11話

「ふわ〜。」


夜明けと共に目が覚めた。窓の外に広がる光景は日本と違い、大勢の人々が活動を開始していた。


この世界では人間の生活は日の光と共にある様だ。


街には街灯の様な物があったが、原則は日の光が沈めば大体の人は寝静まる様だ。


起きてまず行ったのは召喚獣達の確認。昨日数多の冒険者を打ちのめしていた様だが、加減をミスっていないかが心配だったからだ。


まずスプリガンと視界を共有する事にした。


すると俺と同い年ぐらいの少年と戦っていた。だが手加減しながら戦っている様だ。小人状態(120cm)で錫杖を武器にして試合ではなく指導を行なっている様だ。


ウィルオウィスプもスプリガンと同じように火魔法の使い手に魔法の指導を行っていた。


次にジェヴォーダンの獣だが、冒険者と鬼ごっこをしていた。ただし普通の鬼ごっこではなく、冒険者が鬼(ジェヴォーダンの獣)に捕まると地面に頭から埋められる様だ。訓練場の端に大量の犬神家ができていた。どうやら新人冒険者の体力訓練の様だ。


それを見ている上級・中級冒険者達は酒を片手に新人冒険者の惨劇を肴に何分持つかで賭けをしているようだ。


最後に一番の問題児であるブギーマンだが、意外な事に子供達と遊んでいた。子供の躾に使われる存在のくせに何故仲良く遊んでいるのかわからないが、問題がなさそうで一安心。


(目覚めたか召喚主よ。言われた通りに人間の訓練相手を続けている。それとブギーマンの事は気にするな。ああさせておくのが奴にとっても、召喚主にとっても良いだろう。)


頭の中に響くスプリガンの声。どうやら俺が起きて視界を共有した事に気づき、俺が起きたのがわかったらしい。


(わかった。そのまま相手を続けといてくれ。)


スプリガンに指示を出し、ベッドから降り、部屋を出る。


すると下から何やら良い匂いがしてきた。


匂いに食欲を刺激されたせいか、腹が盛大に音をたてる。


「シュバルツ、起きたなら早く降りてこい。」


階下からロックさんがこちらに呼びかけてくる。


「なんでわかったんですか?足音は極力消してたんですが。」


階段を降りながら疑問をぶつける。


「足音消しても、腹の音を隠せてないからな。それに完全に音を消さん限り俺の耳からは逃れられん。つかなんで足音消してんだ?」


「いや〜、なんか癖でやってしまうんですよね〜。」


小さかった頃親に気づかれずに背後に忍び寄り驚かすのが楽しく、友人にもよくやった。


何よりも驚かした後のじゃれあいが何より楽しかった。


そう。楽しかったんだ…なのになのになのになのになのになのになのになのになのに何故?何故世界はいつもいつもいつもいつもいつも……


「急に辛気臭い顔しやがって。どうかしたか。」


ロックさんの声に沈んでいた意識が浮上する。


「いや、少し昔を思い出しまして。」


「そうか、まあとりあえず座れ。もう少しで飯の時間だからな。」


着席を促され椅子に座る。正面には山賊フェイスのロックさんと、その子供であるザック君が座っている。


「おはようザック君。体は大丈夫かな?」


「お、おはようございます。体はだいぶ良くなりました。」


まだ幼いザック君は初対面の相手には緊張してしまうか。


「そっか、それは良かった。また調子が悪くなったら直ぐに教えてね。直ぐに治してみせるから。」


「は、はい。わかりました。」


う〜ん。まだ硬いなぁ。まあ初対面だもんなぁ。緊張をどうにかすれば普通に接してくれるかもしれん。


「ロックさん。今から魔法使いますので驚かないでくださいね。」


「あ?まあいいが危険な魔法は使うなよ。」


許可をとったし早速やりますか。


『汝は富の獣。額に燃ゆる石炭宿す汝、今ここに我が魔力を糧に現れよ。』


『召喚・カーバンクル』


ザック君の頭上に現れる魔法陣しかしそのサイズは30cm程しかなく今までの中で一番小さい。


「え、えっ何ですか?」


混乱しているザック君。そして魔法陣から召喚獣が出てくる。


出てきたのは赤い体毛と額にルビーを持つ獣。見た目はリスとウサギを足して割ったような見た目だ。


俺の想像通りのカーバンクルが出てきたが、一点だけ想像と違うところがあった。


今も懸命にパタパタ動かしているが、背から翼を生やしていた。


だがどうやら翼を持っているが飛べる訳ではなく、落下速度を抑えるぐらいにしか役立っていないようだ。


カーバンクルはゆっくり落下していきザック君の膝の上に着陸した。


「キュー。」

(何したらいいの?)


(お前が今乗っている子と仲良くしてくれ。頼むぞカーバンクル)


鳴き声を上げ俺を見てくるカーバンクル。召喚獣とのパスで何をしたらいいのか聞いてきたのでザック君と仲良くするように伝える。


「キュ?」

(仲良くするだけでいいの?)


仲良くするだけ?そんなわけがないだろう?


(んなわけないだろ。その子を守護しろ。俺の恩人の子だ。何があろうと守り抜け?)


語気を強め念を押しておく。気を強めたせいか背後から黒いモヤが一瞬溢れ出す。余計なこと言ったらブギーマンの玩具にしてやるからな。


「キュ!」

(わかった!)

その返事に満足して笑みを浮かべると、威圧代わりに出していた黒いモヤも消える。


「ザック君、その子はカーバンクル。無害なやつだからぜひ仲良くしてやって。」


「キュ!」

(よろしく!)


「か、かわいい。」


恐る恐るカーバンクルに触るザック君。微笑ましい光景に心が癒される。


「んじゃ全員揃ったし飯にするか。ああそれとシュバルツ。飯食ったら兄貴のとこ行くからな。」


「わかりました。」


そして目の前に広がる昨日より多い料理の数々。


え?何で増えてんの?5人前ぐらい増えたんだけど?ザック君そんな食うの?病み上がりなのにそんな食うの?


いやこれは挑戦なのだ。自分の胃袋に対する挑戦なのだ。ならば全身全霊で挑むまでよ!




〜1時間後〜




「うぷっ。」


「お前無茶して飯を突っ込んだだろ。まあ出されたもんを残さず食おうとする心意気は買うがな。」


なんでこの人は10人前食って平気そうなんだ?てか病み上がりのザック君ですら俺より食ってたんだけど?なんなの血筋なの?大食い一家なの?


「お、シュバルツ見えてきたぞ。あの城が兄貴の家だ。」


ロックさんが指差した方向を見るがそこに城は無くあるのは、壁に囲まれた要塞である。


「ロックさんどれの事ですか?要塞なら見えますけど城なんてないですよ。てか何で壁に囲まれた街の中にさらに壁に囲まれた要塞があるんですか?」


「シュバルツ。その要塞が兄貴の家だ。それにあそこは外壁が突破された時に避難所の役目を果たすから壁に覆われてんだ。元は城だったんだか俺の爺さんが「見栄の為の城など辺境にはいらん。我らに必要なのは民を守る要塞だ」とか言って改修に改修を重ねて今の形になったそうだ。」


「へぇー。良い領主様だったんですね。お爺さん。」


「最近は上裸で街を走り回って衛兵に捕まってたがな。」


それで良いのか元領主よ。てか貴族をしょっぴくこの街の衛兵凄いな。


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