13話

「昨日ぶりだねシュバルツ君。よく来てくれた歓迎するよ。ロックも久しぶりだね。1月ぶりくらいかな?」


要塞の応接室に通され数分ほどで現辺境伯、中肉中背緑髪のフルストゥ様がやってきた。


「さて、急かすようで悪いんだけど早速武器庫に行こうか。話は歩きながらするとしよう。」


「了解。んじゃ行くぞシュバルツ。」


「あ、はい」


どうやらゆっくり会話する暇はないらしくせかせかと武器庫に向かうことになった。


「できればゆっくり座って話をしたかったんだけど生憎時間がなくてね。スタンピードが間近に迫っているから食料の確保。防衛戦力の把握。防衛計画の立案。防衛機構の見直し。ギルド関係者との会談。逃走経路の確保。他領への根回し。陛下への報告。老害の調教。やる事が山積みでね。どうにかこうにか作った隙間の時間で案内しているわけさ。」


「なんか…すみません。俺の武器選びの為に時間をとらせてしまって。」


すげえハードスケジュールの間の時間を割いて辺境伯自らに武器庫に案内してもらっている事を知り申し訳なくなる。



「いや気にする事はないよ。こうして案内するのもいい気分転換になるからね。それにあの老害が動けない今の内に選んで貰った方がいいだろうしね。っと危ない通り過ぎる所だった。ここが武器庫だよ。」


急に立ち止ったと思ったら危うく通り過ぎる所だったらしい。


「武器庫?宝物庫ではなくですか?」


辺境伯が武器庫と宣うその扉は見上げるほど高くそして大きかった。


「武器庫である事に変わりないんだけど、ここには強力な武具を置いているからね。必然盗難防止の為に扉も厳重になる。」


「まあココを開けるには、辺境伯家の血縁者がいないと開かない魔法がかかっているから兄貴か俺、兄貴の子供達か最悪ジジイを連れてくるしかないんだが。」


そう言っている間に扉に魔法陣が浮かび重厚な音をたてながら扉が開いていく。


「気に入った物があれば遠慮なく言ってほしい。この中の物なら私の裁量で2つまでなら君に与えられる。」


武器庫の中には様々な武器が並べられていた。しかしどれもこれも素人目から見てもただの武器ではない事がわかる。


「ここにあるのは魔器や聖器、呪器なんかの普通の武器とは一線を画すもんばかりだからな。シュバルツ選ぶ時は気をつけろよ?こんなかには意思を持つ武具もあるから不用意に触ると反撃される事もあるからな。」


「まあ意思持つ武具は聖器に多いから神聖そうな武具を持つ時は気をつけたほうがいいよ。」


武器庫に入り周辺を見回していた時だった。


『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い』


『恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい』


突如脳内に響いた二つの声。俺はその声に導かれるように武器庫の奥に進む。


「魔器や呪器の意思持ちは厄介な性質のもんが多いから見つけたらすぐに離れるんだぞ。おいシュバルツそれ以上奥は厄介なもんばっかだからこの辺で適当な武器を選んだほうがいいぞ。」


ロックさんが何か言っているが俺の足は止まらない。この声の主達の所に俺は行かねばならない。


「シュバルツ、いい加減止ま!?危ねえぞ!!」


突如神聖な気配の剣や槍、盾、弓、鎌、杖、槌、斧、武器庫にある全ての意思持つ聖器がシュバルツに牙を剥いた。


しかしそれらの牙は一つとしてシュバルツに届く事はなかった。


「なんだ…ありゃ?召喚獣か?」


シュバルツの背後から突如現れた人型の闇。羚羊の頭蓋を持ち数えきれない程の人骨で造られた体を向こうの見えない真なる闇が覆っている。それから伸びた数多の骨の腕が聖具を掴み止めていた。


「やはりか…一目見た時から底の見えない怨嗟を抱え込んでいると思っていたがあんなモノを抱えていたとは…」


フルストゥの目は見たものの詳細を知る事ができる『究明眼』。初めに見た時から何か良くないモノ抱え込んでいる事はわかっていたが、姿を現し顕現したシュバルツに憑くそれがなんなのか理解してしまい、憐憫の籠った目をシュバルツに向けていた。。


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ユニークスキル『怨恨憎魔バーディン』

異なる世界にて数多の死と怨嗟をまとめる事で生まれた人口悪魔。本来ならば死と狂気を振りまく災害だがシュバルツに宿ってからは彼の守護者として存在している。


幾万の死の上に造られたそれは本来兵器として使われる筈だった。しかしそれはある時一人の少年と出会った。少年は怯えることも憐れむこともなくただそれを受け入れた。「一人でいるのは寂しいでしょ」と。本来交わる事のない生と死はそうして混じり合った。生者は死の揺籠として、死は生者の守り手として。人も神も理も決して彼等を別つことはできない


それはある種の呪いであり祝福なのだろう。死に寄り添う者は少なく、故に死に愛される。しかし死は寵児に降りかかるのではなく、寵児の敵対者に向かうだろう。覚悟するがいい。寵児に敵対する者には避ける事のできない死が迫ってくるのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『不浄なるモノよ!我等の光で正しき輪廻に戻るがいい!』


宙を舞う神聖なる武具の一つがその聖なる気を炸裂させ、発生した光の爆発が俺を襲う。


「そんなんじゃ俺にもバーディンにも傷一つつけられねえよ。」


怨嗟の闇をカーテンのように広げて俺を守るバーディン。守られた俺には傷などあるはずがなく、その身を守る闇が薄れたバーディンにも傷はない。


『馬鹿な!?何故不浄なるモノが神の浄化の光を受けて無事でいられるのだ!?』


飛び交う武具の中でも一際神々しい剣が何やら喚いている。それに対してバーディンが返答していた。


『カカカ!なんともちっぽけな光だなぁ。そんな豆電球みてぇな光が全力かい?ええ聖剣様よぉ。』


『そんなか弱い光では闇は祓えても、怨嗟は晴れぬ。』


『ひひひ!ダメダメだな!なあ聖剣よ!お前らにはわかるまいよ!聖なるものとして万人に望まれたお前達に!我等の怨恨が!増悪が!』


『貴方はこの子を襲った。私たちの愛しい子を。半身を。揺籠を。許さない。鉄屑の分際で私たちの子に攻撃するなんて…』


年老いた老人。落ち着いた男性。溌剌な青年。年若い女性。老若男女ありとあらゆる人間の声が同時に発せられる。しかしそれらは不思議な事にはっきりと聞き分ける事ができる。


『我等は本来存在してはならないモノ。世界の摂理に反するモノ。全てに拒まれるモノ。故に永遠の孤独を抱えるモノ。だがこの子は、我等の愛子は、我等の寵児はただ受け入れてくれた。常人ならば見ただけで狂死に至る我等の怨嗟を否定するでもなく、突き放すのでもなく、拒絶するでもなく、余す事なく受け入れ抱擁してくれたのはこの子だけだった。故に、我等の子に害なすモノ全て悉く滅ぶべし。神に作られし宝剣よ故に砕けよ。』


バーディンの体から新たに数百の骨腕が現れ聖剣を包み込んでゆく。


『やめろぉ!!汚れた手で我に触れるな!』


喧しく聖剣が喚くがそんな事でバーディンが止まるわけがなく、パキッパキッと剣にヒビが入る音が聞こえ出す。


『貴様ら聖なるものどもはいつもそれだ。自らを神聖なる存在とし特別視する。』


『馬鹿だよなぁ。邪だの聖だのは人間が勝手に決めた事なのによぉ。それに囚われて自らの骨子にするなんてよぉ、まるで』


『まるで自分はそれ以外に価値がないと言っているようでとても哀れで、滑稽じゃない。』


『哀れ哀れ!滑稽滑稽!私たちを受け入れてくれたこの子以外はみんな愚か愚か!』


『まあ、よくある話じゃないか。【聖なる勇者は力及ばず悪の前に倒れる】。まあ今回は【聖なる剣は無念にも怨嗟の前に砕け散る】だが。』


『イギギギギ、や、やめろ!こ、この、私が、聖剣、が砕ける。砕けて、しまう!』


剣にヒビが入る音が加速する。闇に覆われその様子を知ることはできないが、聖剣の悲鳴が今の状態を代弁していた。


『『『『『『『砕けろ鉄屑。』』』』』』』


『イギ、アアアアアアアアアアアア!?』


ガギャン。


数多の怨嗟の前に聖剣はついに砕けた。聖剣が砕けるとバーディンに拘束されていた聖具達も力を失っていく。


邪魔がなくなり俺は声の主達の前にたどり着いた。


そこにあったのは二つの武器。深紅色にところどころ黒が入った俺の背丈ほどある戦輪と、白色に藍色がヒビのように走る俺の胸ぐらいの大きさの戦輪。


「はじめまして。唐突だけど俺と一緒に行かないか?」







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