第3話 彼氏(下)

山の夜風は冷たくて

上着を持ってくれば良かったと思っていたとき

後ろから

バサッと大きなパーカーがかけられた


「お待たせ」純一郎


「ああ…うん」悠


後ろに立たれると

緊張してしまって

素っ気ない返事をしてしまった


純一郎は向かい側に座って

真ん中にランタンを置いた


ふんわりとした灯りに顔が浮かび上がると

緊張しているのは私だけではないようで

彼も笑顔が強ばっている


勝手な期待をしているからか

直視するのは難しい


今までだって

二人になったことはある


飲み会の後

家に送ってもらったこともあるし

研究室に泊まり込んだときも

図書館で調べものをしたときも


今夜はドキドキしているせいか

目の前にいる彼は

今まで見てきた友ではなく

二割増しの男前に見える

こんなにかっこよかったっけ❓️


まつ毛長い

手がきれい


えっ、私

あのメールのせいで変な目で純一郎を見ている


ダメダメ

私たち仲間は恋愛禁止


きっと話しは色恋ではなくて

ゼミでの事かな❓️

あっそういえば今年の夏は皆でディズニー行こうって話してたから

その話しかな❓️


頭の中をグルグルグルグル

ピンクと青が渦巻いている


「話しなんどけどさ…」純一郎


静かな声で話し始めた

私は彼の顔を見た


「あの…回りくどいこと好きじゃないから

言うけどさ




悠が好きだ」純一郎


妄想的中

私の呼吸が止まった


「大丈夫❓️」純一郎


「…うん…うんうん…うん」悠


言葉にならない

今、私はどんな顔してるのかな

人生初のモテ女子の様な状況に

正しい表情がわからない


「俺たち仲間だから

この関係を崩したくなかったけど

近くにいるのに言わないのは

後悔しそうだから…」純一郎


私は小さくうなずく

純一郎は私の顔をのぞき込んで


「それは

OKってこと❓️」純一郎


私は彼の方をちらりと見て


「いや、突然の事過ぎて

頭がまとまらないんだけど…」悠


嬉しいくせに

変な言い訳


「それは

無いってこと❓️」純一郎


あからさまに悲しそうな表情

私、彼を逃してしまう…


だけど、私は純一郎が好きなのかな❓️


そりゃいい奴なのは知ってる

仲間だから


よく見るとイケメンの部類だし

誠実

素直

賢い

清潔間があって

優しさの塊で…


きりがないほど良いところは浮かぶ


だけど

告白と言うイベントに気持ちが盛り上がっているだけなら

仲間として

彼に失礼だ


嫌いじゃないけど

好きだけど

仲間だから


自己満足で恋愛をするには

失うものが多すぎる


そう思ったとき

今までキラキラしていた純一郎を見る視界が

通常バージョンに切り替わり

ドキドキも治まった


一つ深呼吸をして

純一郎をまっすぐ見る


「私たち仲良しだから

純一郎

勘違いじゃない❓️

私も好きよ…友達として…」悠


そう言うと

私は立ち上がり背伸びをして深呼吸をした


「勘違い勘違い

心が友情と愛情を取り違えたんだよ」悠


純一郎はしばらく私の方を見て

頭をくしゃくしゃとかいてため息をつく


そして立ち上がり私をまっすぐ見て


「勘違いじゃないよ


勘違いだったら

友情壊すかもしれないのに

踏み出せないよ


けっこうマジで考えたんだ

で、告白してるんだよ


悠、簡単に終わらせないでくれよ」純一郎


悲しそうな顔


「ごめん」悠


思わず謝る


「悠は俺の事嫌い❓️」純一郎


私は横に首を振る


「だったら

彼氏に一番近い位置に置いてよ

友達より一歩リード

彼氏候補…


じゃないな


彼氏前提の彼氏」純一郎


「何それ❓️」悠


思わず笑ってしまった

こんなに必死な純一郎はじみてみたから


「悠は俺の事を友達として見ていたからさ

すぐに男として見てもらえるかは分からないけど

頑張るからさ

即答で断るのはなしにしてよ」純一郎


知らなかった純一郎がこんなに可愛い人だなんて…


ハートが彼にときめいた


私はにこりと笑って

純一郎に右手をさし出した


純一郎ははにかんで握手をした


人生初の告白

人生初の彼氏はさっきまで友達だった彼だった


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