第8話

「そこまで。試合終了だ。」


ギルド長の声で試合が終わったことを理解する。それと同時に召喚獣達を後ろに下げる。


「この勝負、時間切れによりシュバルツの勝利とする。」


その言葉で力が抜けてその場に座り込む。たったの10分、それも自分は指示を出していただけだが、緊張感のせいか果てしなく長かった様に感じた。


「まさか負けるとは思っていなかったよ。いい経験をさせて貰った。感謝するよ。」


そう言いながら俺に手を差し伸べてくるアランさん。その手を掴み立ち上がる。


「いや、ある意味俺はズルした様なもんなんで、申し訳ないと言うか…」


そう本来ならアランさんが勝っていたのだが、ブギーマンの『恐怖の象徴』、スプリガンの『妖精の躰』の前では、召喚獣を時間内に倒すことができなかったのだ。


途中、全滅の危機があったのだが、ブギーマンが「お前貴様君あんた彼奴みたい奈々菜々七777イイ子ちゃんチャンぢゃんニニニニ僕我俺小生某ワシガガガガガガ負けるものかよよややヨヨヨやヨヨヨォォォ!!」と謎にハッスルしだし脅威の粘りを見せ、立て直す時間を稼いでみせた。


その上ブギーマンは『恐怖の象徴』の能力でどれだけ殺られても即座に復活する。その不死身を最大限に活かした捨て身の猛攻を常に受けていたのが、アランさんにとっては負けた要因の1つだろう。


「気にする事はない。君は何一つとしてルールに抵触する行為はせずに僕に勝った。その事実をまず誇るべきだ。決して自分を卑下するものじゃないよ。」


爽やかな笑みで素晴らしい言葉を放つアランさん。とても嬉しいが後ろで待機中のブギーマンの殺意が倍増したんだが…


「しっかしまさか勝っちまうとはな…3分持ちゃぁ上出来だと思ってたんだがコイツら中々に強えな。」


ブギーマンの背中を叩きながらそんなことを言うギルド長。ブギーマンは良い子に対するヘイトが高いから、ギルド長がその顔通りの悪い子ならかなり気に入られると思うが果たして…


「わるいワルイ悪いここココにニニ褒め褒めホメられられらララLara縷縷南南てってっ憂憂憂嬉しししししししぃぃぃ!!」


狂喜乱舞するブギーマン。あの感じはかなり気に入られたっポイな。


「全く。言動から所作まで存在そのものが喧しい奴だ。」


あまりの五月蠅さにため息をつくスプリガン。


(もウ少シ静カニデキナいモンカねェ、俺ミタイによ。ヒヒヒヒヒヒ。)


ウィルオウィスプも俺がブギーマンを割と自由にさせているのを見て本性を出してきた様だ。


「なあシュバルツ。コイツら他の奴らの訓練に使ってもいいか?金なら払うからよ。」


「もちろん協力させて貰いますよ。それでこの街のためにらなるなら。」


金も貰える上に人のためになるなら受けない理由はない!


「んで、シュバルツお前にはこれから魔法を鍛えて貰う。剣とか槍の修練は後回しだ。魔法だけで遠近中に対応できるようにすることと、召喚できる召喚獣のレパートリーを増やして貰う。」


ギルド長はそう言いながら試合台の上に上がってくる。


「魔物の大規模襲撃まで1ヶ月しかねぇからな、今日からビシバシ訓練してやる。まずは近接に対応できる魔法を覚えろ。それか適当に作れ。」


ちなみにだがオリジナル魔法は自分で発案し実際に行使できるようになるのは、一般の魔法使いでは一生の間に個人差はあるが0〜3個程である。


理由としては、魔法は行使者の想像力によって形を変える。例を挙げると【火矢】と言う魔法は矢の形をした炎が飛んでいく魔法だが、人によっては大きさや形まで違う上それが槍や剣に変わったりすることもある。


それは行使者が相手を害するのに適した形を無意識の内に魔法に投影した結果である。つまり魔法は行使者の経験、知識により威力・範囲・形状が大きく変わるのだ。


人ができる経験など結局のところ似たり寄ったりである上に魔法は遥か昔からあるため、オリジナル魔法を作ったとしても大体似たような魔法があるため真のオリジナル魔法を持つ物は限られている。


だがこの辺境の街アルボルは普通ではない。魔物の大規模襲撃を抑えるボーデン王国の防波堤であり隣国からの布教襲撃を防ぐ最前線である。


そんな街の冒険者達は他所の冒険者と比べて頭2つ飛び抜けた存在ばかりである上に通常ならありえない出来事がよく起こる街アルボル。


その結果、この街の魔法使いの半数は大体切り札としてオリジナル魔法複数を各自で持っている。


「一応思いついたものがあるんで試していいですかね?」


「なんだあんのかよ。いいぞやってみろ。」


俺を掴んでいた手を離し、やってみろと背中を叩いてくるギルド長。


「んじゃいきますね。【不治なるゲイ・ボウ荊棘】」


魔法を発動すると俺の周りに魔法陣が発生しそこから黒い荊が生え始め、俺を守るように伸びていく。


「ん〜、こりゃ荊か?闇魔法で再現するとは変わった奴だな。まあ問題は強度だが…シュバルツ一発殴るから防いでみろ。」


「え、ちょま、」


静止の言葉を吐く暇もなく拳が俺に迫る。それに対して黒い荊は魔法陣から更に大量に発生し、自らを束ね荊の盾を形成した。


おおよそ人の拳が出せる筈がない爆音をたてながら衝突する盾と拳。


「へぇ。」


「いてぇ、中々硬えな。久々に血が出たわ。」


驚くアランさんと拳に血が滲んでいるギルド長。


「あっ?シュバルツお前その魔法になんか仕込んだな。」


ギルド長は未だに血が止まらない拳を見ながら怪訝な視線を飛ばしてくる。


「よく分かりましたね。この荊によってできた傷は不治の呪いで傷が治らなくなるんですが…よく分かりましたね?」


「たりめぇよ。んな傷いつもなら瞬で治るのに未だに血が出てやがるからな。しかしなんとまぁ、タチの悪い魔法だな。その魔法、触れた相手の魔力も吸うようだし、中々いいモン持ってんじゃねえか。」


ギルド長が血が滲む拳を一度撫でるとそこにはもう傷どころか滲んでいた血も消えた。


「褒められるのは嬉しいっすね。でもまだまだ魔法の数が少ない上に闇魔法しか使えてないから宝の持ち腐れですけどね。」


言葉の通り未だに風と水の魔法を使えていないし、考えてすらいない。


「器用貧乏になるよかマシだから気にすることでもねえぞ。さて次は召喚魔法だ。お前の今召喚できる奴の中で一番強い奴を出せ。」


「急ですね。まあいいっすけど、なんでそんな急ぐんですか?」


魔物の大規模襲撃が近いからどれだけ俺が使えるのか確認したいのはわかるが急かしすぎな気がする。


「魔物の大規模襲撃への戦力確認が理由だが、個人的な理由は慣らしだな。」


「慣らしですか?」


慣らしと言われてもはてさて、何の慣らしなのか?


「いやな、魔物の大規模襲撃の前に勘を取り戻しておきたいんだが、人相手だと全力で試合するとすぐからなぁ、人より頑丈な召喚獣なら俺の情熱を受け止めてくれると思ってな。」


ニヤリと笑みを浮かべるギルド長。その顔は前の世界なら問答無用でお巡りさんに連れて行かれる顔である。


つうかこのオッサンこの顔で戦闘狂ってマジでヤベェ奴じゃん。


「ギルド長の本気を受け止められる人はこの街でもごく少数だし、その人達は大抵要職についてるからねぇ。」


余談だがギルド長の戦闘欲が一定に達すると、事務仕事を放り出し訓練場で冒険者達を相手に試合を始め出す。そこに冒険者の階級は関係なく試合が行われ、それはギルド長の気が晴れるまで続く。その時にギルド長の本気を引き出せた者程苛烈な猛攻に襲われ、最終的に空を舞うことになる。


アルボルギルド名物『跳ね人』である。その光景は大体月に1回は見られ、跳んだ距離が高い程実力が高いため、アルボルの住民は跳んだ距離が高い程あの人は強いんだと理解する。


「召喚するのいいっすけど、召喚獣のせいでなんか起きたらギルド長が責任取ってくれますかね。」


「おう!いいぞ。なるべく強い奴を頼むぜ!」


よし言質は取った。ならば残りの魔力全部ぶっ込んでやらぁ!


この時のギルド長は久々に全力を出せるかもしれない機会にとあることを忘れていた。


この召喚士は先程アダマンタイト製の的をひしゃげさせる程の威力を持つ魔法を放ち、その後5級相当の召喚獣を3体召喚してもピンピンしている魔力お化けだということを。


その召喚士が残りの魔力全てをぶっ込んで召喚する召喚獣が並の存在な訳がないという事をアラン以外理解していなかった。


そして理解していたアランは何も言わずに離れた場所にいたパーティメンバーのミリを高速で回収し訓練場から最速で逃走した。


「しゃあ!やりますよ!」


「おう!頼むぞ!」


『3頭3口6眼にして苦悩・苦痛・死を宿す有翼の蛇よ我が呼び声に応えこの地にてその権能を我に貸したまえ。』


『召喚・アジダハーカ。』


残りの魔力の殆どをぶちこんだからか、激しい目眩に襲われる。目の前に現れる魔法陣。しかしその様子はいつもと違う。先の3体の時は精々一番大きくても4メートルほどだった。


だが今回の魔法陣は10メートル。やべえのを召喚しちまったかもと焦る俺に対してその笑みを更に深くするギルド長。


その顔はもはや一般人がその顔を見たなら、その瞬間に命乞いを始めるレベルの恐ろしさである。


魔法陣から現れるアジダハーカ。その姿は伝承の通り3頭3口6眼、体色は黒紅色であり翼を持ち、そして人の様に二足二腕の龍であった。しかしその大きさは魔法陣の半分もなく思ったより小柄であった。


「「「GYYAAAAaaaaaaa!!」」」


轟音を響かせながら現世に顕現できた喜びを咆哮で表すアジダハーカ。


本人からしたら笑い声をあげたくらいなのだろうが、伝承にて語られる悪龍の笑い声は訓練場にいる全ての人間に凄まじい威力の衝撃波を叩きつけた。


それは召喚士たる自分にも例外なく襲いくる。


「召喚主!我の後ろに!」


(イヒひヒヒ!笑い声デこれカ!『煉獄炭の残火!!』)


「うおひゃヒャ火ゃ火ひゃはハイ這いハ!?」


スプリガンが俺の前で巨大化しその身を衝撃を防ぐ盾とし、ウィルオウィスプが漆黒の炎を前方に展開した。衝撃と黒炎は激突し、衝撃は黒炎を消す事ができず、逆に黒炎にいく。黒炎の範囲外にいたブギーマンは衝撃に巻き込まれた挙句黒炎に突っ込み燃え尽きた。


「ありがとうスプリガン。ウィルオウィスプ。助かった。」


(気ニするナ主人。ソレヨり避難シタ方が良さソウだぞ。オレではアレの攻撃の余波ヲフセギキルノハムズかしそうだ。)


「ウィルオウィスプに同意する。早めの退避をお勧めする。」


ウィルオウィスプの視線の先には睨み合う龍と人。


【召喚主よ、何用で我等を呼んだ?】

【死よ、予測だが目の前の人間と戦えばよいのではないか?】

【ならば苦痛はこの者に破滅を齎せば良いのだな!】


3つの頭がそれぞれの質問を投げかけてくる。


「破滅は齎さなくていいから、その人と戦ってくれ。殺しはなしで。」


【純粋な手合わせと言うことか。承知した。】

【我等には不向きな指示だが善処はしよう。】

【破滅の象徴たる我等に斯様な事を願うとは召喚主は中々の度胸をお持ちの様だ!】


俺の指示で戦闘態勢に入るアジダハーカ。それだけで空気が重たくなる。まるでこの訓練場だけ重力が増した様だ。


「こいつはイイナァ……久々に血が滾ってきたぁ!!」


増した圧力に対し満面の笑みを浮かべ対抗するギルド長


【死たる我を見てこの態度とは、気狂いの類か?】

【苦悩が思うに戦闘狂と言う人種だろう。まあ気狂いの類に違いあるまい。】

【斯様なことはどうでもいい!苦痛たる我を満足させよ!】


3つある内の2つからキチガイ認定くらってるよあの人。しかしまあ双方の放つ圧力のせいで何人か地面でへばっている人もいるな…


「ブギーマン、動けない人を安全な所に移動させろ。」


何もない虚空に指示を出すと空間が滲み燃え尽きたはずのブギーマンが現れる。


「かしカシ菓子菓子カサカサ示唆し駒駒らりりイイィィィス!!」


「スプリガン、ウィルオウィスプ。俺らも避難だ。」


「承知。」


(サッサとトンズラシマすカネ。)


巨大化したスプリガンの肩に乗るとその剛脚を唸らせ跳躍する事でその場を離れる。


【【【精々あがけよ。人間。】】】


訓練場から脱出してもかの龍の声は耳に届いた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル名『妖精の躰』

遠くそしてすぐ隣にいる彼らには普通の武具はあまり効果がない。彼らを傷つけたければ確固たるものでは無く、曖昧なある様でない物を使った武具でなければならない。

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