第24話 start moving
ケンタが到着すると、クジュは、その右腕を上にすっと伸ばして止めた。その刹那、辺りが水を打ったような静けさに包まれた。
なんだ? 急に静かに……
その理由を、レイが気付いた。
「No blocks are moving!(ブロックの動きが止まっている!)」
それまで空中を漂うように、時には自由に泳ぎ回るように浮いていた白いブロックたちが、ピタリと静止していた。
クジュが、上げていた右腕をさっと振り下ろした。
カン!
何だ?
カン! カン! カカン! カカカン!
音は次第にその数を増していった。
「危ない!」
ケンタがとっさに、自らのブロックでビーチパラソルぐらいの大きさのドーム状シールドを作り、私の頭上に広げた。
ボンッ、カカン!
ケンタのシールドの上に落ちた何かが、床に落ちた。
それは白いブロックだった。
「レイも早く!」
ケンタが呼ぶと、レイは、ケンタの傘の下にすばやく転がり込んできた。
カカカカカカカカカカン!!
私たちのすぐ周りに静止していた白いブロックが、次々と床面に落下し始めた。
ボン、ボボボボボボボン!
上空から止めどなく落ちてくる白いブロックは、ケンタのシールドに容赦なく突っ込んできた。何百回という衝突音が、私の体を伝わり抜けていった。
「ク、クジュ!」
白いブロックの雨に遮られて視界がかなり悪かったが、なぜかクジュの頭上にだけは白ブロックは降り注いでいないようだった。
カララララン、カラン、カン……カン。
いつまで降り続くのかと思ったが、数分間もすると音が止んだ。
落下が止まった?
辺りを見渡すと、浮遊するブロックは一切なく、いびつな形をした白い雪が一面に降り積もったような、なんとも言えないもの悲しい光景が広がっていた。
どうやら、白いブロックが降り落ちていたのは、私たちが今居るピラミッドの頂上付近だけでなく、逆ピラミッド構造体の最上部に存在するすべての白いブロックが落下したようだった。
「クジュ!」
私は再び呼びかけたが、彼女はさっきと同様に立ったままで、今度は、両方の手の平を胸の前で向かい合わせるような仕草をし始めた。すると、
ザ、ザザ、ザザザザザ!
床に落ちていた無数の白いブロックが、互いに寄せ集って山状に盛り上がっていった。その山は、台座の周りだけで何十個とできていて、さらにピラミッドの周りを見ると、その盛り上がりは、床全体にできていて、その数はおそらく少なくとも数千、もしかすると数万にもおよぶかもしれなかった。
「なんか、やばい、やばいで!」
ブロックの盛り上がりがどんどん大きくなり、次第に何かを形作っていった。
う、うわあああ!
それは、人の形をなすものだった。無数の白いブロックが巧妙に組み合わさっていくことによって、一見してロボットのようにも見える角張った人形が、次々と形成されていった。
よく見ると、寄り集まった白いブロックは、動物でいうところの骨格と筋肉にあたる器官を主に形成しているようで、頭部は異常に小さいものだった。
そうしてピラミッドの周りに最初に出来てきたのは、その身長が、ピラミッドの高さの半分くらいある巨人たちで、その後、私たちと同じくらいの身長をもつノーマルな人形が続々と出来上がっていった。
巨人たちは、ズズン、ズズンと重量感のある足取りで、柱の方に比較的ゆっくりと歩いていった。
巨人は全部で六体いて、それぞれが六本の各柱につき、抱き抱えるように柱の側面に腕をまわした。
巨人たちが、力のこもったうなり声を上げ始めると、ものすごい地響きと共に、なんと柱が持ち上げられ、床面から引き抜かれた。
その一方で、ノーマルたちは、ピラミッドを構成するブロックのうちの外側に近い位置にあるものだけを、バケツリレーのような連携を取りながらどんどん取り除いていた。ピラミッドは、どんどん削られて円柱状になっていき、その周りに六つの大きな穴が出現した。
巨人たちは、六つの穴のそれぞれに柱を差し込んでいった。球状の物体をその頂に備える円柱体の周りに、六本の柱が配置された。
ピュレを含むアクエリアンたちは、機材と共にすでに宇宙船に避難していて、球状の物体からから少し離れたところで待機していたが、逃げ遅れた私とケンタとレイの三人は、ノーマルたちに取り囲まれてしまった。
「くそっ、なんなんやこいつらは? 来い、レッド!」
ケンタが呼ぶと、六体の赤いヌースが姿を現した。
「パワーを上げるで!」
ケンタの体が六つに、つまり頭部、胴体、両腕、両足脚のそれぞれにブロック化し、赤いヌースがそれぞれのブロックに同化した。
「うおおお!」
同化を完了したケンタの全身から、目映いほどの真っ赤なオーラが放たれた。その直後、ケンタは、少なくとも私の目では追えないほどのスピードで、襲いかかってきたノーマルたちを次々と打ちのめしていった。
一方の私は為すすべなくノーマルたちに捕まってしまった。
「く、くそっ、放せ、放せよ!」
抵抗むなしく、私は、ノーマルたちに引きずられるようにして球状の物体の方に連れて行いかれた。
「レイ、兄貴を頼む! こいつらが邪魔して兄貴に近づかれへん!」
「分カッタ!」
レイが動こうとしたとき、
「やめなさい!」
クジュがレイを呼び止めた。しかしその声は、明らかにいつものクジュの声ではなく、凍結した壁に反響したような冷たさを含んでいた。
「カ、体ガ、動カ、ナイ……」
突如金縛りにでもあったように、レイは身じろぎ一つできなくなってしまっているようだった。
ケンタとレイのそれぞれの状況が、これまで感じたことのない恐怖を私にもたらした。
そ、そんな、だ、誰か、た、助けて!
ノーマルたちが私を引きずりながら球状の物体に近づくと、その物体を構成する一部の弓状体が移動して、球状の物体に大きな開口が形成された。
「や、やめろ、やめろぉ!」
しかし、ノーマルたちはその開口の中に私を躊躇なく放り込んだ。ドスンという振動が球状の物体に伝わった瞬間、開口が一瞬で閉じられた。
その直後、六本の柱が振動して柱全体が光を帯び始め、光の輪が一つずつ各柱の外周に形成された。光の輪は徐々に拡大し、その一部が球状の物体のすぐ下に達すると、隣合う光の輪同士が互いにつながった。
私を閉じ込めている球状の物体は、連結した六つの光の輪の上に載るような格好となった。
気味の悪い重低音が私の腹の底をえぐるように響く中、光の輪の輝きがどんどん増していった。
「や、やめろ! 何をするつもりだ! ここから出し……」
ドン!
突如、六つの光の輪が上昇を始めた。私を閉じこめた球状の物体は六つの光の輪によって押し上げられ、球状の物体と私は、砲身から発射される弾丸の如く、ものすごいスピードで上昇していった。
「うわああああ!」
「あ、兄貴ィー!! レイ!」
ものすごいレイの叫び声が、私の脳全体に響いた。しかし、全身に掛かるすさまじい重力(G)が、私の意識を容赦なく削ぎ落としていった。
あらゆる感覚が遠のいていく中、断片的な何かが、私の耳に途切れ途切れに入れられたような気がした。
「・ロ・ヨ・・・・・・ミ・ツ・ケ・テ・ミ・ロ・ヨ・・・・・・ミ・ツ・ケ・テ・」
そのまま、私は意識を失った。
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