第44話 栞の決断

窓の外に目をやる


雨はまだやまない

外はレースのカーテンのよう

包み込んで

人も時間もゆっくり過ぎる


今この時が

私にとって大切だから

どうか

このまま

このままで・・・


私は彼に聞く


「それを聞いて

それを聞いて

どうなるの?

私はあなたの事を嫌いになるわけはない

好きで好きで大好きだから

だから

嫌いになりたくないから

こうして別れを選んだのに

そうやって

私の事を揺さぶって

どうしたいの?」悠


栞はこちらをしっかり見て


「好きって受け止めていいんだよね」栞


私はハイともイイエとも言えないで

自分の指を見る


「じゃ、このまま

このまま俺は悠ちゃんの事好きでいいよね」栞


それは私に対しての問いかけではなく

栞は自分自身に言っている決意のような

そんなようなものに聞こえた


「・・・よく分からない

どうして栞は私に拘るの?」悠


栞はこちらを見る

この目に私は弱い

目を逸らす


「俺にとって

この恋は

悠ちゃんとのこの恋は一生かけて守っていくって

決めた恋なんだ」栞


どうして?

どうして?

どうして彼は私なんかにそんなに一生懸命になってくれるの?

こんなおばさん

ポイって捨てちゃえばいいのに


困惑する


気が付くと

涙がポロポロとこぼれ落ちる

私はすぐに泣く

いつになってもこんなに簡単に泣いてしまう


栞は立ち上がって

私の手を引き


「悠ちゃんの一つ一つの曇りを解決しよう」栞


そう言って店を出る


タクシーに乗って向かうのは?


「どこへ行くの?」悠


「俺の親の所」栞


栞の親?家?

何考えてるの?


私がその状況を受け入れる前に

タクシーは止まった


・・・初めて来た

豪邸・・・


タクシーを降りて

門お前

インターフォンを押す


”キンコーン”


上品なベルの音が響く


「はい」女性


直ぐに女性が出た


「栞です」栞


そう言うと門のロックが解除される

栞は門を開ける


「今のお母さん?」悠


「いや、家政婦さん」栞


こんなに大きなお屋敷だから

家政婦さんくらいいるよね・・・


って言うか

どういう事なのか?よく分からないままここにいた

私、今から誰に会うの?

こんな格好で

化粧だって崩れてて


少し歩いて

玄関前


私は栞の手をほどく


「何なの?」悠


栞は私の方を見て

もう一度手を掴む


「今から親に会う

っで、紹介する

俺の大切な人だって

結婚しますって」栞


何言ってんの?

状況は・・・呑み込めない


「こんな事

こんな風に

行き当たりばったりですることじゃない!!」悠


大きな声を出してしまった


その声に反応して

家の中から犬の吠える声がする

だんだんとそれが近づいて


”ガチャ”


ドアが開いた


私と栞はギョッとした顔で

そちらを見る

家政婦さんではなく

中年男性


帰ったばかりなのか?

ネクタイとジャケットを取っただけの

ワイシャツにスラックス姿

高そうな腕時計

ベルトが存在感を増している


「何の騒ぎだ?」


低い声で問いかける


「父さん・・・少しお話良いですか?」栞


栞はちゃんとした口調で話しかける

”父さん”って

栞のお父さんってこと?


栞のお父さんは

こちらを見て

上から下まで

まるで品定めのような視線


私は緊張が頭のてっぺんからつま先まで走る


「こんばんは

初めまして

杉崎 悠と申します」悠


声が震えてしまった


それが言い終わる前に

お父さんは背中を向け家の中に入っていく


栞はこちらを見て

ニッコリ笑って

手をぎゅっと握る


「行こう」栞


その声には

しっかりとした強いものを感じた

私はもう逃げられないと知り

まとまらない心境ながら

覚悟だけは決めて

栞の言うがままに

家の中へ足を踏み入れた




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