第40話 長風呂

家に帰ると

びしょ濡れな娘を見てママは


「悠ちゃん!!傘持ってなかったの?

お風呂に入って!!」ママ


やたら明るく心配されたから

失恋ムードはすんなり消された


ゆっくりお風呂に浸かった


温かいお湯に包まれると

なんだか幸せ


しばらくすると

ママの声


「悠ちゃん・・・悠ちゃん」ママ


”ガラッ”


お風呂の戸が開く

私、眠っていたみたい

お湯はぬるくなっていて少し寒い


「もう!!心配した

返事してくれないから!!」ママ


ママ・・・私がどうなってるかと思ったの?


ママの本気の顔に私は少し笑えた

どのくらい寝ていたんだろう?


それから私はすぐに上がった


脱衣所に置いていたスマホの画面を見る

もう3時過ぎだ

だいぶん寝てたな・・・

そう思ったらすぐに

栞からの着信とメールに気が付く


”悠ちゃん

今かっら帰るね”


”今どこ?”


着信

着信


”帰ったの?”


着信

着信

着信


”心配してるよ

電話出るか返事して?”


着信

着信

着信


それを見ているうちにも

また着信


”ブーブーブーブー”


バイブ音が静かな脱衣所に響く


どうしよう・・・


私はタオルの下にスマホを置いて

部屋着を着た


しばらくしたら

音は消えた


私は髪を乾かして

リビングへ


「悠ちゃん

涼太があなたに話があるって

さっきから待っててね」ママ


ママは弟のただならぬ真剣な面持ちに

何かを感じたのか

それ以上は口を挟まない


涼太が来ている

こんな時間に


涼太は私の方に近寄って


「部屋で話せる?」涼太


そう言って

手を引っ張って私の部屋へ連れて行った


部屋に入ると涼太は小さな声で話し始めた


「何してたの?

マジで心配したんだぞ!!」涼太


私は・・・涼太の怒りがよく分からない


「栞から久しぶりに電話があった

あいつボロボロに泣いてて

”悠ちゃんが消えた”って」涼太


栞・・・涼太に電話したんだ・・・


「俺、てっきり事件か事故かと思って

来てみたら

風呂に入ってて

上がってこないって母さんが言うから

死んでんじゃねーの?って思って

そしたら寝てるだけだし・・・

栞に言ってないって?ここに引っ越したこと」涼太


私は小さく頷く


「ここに戻ってきたってことは

失恋でもして

歳も歳だから・・・ってことなのかなって

來未とも話してて

しばらくは触れないで居ようって・・・

まさか

まだ栞と続いてるなんて思ってなかった

って言うか・・・どういうことなの?」涼太


私、弟夫婦に気遣われていたんだ

けっこう痛い姉だ

恥ずかしい


「別れるよ

今日、ちゃんと言うつもりだった

しばらく会ってないし

連絡は取ってたけど・・・私の中では

もう終わりにしなきゃって思てた」悠


弟に

しどろもどろ


「・・・なんかあったの?

栞・・・ぐしゃぐしゃだった

”部屋戻ったら

悠ちゃんの荷物が全部なくて

郵便受けに合鍵が入ってて

連絡つかなくて

悠ちゃんの部屋に行ったら

空き部屋になってて”

ってさ

賢くていつも冷静なあいつが

あんなに感情的に取り乱して話をしてるの珍しくて

俺、ビビったよ」涼太


私も想像つかなかった

栞が感情的に取り乱すなんて

彼の事だから

すんなり受け入れて


”そっか”


と手短に・・・

もしかしたら少しだけ未練があっても

そんな事を見せることも無く

受け入れるものだと思っていた

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