第9話 勉強会

久しぶりに

今日の放課後は練習がない

奏でに会いに行きたいところだが

俺と幸助は

次のテストに向けて勉強会


「こんな日にしかできないでしょ!!」唯香


唯香からきつく言われている


いつもは

学校に残って勉強するけど

今日は学校じたい

先生たちの都合で閉められるらしく

追い出されるように帰されてしまった


学校からまっすぐに帰って

俺たちは寮の入り口近くにある食堂で勉強をすることにした


幸助は


「俺たちの部屋で良くない?」幸助


と軽く言っていたけど

マネージャーとはいえ

スポーツ系の男子寮の部屋に女子を入れるのは

俺は気が引けた


唯香が言うには

俺たちの数学の理解力では

次とテストこそヤバいらしい


一時間くらいたったころ


「あ~疲れた

頭使ったら腹減った~」幸助


幸助の集中力の限界が来た

俺は面倒くさそうな表情で睨みつけ

直ぐにまた

唯香が作ってくれたプリントに書き込む


「真面目だな~愁は・・・

そういう所が良いんだろうな~

だけどさ、学力は大差ないからな!!俺たち」幸助


ちゃかす幸助に唯香が怒る


「幸助、うるさい!!

邪魔するならどっか行け!!」唯香


幸助は口をとがらせて


「どっか行けって冷たくない?

どっか行ってほしいの?ま・さ・か

俺っておじゃま?」幸助


幸助の言葉に唯香は自分のペンケースを投げつける

幸助は反射力を生かして

すんなり交わす


にやりと笑う


「喧嘩すんな!!」愁


ふざける幸助

怒る唯香に俺は強めに言う


唯香は”ふ~”と深呼吸して

座りなおす

幸助は唯香のペンケースを拾って


「すんませ~ん」幸助


そう言って唯香に手渡した


「唯香が俺たちのためにワザワザ時間作ってくれてるんだからさ

無駄にすんなよ!!」愁


そう言うと

また幸助はプリントに書きこみを始めた


そしてまた二時間過ぎたころ


「そろそろ帰らなきゃ・・・」唯香


そう言って窓の方を見る

もう暗くなっていた

唯香はここから40分歩いた場所にあるコーポに住んでいる

プレイヤーではなくマネージャーだから女子寮に入りそびれた

実家からは通えないから一人暮らしをしている

週末にはお母さんが来ているらしいけど

一人で住む部屋に

こんなに暗くなって唯香をポイっと一人で帰らせるわけにはいかないだろ!!


「あ~悪い!!送るよ

な、幸助」愁


「大丈夫、帰れるから・・・明日の練習に備えて

ゆっくりしてて」唯香


「愁だけ送ったら?」幸助


「なんで?なんでお前は来ないの?」愁


「いや・・・いやさ・・・

俺、先輩からこの後

呼ばれてるからさ」幸助


そんな話は聞いてない・・・

本当にいい加減で薄情な奴だ!!

俺は思わず呆れた顔で幸助を見る

幸助はニヤニヤした顔でおどける

非常に腹立たしい!!

だけど、これ以上

送る送らないで言い合いをしていたら

唯香の事だから気を使って


”絶対に送らなくていい!!一人で帰る!!”


と言いかねない

俺は幸助との言い合いをやめて


「わかった

俺が送るよ」愁


そう言って

文房具をかたす


「ありがとう」唯香


唯香はにっこり笑って

身支度をはじめる


「なんだよ唯香

いつからそんなに女の子の笑顔できるようになってんの?

へ~

そっかそっか

唯香、今日はありがとうな~」幸助


幸助は意味深な笑いを浮かべながら

そう言ってササっと自分の荷物をもって

その場から消えていった


あいつは本当に・・・


俺は心の底から呆れていた


帰り道

二人だから

いつもより低いテンションで会話をする


「愁・・・最近、気合入ってるね」唯香


「まあね

今が頑張り時だしね」愁


「そうだよね

でも、無理しちゃだめだよ

先は長いんだから・・・ケガが一番の敵だからね」唯香


久しぶりだった

唯香と二人でこうして歩くの・・・

いつもは部活のみんなでいるから・・・


こんなに背が低かったっけ?


「何?」唯香


思わず見ていたらしく

唯香は不思議そうに俺に尋ねる

俺はそれが何故か恥ずかしくて


「いや、別に・・・」愁


急に無口になってしまった


しばらく歩いていると

向かいから歩いてきたカップルとすれ違う


その時


「愁くん」


その声に驚きそちらを見る

奏だった


そして

もっと驚いたのは

奏での横を歩いていたのは

後輩の直輝だ


急に目の前に現れた二人に

俺は固まる


「直輝、彼女とデート?」唯香


唯香は何も知らない

だから

そんな風に見えたんだろう

暗がりだったから俺だってカップルだって思たんだし


「・・・」直輝


直輝は俺に目を向けない


「・・・どういうこと?」愁


怒りを抑えて俺は聞いた


「・・・」直輝


直輝は黙り込む


「えっ、愁も知り合いなの?」唯香


俺が唯香に“奏は俺の彼女だ“って言おうとしたとき

奏ではにっこり笑って


「今日はパンケーキ食べに行ったの

直輝君が前から誘ってくれててね

最近ずっと愁くんに会えていなかったでしょ

だから私が落ち込んでるんじゃないかって心配してくれてね

美味しかったよ」奏


何も悪びれた様子はない

それを聞いて

唯香は驚いた表情と同時に嫌悪感をあらわにする


「あなた、愁の彼女なの?」唯香


そう聞くと

奏ではにっこり笑って


「はい・・・

あの・・・愁くんのお友達ですか?

宜しくお願いします」奏


奏では唯香にそう言ったけど

唯香は奏から目を逸らし

明らかに険しい表情で・・・直輝を睨みつける


「先輩たちはデートっすか?」直輝


やっと口を開いた直輝が

妙な冗談を言った


どうした?唯香!!

俺がこんなに抑えているのに・・・

何故か唯香が切れそうだったから

俺は空気を読んで


「そっか・・・じゃ

直輝

ちゃんと奏の事

家まで送ってくれよ」愁


何ともない顔をして

そう言ってその場を離れることにした

唯香はそれからも険しい顔のままで

しばらく話をしなかった


唯香のコーポのドアの前に着いたとき


「愁、彼女ができたって幸助から聞いてたけど

あんな感じの子なんだね・・・可愛い子だね」唯香


「ああ」愁


「直輝も好きなのかな?

って言うか

好きだよね…あれは」唯香


「・・・そうかも・・・な」愁


「愁はいい奴だからね・・・

ちょっと心配だね


じゃ」唯香


唯香はそう言って部屋に入って後ろ手でノブを持った

ドアが閉まるギリで振り返り


「あっ、送ってくれてありがとう」唯香


そう言ってちょっと笑ってドアを閉めた


えっ?ちょっとドキッとしたのは何でだろう?

俺、最近

本当に色気づいてしまって

親友ですら

女として見てしまっているのかもしれない


俺はどうかしている




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