第11話 甘い香りの部屋

試合は順調に勝ち続けた

順調といっても

やはりココまでくる高校はトップレベルで

ハラハラする場面も多く

余裕なんて全くなかった


だから

試合のない日は猛烈に練習し

休息し

を繰り返していて

俺は文字通りサッカー漬けになっていた


奏とは

最近は今まで以上に連絡を取れていなかった


練習中・学校・寮

忙しい中で

ふと思う


直輝は連絡してるのかな?

要くんとは

毎日一緒に居るんだろうな・・・


考えると

嫉妬してしまう


嫉妬心は奏を苦しめてしまうし何より

カッコ悪い


自分の頭に浮かぶ邪念を払う


「愁・・・愁!!」


考えに集中しすぎて

呼ばれていることに今気が付かなかった

いつから呼ばれていたんだろう?


俺は顔を声の方に向ける


「この大雪だ

明日・明後日もこの調子らしい

マネージャー一人暮らしだってな・・・心配なんだが

お前、幼馴染だって?

水と食糧もって様子見に行ってくれ!!」立花先輩


立花先輩は

こういう所が気が付く人で

優しい

さすがキャプテン


「じゃ、幸助と行ってきます」愁


すると

幸助は先輩の背中からひょいっと顔を出して


「俺、パス!!

足に霜焼けできそう」幸助


お前・・・そんなにナイーブだったか?

ツンとした視線を送るけど

幸助はニタニタ笑って逃げて行った


「頼んでもいいか?」立花先輩


「はい」愁


俺はやはり

立花先輩の優しさを無駄にしたくないし

俺自身も唯香が心細い状況にあるだろうから

行ってやりたくて引き受けた


この辺では珍しく雪が深く積もっている

寮は大丈夫だったけど

交通機関はストップしているし

停電や断水状態になっているところも多くあるらしい

唯香のコーポは小さいから

もしかしたら大変な状況かも・・・


ザックザクと雪を踏みしめながら

俺は両手に持てるだけの食糧と

背中のリュックには水1.5リットル3本をからって進む


いつもより

時間がかかったけど

なんとか唯香のコーポに着いた


そのころには

俺は雪まみれで

雪に慣れていないから

Tシャツの上に上下のウィンドウブレーカーのジャージ

ネックウォーマーという軽装だったから

部屋の前に着いたら安心してからか

寒くなって大きなくしゃみをする


”ハクション!!”


その声に中から唯香がドアを開けた


「愁!!どうしたの?

真っ白じゃない」唯香


唯香は雪を払ってくれて部屋の中へ

玄関でネックウォーマーとウィンドウブレーカーのジャージの上着を脱ぐ

そして直ぐにジャージの下も脱ごうとして・・・


「あっダメだろ!!」愁


寒すぎて冷たすぎて

幼馴染とはいえ女子一人で暮らす部屋で

パンイチになろうとしている自分に突っ込みを入れる

その姿を見て

唯香はクスリと笑って


「風邪ひくから

脱いで!!今更、驚かないわよ

ひざ掛け持ってくるから」唯香


唯香は部屋の奥へ


この部屋、入ったことなかったな・・・

玄関前までは送ることはあるけど

何の匂いだろう?

良い匂いがする


そう思っていると


「はい!!」唯香


唯香はひざ掛けを俺に手渡すと

俺がその辺に脱いだジャージやネックウォーマーを

乾きやすいようにハンガーにかけて

部屋の奥へ持っていった


振り返って


「どうぞ

乾くまで中で休んで行って」唯香


そう言って中へ入るように

サッパリした言い方で誘う

いつもと変わりない


俺は恐る恐る

部屋の奥へ

やはり停電だったようで

アロマキャンドルをテーブルの真ん中に置いている


暗い部屋にゆらゆら揺れる火が・・・

変な感じ


「どうぞ」唯香


そう言って唯香はホットミルクを作ってくれた


「ありがとう」愁


温かい

両手でカップを持って

ゆっくり飲む

体の奥にじんわり入っていく

唯香はそれを向かいに座ってニコニコしてみている


なんだ?ホッとする


俺は部屋を見まわす

暗いからよく分からないけど

唯香のイメージからは想像しなかった

女の子らしい部屋


「可愛い部屋だな」愁


俺、何言ってるんだろう

焦る

唯香はにこりと笑って


「そう?」唯香


ワンルーム

だから

唯香が背もたれにしているのはベットで

綺麗に片付いている部屋に対して

不自然に

布団と毛布が唯香の温もりがのっこっていそうに

クシャっとなっていて

それがなんでだ?

ドキドキする

目がそれを見てしまう

生唾をごくんと飲みこむ


「ごめん寒い?」唯香


唯香はベットから毛布を抜き取って

俺に近寄って覆うようにかける

ふわっと良い匂い

やっぱり温かい

今までベットの中にいたんだ・・・


「大きい毛布

これしかないから我慢してね」唯香


近い

目の前に座った唯香が

ゆらゆら揺れる火にうつされて

目が潤んだように見える

なんだか色っぽい

無防備にぺたりと座っている唯香を見てしまう

俺は唯香の目から視線を逸らすように

目をしたにやると

ピタリと体にくっついたセーターの胸元が

ふくらんでいて

柔らかそうで

見てはいけないとは思うけど

目はそれから離れなくて


服装・・・よく見てなかったけど

セーター一枚なの?

長い靴下とセーターの間

膝より上に太ももがきわどい所まで見えている


その下はどうなっているんだろう?

はいてるよな

はいてないわけ無いだろ!


次の瞬間

俺は首を横に振る


俺はどうかしている


このままでは

いけない気がして


「俺、帰る」愁


そう言って立ち上がろうとする

けど

立ち上がってはいけない状況に直ぐに気が付く


ダメだ


迅速に

方向転換し

くの字に体を曲げるような形で干してくれていたジャージを雑に取って

素早く着る


唯香・・・何か気が付いたかな?

チラリとみると不思議そうな顔


下から見上げられると

変な気分が増す


俺はまた、頭を横にふって正気を保とうとする


「まだ、濡れてるでしょ?

来てくれて風邪ひかせたら申し訳ないよ」唯香


唯香は心配そうに顔を見る

俺は目も合わさないで


「早く帰んなきゃ

みんな心配するし

大丈夫だから」愁


そう言って

足早に部屋を出た


しばらくは頭がぽかりとしていた


何も考えてはいけない

何も考えてはいけない


自分に言い聞かせる


寮が見えるところまできて

大きく深呼吸

帰りは半分の時間で帰ってこれた


俺はやはりどうかしている


唯香は大切な仲間なのに

小さなころから友達なのに

馬鹿なことを思ってしまった自分に腹を立てながら

冷静を保とうとしていた


寮の玄関にはいると

幸助が待っていたようで

部屋から出てきた


「おっ色男!お帰り

…ん?どれどれ~」幸助


幸助は俺をじろじろ見て


「なんか旨いもん食ってきた?」幸助


何をいってるんだ!

わけがわからない

だけど、幸助のイヤらしいニンマリとした笑顔を見てからかわれていることに気が付く


「バカか?」愁


そう言ってリュックを幸助の顔に投げつける

幸助はそれをよけながらキャッチして


「お疲れ様~」幸助


そう言ってまた、部屋へ戻っていった


俺はなんだか

おれ自身が持ってしまった唯香への不純なものが幸助に読み取られてしまったようで

それ以上

幸助とは

その話をしたくなかった


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