顔を見る


「目・・・閉じないの?」愁


そう言うと

唯香は真っ赤な顔で下を向く


そして

もう一度、俺の方を見て


「幸助が言ったから?」唯香


いつになく強引な俺に唯香が聞く


「・・・半分は幸助

もう半分は・・・俺がしたかった」愁


そう言うと唯香は俺に抱き着き

少し背伸びをして

今度は唯香の方からキス


俺はにこりと笑って

唯香をしっかり抱きしめて

何度も何度も・・・

何度もキスをした


まるで

はじめて子供がチョコレートを食べた時みたいに

甘く柔らかくとろけるようなこの感覚が愛おしくて

唇を欲した


俺は唯香の事を

これからは親友ではなく

愛する人として思う事が許された瞬間だった

                               おわり

   












数分後

唯香は”ちゅっ”と唇ではなく俺の頬にキスして照れ笑いを浮かべながら


「キャリーバッグ

外に置きっぱなし・・・」唯香


そう言って

俺から離れてドアを開ける


俺も照れながら

唯香に微笑み

それらを部屋の中に雑にほおりこんだ

そして

唯香を引き寄せて

またキスをする


「荷物・・・多いね

長い休暇が取れたの?」愁


俺がそう聞くと

唯香は

俺からのキスを止めるように

体を反らし

荷物の方を見て

また

こちらを見て


「退職してきた

覚悟を決めて来たよ」唯香


そう言ってほほ笑む

俺はまた唯香を抱きしめて

何度も何度もキスをした




俺たちの結婚のニュース原稿を奏が読み上げたのは

それから数か月後の事だった


                          本当に終わり







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と君 成瀬 慶 @naruse-k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ