第9話
「ギルド長、貴方は組織の長であるにも関わらず、自分の行いで生じるギルドの被害、街の人々に及ぶ迷惑を考えず、自らの欲に従った結果、魔物の大規模襲撃が始まったと思った人々が避難を開始しようとし、それを止めるために苦労した辺境伯閣下に向かってあろうことか「すまん、忘れてた!」などとふざけた謝罪ができましたね?」
どうしてこうなった。俺の頭の中は今それでいっぱいになっていた。
何故俺は土下座をしながら頭を赤髪の優男に踏みにじられているギルド長の横で正座しているんだ……
それは今から2時間前……訓練場から退避した直後、訓練場から絶え間ない轟音が聞こえてきた。それはこの街アルボル全域に響いていたらしく、街の人々は魔物の大規模襲撃と勘違いをし、戦力にならない住民は避難を始め戦闘能力を持つ者達は轟音の発生地たる訓練場周辺に集結した。
そこに現れたのが今俺の横でギルド長を踏んでいる副ギルド長ことアグレス・フランメさんである。
アグレスさんはいつのまにか退避していたアランさんから事情を聞いており、俺に召喚獣の事を聞いてきた。
アジダハーカの能力の一部を説明し、伝わってくる感情からして多分1〜2時間もあれば満足して送還されることを説明した。結果魔物の大規模襲撃を前に貴方の様な貴重な戦力を確保できたことは僥倖だったと言ってきた。
説明の後、アグレスさんは辺境伯の所を事態の説明に行き住民に避難の必要はない事を伝えていた。
その後アジダハーカが送還されたのを感じた俺がその事をアグレスさんに伝えるとアグレスさんは俺に少し待っていてほしいと言いどこかに向かった。
10分程でアグレスさんは人を1人連れて戻ってきた。緑色の髪を持つ中肉中背の穏やかな顔をした男性は俺を見るなり目を見開きこちらに近寄ってきた。
男性はフルストゥ・フォン・アルボルと名乗り甥を救ってくれてありがとうと言ってきた。
なんとロックさんは実は辺境伯家の次男であったらしい。次男である彼は自分なりに街の役に立つ方法を考えた結果、冒険者として10年武者修行の旅に出た後街に戻り衛兵になったそうだ。
因みにミーシャさんとは盗賊から救ったのをきっかけに出会ったそうだ。どちらかと言うとあの人の方が盗賊顔だけどなぁ…と思ったら口に出ていたらしく辺境伯に笑われた。
そんな話をした後訓練場に向かい、満足そうな顔をして倒れていたヴェルトさんにアグレスさんが魔法を叩き込み、起きたヴェルトさんが辺境伯の「何故報告してからにしなかったんだ?」と言う疑問に「すまん。忘れてた!」と答えたヴェルトさんにキレたアグレスさんによるお説教が始まり、その中で召喚師が召喚した召喚獣により、街又は無辜な民に被害が出た場合は普通に犯罪であるが今回はギルド長に命令されてやったためお咎めはなしにするが、ギルド長の横で一緒に反省しなさいと言われ今に至る。
「なぜ貴方は毎度毎度事後報告なんですか?いつも言っていますよね、事前報告さえしていれば多少の制限はつけますがある程度は自由にしていいと言っているにも関わらずな・ん・で報告できないんですか?貴方のその無駄に大きな頭にはゴブリン以下の脳みそしか詰まっていないんですか?」
アグレスさんの口から流れる様に罵倒が溢れている。それを受けるヴェルトさんの顔は地面にめり込みつつある。ヴェルトさんの顔を中心に地面に放射状に亀裂が走っているとこから凄まじい力で踏まれているのが伺える。
「アグレスさん。流石にやりすぎじゃないですか?ヴェルトさんの顔が潰れるんじゃ…」
「心配無用ですよ。この人は過去に剛乱竜の拳を受けてもピンピンしてましたからね。この程度ではどうってことありませんよ。シュバルツ君はもう立って貰っていいですよ。反省したようですし。」
正座から立ちあがろうとするが足が痺れて立ち上がる事ができないので、足を崩して痺れが治るのを待つことにした。
「アグレスさん、俺って冒険者登録のためにヴェルトさんに色々やらされた訳ですが、俺は問題起こしたから無理ですか?」
今の今まで忘れていたが俺は冒険者になるためにココに来たんだ。その為に色々やった訳だが、その結果を判断するギルド長はもはや地面に埋没してしまったため、副ギルド長たるアグレスさんに聞くことにした。
「安心してください。今回の事に関してはギルド長の命令に従っただけの貴方に罪はありませんので。私の特権で10級からではなく9級から始められる様にしておきます。ギルド証は受け付けで受け取れる様に手配して起きますのでこの後に取りに行ってください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
これで問題なく冒険者になれるな。でもなんか忘れてる気がするんだが…そうだ金だ!
「アグレスさん、ギルド長に俺の召喚獣を訓練に使う代わりに報酬を貰うと言う話をしてたんですが、どうしたらいいですかね?」
金のない俺としてはこの話を逃す手はないんだが、実質このギルドのトップがアグレスさんだとわかった今、ギルド長との口約束は信用できない。
「その召喚獣と言うのは、その後ろの3体のことですか?」
さっきから空気を読んで俺の後ろで静かにしていた3体に目を向けるアグレスさん。
「そうです。右から順にブギーマン・ウィルオウィスプ・スプリガンです。この3体でアランさんとタメ張れるぐらいの強さです。」
「ほう…あの5級上位のアラン君とですか。強さは問題なさそうですが、どの個体も人型に近いのが少し残念ですね。」
少し残念そうにするアグレスさん。このまま不満を持たれたままでは金が手に入るか怪しくなってしまう!
「人型以外も召喚できるんで安心してください!ただ俺が同時召喚しておけるのは多分5体が限度っぽいんで訓練に提供するのは4体で勘弁してください。」
さっきアジダハーカを召喚している時になんとなくだがあと1体が今の限界だと言う事と、神、主神クラスを呼ぶのは不可能な事が分かった。
マイナーな力の弱い神なら相手の意思次第だが召喚できない事はなさそうなんだが、主神クラスは無理っぽそうなんだよな〜。『無差別召喚』とかなら運次第で召喚できるんだが、実力が足りないのもあるが、何かが足りない感じがするんだよな。
「それはそれは…素晴らしいですね。訓練の話は逆にこちらからお願いしたいぐらいですね。」
「てことは、契約成立ってことでいいんですかね?」
「ええ。よろしくお願いしますよ。シュバルツ君。」
アグレスさんとガッチリ握手を交わし契約が成立した。これで金欠からはおさらばできる。
「ナニィ?さっきの多頭龍以外にも面白いのがいんのか!?」
「貴方は少し地中で頭を冷やしなさい。【大地の抱擁】」
ギルド長の真下の地面が割れその中に落下していき、数秒後地面が閉じた。
「え…これは流石に死んだんじゃ…」
「大丈夫です。そのうち掘り上がって来ますよ。それでも頭が冷えていなければ今度は空の旅に出てもらいますが。」
この人だけは怒らせてはいけないな。心に刻みこんでおこう。
「今日の所はもう帰って大丈夫ですよ。ただ魔物の
「わかりました。鍛えて貰えるなら俺としても否はありません。よろしくお願いします。」
アグレスさんと契約書がわりの握手を交わし、ロックさんの家に戻ろうかと考え、その前に仕事をこなすことにした。
『汝は獣、悪魔の名を持ち、罪と罰をその身に宿す餓狼はいつ如何なる時も貪欲なり。』
『召喚・ジェヴォーダンの獣』
魔法陣が展開され中から現れたのは3メートル程の狼の様な獣。
赤毛の体毛を生やし、頭部から背中に向かって黒い毛がラインの様に生え、その口から一対の犬歯がサーベルタイガーの様に伸びていた。
俺に擦り寄ってくるがサイズがでかいためにのしかかられてしまい顔を舐められる。
「ふむ、見たところダイアウルフの亜種にそっくりですが、感じる圧力は最低でも6級以上ですね。しかも獣型、実に素晴らしい。」
「コイツと後ろの3体にはアグレスさんの指示に従う様に命令しといたので好きに使ってやってください。」
ジェヴォーダンの獣を押し除け立ちあがる。頭を撫でてやると尻尾を振って嬉しそうにしている。
こうしているとコイツが恐ろしい逸話を持つ怪物だと言う事を忘れそうだ。
「お言葉に甘えてそろそろ帰らせて貰います。ロックさんにいらぬ心配させるのは本望ではないので。」
「そうですか。依頼の報酬は貴方のギルド口座に振り込んでおきますから確認しておいてください。それではまた明日。」
アグレスさんに帰る事を告げその場を去る。その後ギルドで試験を見ていた人達から勧誘を受けたが、どうにかやり過ごしロックさんの家に帰った。
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スキル名『煉獄炭の残火』
生前の彼は極悪人であった。怨恨の末に死を迎えた彼は冥界にて彼に判決を行った聖人を言葉巧みに騙し2度目の生を得た。
しかし死すれどその本質は変わらず悪行の限りを尽くした彼は死後冥界にて聖人に煉獄へと放逐された。
煉獄にて永久に彷徨い続ける彼を哀れんだ悪魔は彼に煉獄の炎の中から燃ゆる石炭を光として与えた。このスキルはその石炭の残火。ほんのちっぽけな火花を現世に持ってくる技。
忘れてはならない。この炎は彼の導にして残り僅かな希望の光なのだと。
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