第43話 最後の問いかけ
大雨だった
私は傘を持っていない
天気予報・・・当たってるのに
ただ
傘を持ってこなかった
朝、寝坊してしまって
慌てたから
最近では珍しかった
理由は・・・夢
夢には栞がいた
どんな夢だったかは覚えていない
だけど幸せだった
途中で夢だって気が付いて
だけど
起きたくなかった
起きると
終わってしまって
また色の付いてない日常に戻ってしまうから
だけど
いよいよの時間になって
ママが声をかけに来た
「悠ちゃん!!起きて」ママ
実家だから
遅刻はしなかった
濡れて帰るか・・・
そう腹を決め私は一歩踏み出した時
あれ?雨に濡れてない
私は上を向く
黒い傘・・・
振り返る
そこには栞が立っていた
「やっと会えた」栞
栞は疲れた顔をしていた
私はあからさまに引いた顔になっていたのだろう
栞はそれに少し笑った
私たちは近くの喫茶店に入った
栞はレモンティー
私はコーヒーを注文した
しばらくは会話は無かった
ただ、栞は私の方を見ていた
「どのくらいぶりだっけ?
もう随分
あっていない気がする」栞
栞・・・どんな心境なんだろう?
涼太から何て言われたんだろう?
気になる
気になる
気になる
私は言葉が出ない
目すら合わせるのが難しい
「本当はいけないのかもしれないけど
ココで
この駅で悠ちゃんにいつか会える気がしていて
毎日
ココで降りて悠ちゃんの家の前まで行って
歩いて帰ってた
ストーカーみたいだね」栞
栞の部屋はここから2駅も先で
私の家の前を通って帰ったら
また遠回りで
多分
1時間くらい歩いてたのかな?
「電話かメールしてくれたらよかったのに・・・」悠
「出ないでしょ?」栞
確かに・・・
「無理強いはしたくなかったんだ
偶然
偶然に会えたら
話しができる気がしてて
もし嫌なら
悠ちゃん
走って逃げるだろうし
それならそれを受け止めたかった
それだけ嫌われちゃったって・・・」栞
走って逃げたりしないよ
このシチュエーションは苦しいものではあるけど
置き去りにして逃げるような
そんなことはできないよ
だから
今もこうして
一緒に向かい合っているのだから
「元気にしてた?」栞
私は小さくうなづく
栞はにっこり笑う
「涼太から・・・涼太から何か言われた?」悠
「うん
”姉ちゃんは大丈夫だから
もうこのままかまうな”ってさ
相変わらずシスコン丸出しで言ってた」栞
シスコン?
涼太が?
そんな風に思ったことなかった
「怒られた
”だからダメだっていたんだ”ってさ
いろいろ言ってたな~
ほとんど覚えてないけど
悠ちゃんが俺のせいで傷ついてるってことと
色々先の事考えたら冷めちゃったってこと
は十分に分かった」栞
冷めてなんかないのに・・・
私はあきらめただけなのに・・・
「お見合い
するってね」栞
知ってるんだ・・・
「来週・・・」悠
栞は口をムッとつむって
「結婚するの?
・・・結婚するよね・・・多分
その為のお見合いだもんね」栞
「・・・そうだね
特別
特別に無理だって思わなければお受けしようって思ってる
カタガキ見たらいい人そうだった」悠
「そりゃ良く書くよ
書類審査だもんね」栞
栞は拗ねたように言う
「お相手が気に入ってくれたらだけどね」悠
栞はこちらを見て
真っすぐに見て言う
「気に入らないわけないだろ・・・悠ちゃんだよ
俺の俺の悠ちゃんだもん」栞
栞は少しくいしばったような表情をする
「どうしてだろう?
どうして
こうなっちゃったんだろう?」栞
私は下を向く
「俺たち
上手く行ってるって思ってた
忙しくて
会えなかったりもするけど
会いたくなかったわけじゃない
いつだって
会いたかった
会えないとか
そんなことくらいで・・・じゃないよね
色々と心が揺らいでしまったのは分かってる
だって
俺たち
やっとお互いを本当の意味で愛し合っていたんだから
もう離れないって
もう放さないって思ってたんだから
半端な気持ちでこうなったんじゃないって
分かってるよ」栞
栞は早口で
いつになく冷静ではない
私は
ウンウンと首を縦に振って
返事をするだけだ
「悠ちゃん最後の日
俺が間に合ったらどういう話をしようって思ってたの?」栞
「あの日の事はリセットしてしまったから
どんな風にどんな事を話そうと思ったかは
今はもう分からない
だけど
考えるきっかけになったハートのイヤリングは持ち主に返してもらおうって思ってたから
持って行ってた」悠
栞はキョトンとした表情に変わり
「涼太に聞いた
そっか
それがきっかけだったんだよね」栞
「それだけが理由ではないのよ」悠
「でも
それが・・・きっかけでしょ?
そんなもの
その場で聞いてくれればよかったのに
そしたら
どうでもいい事になってた
少なくとも
こうなってなかったかもでしょ?」栞
「なってたよ・・・そのうち
遅かれ早かれ・・・考えてたと思う
栞と一緒に居たかったから
目を逸らしてた
自分の立場とか
近い将来の事とか・・・
やっぱり・・・私たちは不自然な・・・
見合わない相手と恋をしているって思い知らされた」悠
「どういう事?
年齢の事?
そんな事、初めから分かってる事だろ?
それでも俺たち愛し合ってたろ?」栞
「見えていない時はそれでもよかった
だけど
一度、見え始めたら
もう考えづにはいられない
現実だもの」悠
「俺は気にしない
気にしてない」栞
「栞が気にしてなくても
世間は気にするのよ
私、何歳だって思ってるの?
最近では小じわなんて出てきて
化粧に時間かかって・・・おばさんなんだから・・・世間では」悠
「誰だって
誰だって歳はとるよ
しわだってできるし
だけど
そんな事じゃなくって
良いときだけじゃなく
弱っている時やかっこ悪い時にも
変わらず愛して愛されるのが本当なんじゃないの?
顔やスタイルなんて
きっかけだけで
そんなもの超えて
残るのは
必要とする心で
必要とされる内面で
おじいさんやおばあさんになっても
お互いを思いあえる相手と一緒に居れることが幸せで
それが最愛の人だと俺は思っている
俺にとって悠ちゃんは最愛の人だって・・・そう思ってた」栞
栞は真っすぐな人だ
大人になった今でさえ
そんなむず痒いことを言ってくれるの?
「悠ちゃん
俺は悠ちゃんの事が好き
これまでもこれからも変わらない
聞くよ
悠ちゃんは
俺のこと好き?」栞
栞はこちらを真っすぐに見る
これが最後だと
言われなくても分かる・・・
私は彼の必死にも見える姿を
愛おしく思う
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