第23話 異変
私とクジュも、三人の後について行こうとした。
「あら?」
クジュはそう言って、床から何かを拾い上げた。彼女の手のひらに乗っているそれは、パチンコ玉くらいの大きさの小さな白い物体だった。
「ん? 石ころ?」
他にもあるのかと思って辺りの床を見回したが、石ころのようなものはその一つだけだった。
「リョータ、どうしよう?」
「フフ、記念に持ち帰えっちゃえば?」
「だめよ、そんなの。あとでケンちゃんかレイさんに聞いてみましょう」
「そうだね。それじゃ……あっ、とりあえずここに置いておくのは?」
よく見ると、台座の上下方向の中間部分に、おそらく台座の全周にわたっているであろうと思われる、縦幅が五センチくらいの横溝が形成されていた。
「そうね。気づかれずにだれかに踏まれたりしたら可哀想だものね」
クジュはその石ころを台座の横溝の中に置いて、静かに両手を合わせて目を閉じた。
クジュらしいな。
実はクジュにはとても信心深い側面がある。私たちの身の周りには、いつもたくさんの神様たちがいてくれる。普段からそう信じて疑わないクジュは、たとえそれが他の人には本当に些細に思えるようなことであったとしても、その存在を感じたときには必ず感謝の意を表す。
手を合わせている今の様子がまさにそれであって、球状の物体を前にしてひざまずき祈りを捧げていたさきほどの彼女の姿をなぞるものでもあった。
「さあ、行こうか」
そう呼びかけると、クジュは笑顔で向き直り、私のすぐ横に寄り添うように立った。
あれ?
何気なくクジュの後ろの横溝の方を一瞥したとき、違和感を感じた。
石ころは?
そこにあるはずの石ころが無くなっていた。
ブーン……
そのとき変な音がした。上の方だ。
「あっ!」
クジュの頭の上に、何か小さな物体が浮いていた。すぐに分かった。それは横溝に置いたはずの石ころだった。
「クジュ!」
とっさに彼女の腕をつかんで引き寄せようとしたとき、石ころが突然、私の顔とクジュの顔との間に入り込んできた。
「え!?」
クジュが驚きの声をあげるやいなや、石ころがクジュの眉間に張り付いた。
「きゃあ!」
ボッ! ボボボボン!
クジュの悲鳴と共に、彼女の体からヌースたちが一斉に飛び出てきた。それらは、オフィス街で見た、体に黒い模様のある紺色のヌースだった。
「クッ、クジュ!」
彼女はその場で直立不動となった。彼女の瞳の輝きが、見る見る失われていった。
「クジュ! クジュ!」
大声で呼びかけたが、何の反応もない。
「ケンタ! ケンタ! こっちに来てくれ! 早く!」
私の叫び声を聞いたケンタとレイは、私の方を見たとたんに顔色を変えた。クジュから飛び出してきたヌースたちの存在に気付いたのだ。ヌースたちは私の周りにいて、クジュの方をじっと睨みつけていた。
「なっ!? ヌースが分離しとる! 兄貴、何があったんや!」
ケンタ、そしてレイが走ってきた。そのときのレイの身のこなしは異常なほど軽くて速く、ケンタよりも先に私の元にやって来た。
「コ、コレハ……」
レイがクジュを見ると、クジュは、その長い髪の毛のほぼ全てを逆立たせながら、うつろな眼を私たちに向けていた。
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