第10話 宣戦布告
唯香を送ると
俺は走って寮に帰った
少しして
直輝も帰ってきた
「直輝・・・少し話せる?」愁
俺は後輩に偉そうにするのは好きじゃない
だから
できるだけ優しい口調で呼びつけた
直輝は無表情で
ついてきた
俺は自分の部屋に入ると
「幸助
ちょっとはずしてくれる?」愁
俺の真剣な表情に
幸助は一瞬真顔になったけど
直輝を見て
「俺はいた方がいいと思うけど・・・
そんな話しっぽいんじゃない?」幸助
幸助の言う通り
第三者がいた方が
冷静に話ができるかも・・・そう思って
「じゃ、居て」愁
そう言うと
直輝は不敵な笑いを浮かべて
「どうでもいいですけど
早くしてくれます?」直輝
生意気な態度をとる
俺は少しイラつくけど
冷静に
冷静に
そう言い聞かせて
話しを始める
「お前さ・・・」愁
始めようとしたら
かぶせるように直輝は
「ちゃんと送りました
家の前まで・・・何もしてません
今のところは・・・」直輝
そう言って
こちらを見た
「なんで一緒に居たの?
俺の彼女だって知ってるだろ?」愁
「知っていますよ
先輩
じゃ知ってますよね?
俺が奏ちゃんのこと狙ってたこと
後からきて
彼女の事かっさらっていったこと
覚えていますよね?」直輝
そうだ
俺は直輝が奏に魅かれている事に気が付いていた
だけど
あの時
俺は俺の気持ちを優先して
直輝を遠ざけ
奏をものにした
だけど
あの日あの時
あの合コンへ行っていなかったら
俺が奏と会っていなかったら
直輝は今頃
奏と付き合っていたのか?
そんなものなのか?
俺は違うと思う
人の出会いや
魅きつけられる心は
縁のようなものがあって
色んな偶然が実は必然で
なるべくしてなっている
だから
今まで俺は
色んな子に告られても
断ってきたのに
彼女が欲しいだなんて思ったことも無かったのに
奏とは急激に魅かれ合ってそうなって
これは
こうじゃなかったら
どうなっていた
なんて話ではなくて
直輝は
そんな事が分からないやつではないのに
分からないでいる
分かりたくないと駄々をこねている
「以前(まえ)の事は忘れた
だけど
今は俺の彼女だからさ
勝手に連絡したり
会ったり
やめてくれる?」愁
「えっ?お前
奏ちゃんといたの?」幸助
「はい
パンケーキ食べに行っていました」直輝
「デートじゃん!!
お前さ
先輩の彼女だぞ」幸助
「知ってます
分かってます
でも、俺は奏ちゃんの事
本当に好きなんです
愁さんの彼女かもしれない
だけど
愁さんのものじゃない
だから
悪いことしてるわけじゃないです」直輝
「悪いよ
そんな事が通ったら
世の中
戦争だらけだぞ」幸助
呆れてものが言えなかった
直輝
馬鹿なの?
俺がそう思っているか分かっているのかは知らないけど
直輝はこちらをキリッと睨んで
「負けません
先輩とか関係ない
俺は奏ちゃんの事をあきらめない
本人から
こっぴどく嫌われるまで
アプローチし続ける
それを止める権利
誰にもないですよね?」直輝
直輝は可愛い後輩だ
後輩だった
真面目にサッカーが好きで
それなりに
俺たちをたててくれて
特に
尊敬に近い感情を俺に向けてくれていたと思う
どうしてだ?
どうして
こうなってしまったんだろう?
「お前、格好いいな!!
直輝・・・この世界で先輩に喧嘩売って
ありえねー」幸助
「そうするんだ?
お前・・・俺たちの邪魔していくってことか?」愁
「そんな惨めなことはしません
ただ、今のところ
奏ちゃんと
”友達”ってことで
近くに居る権利もらってるんで・・・」直輝
どういう事だ?
俺にはまだ分からない
幸助が真面目な顔で言う
「近くでチャンスを待つってことか?
策士だな」幸助
直輝は頷いて
にやりと笑って部屋を出て行った
「・・・意味不明」愁
「あいつ本気だな」幸助
「だろうな・・・彼氏いるのにひかないで
友達でいるって
それって諦めたんじゃないの?」愁
「いや、あきらめたわけじゃない
近くで狙い続けるって事だろ」幸助
幸助は俺の肩をポンポンと叩いて
「恋愛初心者のお前には理解不能だろうな」幸助
そう言って笑った
俺は分からなかった
幸助の言う通りだった
分かった事は
直輝は本気だってことだけだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます