12話

「お待ちしておりました。ロック様。お元気そうで何よりです。」


要塞の重厚な扉の前に白銀の髪をオールバックで固め、片眼鏡モノクルを掛けた老執事が立っていた。


「久しぶりだなスレイ。お前も変わらず元気そうだな。」


「このスレイは生涯現役。故に自身の体調管理に関しては万全ですので。」


朗らかに会話をするところから仲の良さが伺える。


「スレイ、こいつが昨日の事件の犯人だ。」


「ほう、ではこの少年があの多頭龍の召喚師ですか。ご挨拶が遅れました。私はこのアルボル辺境伯家にて執事長をやらせてもらっているスレイ・リードと言う者です。以後お見知り置きを偉大なる召喚師殿。」


「こちらこそはじめまして。ロックさんにお世話になっているシュバルツです。ところでどうして召喚されたのが多頭龍だと知ってるんですか?辺境伯様にお聞きになられたんですか?」


召喚獣とギルドマスターが暴れた事は知れ渡っているが、召喚獣が多頭龍だと言う事を知るのはあの戦闘狂のギルドマスターを除くと辺境伯と副ギルドマスターのアグレスさんとロックさんの3人。


となるとこの執事さんは辺境伯様から話を聞いた可能性が高い。


「いえ、私も昨日現場にいたのですよ。」


「え、そうなんですか?」


「ええ。昨日は先先代辺境伯様であるライル様の監視、オホン!お供として街を見て回っていたのですがそんな時にあの咆哮を聞いてしまいまして…血が激ってしまい現場に急行したのはいいのですが何やら結界が張られておりまして参戦出来ず悔しい思いを抱いていたのです。」


この執事今監視って言ったよな?先先代辺境伯って何かやばいの?てか主人を置いて戦闘しに行く執事ってどうなの?


「スレイが目を離したせいでジジイがまた街中で半裸になって衛兵にしょっぴかれてたぞ。」


おう…ロックさんが言ってた爺さんが先先代辺境伯かいな。てか貴族がそんなんで良いのか?


「ライル様には困ったものです。あのお方の被虐体質は年々増すばかり。魔物に対しては加虐的なのに何故人相手だとあそこまで変た…ゲフン!紳士的になるのか不思議で仕方ありません。」


「それを止めるのがお前らの仕事だろ。」


「ロック様もライル様のお力はご存じの筈。そのせいで迂闊に手を出せないのですよ。その上最近は新たなスキルを身につけて厄介さに磨きがかかっておりますのでフルストゥ様を除いて誰も止める事ができないのですよ。」


「あのジジイ、兄貴が辺境伯を正式に継いでからやりたい放題だからな…」


「力と権力を持った変態なんてタチが悪いですね。死ねば良いのに。」


貴族社会のこの世界では貴族は圧倒的な特権階級。故に好き放題する貴族はラノベによくいたが、実際に好き放題する貴族がいるんだなぁ。やってる事は圧政ではなく変態行為だが。


「ええ、全くもっておっしゃる通りです。しかしご安心ください。今はフルストゥ様に封印されているので動く事はできな「そこの少年!今の罵倒は素晴らしい!」!?」


突然男の叫び声が聞こえた。声のした方を見るとブリーフを身につけた筋骨隆々の老人が壁の上に立っていた。


両腕を組みその背に太陽の光を浴びて輝く老人。紛う事なき変態である。


「昨日私を捕らえた衛兵達は「まだですかライル様」と言いながら蔑んだ目を私に向けてきた。あの呆れたと言わんばかりの態度と蔑んだ目も私を興奮させてくれたが、いささか刺激が足りなかった。何故ならば彼らは私を知っているし、私も彼らを知っている。もはや家族と言える我が民達からは新たな刺激を得ることは難しい。」


壁の上から自身の変態的価値観を堂々と語りながら飛び降りてくる老人変態


「だが!今私を初めて見聞きした少年の心の底からの罵倒!私の本能が叫んでいるんだ!君ならば最近の私が抱えていた渇きを癒すことができるかもしれないと!」


高さ10メートルの位置から飛び降りたが、華麗な着地を決め、良い笑顔をしながらこちらに歩いてくる変態。


「【黒棘の巨腕】」


身の危険を感じ朝から考えていた【不治なる魔荊棘】の派生技を発動する。


俺の背後から5メートルを越す巨人の両腕が現れすぐさま変態にその家サイズの右腕でパンチを繰り出した。


「おふぅん♡」


恍惚とした声を出し城壁に音速で叩きつけられる変態。


「あっ、やべ貴族殴っちまった…」


気色悪いからぶん殴ってしまったがあれ先先代辺境伯とか言う上から数えた方が早いくらいの権力持ちだった。


「これほどの遠慮のない一撃を受けたのは久方ぶりだ。危うく逝ってしまうほどの甘美な衝撃だった…。そしてこの身を苛むこの呪いっ…ああ、新たな道が見える!我が探求の深奥に向かう道が!!」


うわぁ…(ドン引き)あれが貴族のしていい顔だろうか?白目を剥き涎を垂らし恍惚とした顔をする筋肉モリモリマッチョマンの老人変態


「ほう、よく魔法使いが使う魔法で作った巨腕による打撃ですか。なかなかの威力ですがそれだけではありませんね。その魔法の真骨頂は触れた相手に呪いを付与する事ですか。ライル様の様子を見る限り『不動』の呪いですか…素晴らしい!戦場において動けぬ敵などただの的。例え巨腕の一撃に耐えられたとしても動けぬ間に袋叩きにしてしまえばいい。良い魔法ですシュバルツ君。君には戦闘の才能がありますよ。」


そんな主人の痴態をサラリと流し俺の魔法を誉める戦闘狂スレイさん


「茶番はいいからさっさと兄貴の所に案内しろ。ジジイはほっとけ。あの感じなら当分動かんだろ。」


「それもそうですな。ではご案内いたします。」


そうして俺は変態先先代辺境伯の乱入により阻まれていた要塞に足を踏み入れた。


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