第7話
「先手は譲るよ。好きなようにくるといい。」
アランさんが朗らかな顔で先手を譲ってくる。様子見なのか、はたまた自身の力への自負からから余裕かは判断がつかない。
「なら、お言葉に甘えましょうかね。」
(スプリガンは正面から特性を生かしながらインファイト、ブギーマンは奇襲、ウィルオウィスプは遠距離からの攻撃に徹しろ)
「わかった。」
「いいひひひいいいよよよ!」
(コクン)
(え、こいつら喋れんの?)
まさか話せるとは思っておらず、驚きで目を見開く。返事が返ってきたのは驚いたがそれよりブギーマンが気になって仕方ない。
だがそんな事を気にする暇はなく攻撃を開始する3体。
迫ってくる召喚獣を見据え思考をまわすアラン。
(見たところあの小人が前衛のようだが、あの体格で前衛をはるのは難しいはず。何かあると見た方がいいな。)
警戒するアランから5メートル程の距離から右拳を構えるスプリガン。
「行くぞ人よ、精々耐えろ。」
拳を振り抜く直前、右手が巨大化し離れた距離が一瞬にして消え剛腕が振われる。
「ラァ!」
「くっ!」
まるで大型の車が正面から衝突したような音を立ててアランさんが吹っ飛ぶ。盾で身を守ったようだが、流石にスプリガンの拳の勢いを殺し切ることはできなかったようだ。
(重い!なるほど。ただの小人ではなく巨大化能力を持っていたのか。)
「ぼぼぼぼクククにもも構ってくれよよよよ!」
(さっきまでシュバルツ君の横にいたはず!いつのまに…)
異様に長い脚をしならせ、アランさんの胴体目掛けて蹴りを叩き込む。
「ふっ!」
しかしそれに反応できないアランさんではなくブギーマンの脚を剣で斬りつける。
(硬い!)
「いい痛いあいいおおおあああ!!」
痛いと叫ぶブギーマンだがその脚には傷はなく、ただ反撃を食らったことに怒っているようだ。
その背後から前方に跳ぶ瞬間、脚を巨大化させその勢いを利用し凄まじい速度で迫るスプリガン。その攻撃を防ごうにもブギーマンが増加させた4本腕で豪雨のごとき連撃をいなすために動けないアランさん。
「背が隙だらけだぞ。」
「『纏雷』」
スプリガンの拳がその背中に届く刹那の瞬間にアランさんが消えた。空をきる拳。
「どこに消え…ガハァ!」
突然腹を切られ後方に勢い良く吹き飛ぶスプリガン。
「いいいいイイヒヒ火火ひひ!は速いねねねええぇぇぇ!!」
ブギーマンが腕をさらに生やし、8本腕を何かに向けて振るい続けている。
(もしかして、速すぎて俺に見えてないだけなのか?)
しかしそう考えなれば辻褄が合う。ブギーマンの言葉からも加速したことに驚いているのが伝わってくる。
(ならば、ウィルオウィスプあれごと焼け。)
俺の意思に反応してウィルオウィスプが小さくそして速い青炎を放つ。
青炎は高速でブギーマンと切り合っているであろうアランさんの近くまで飛ぶと炸裂した。
爆心地に追撃の青炎を放ち続けるウィルオウィスプ。その光景はまるで青い絨毯爆撃のようでどこか幻想的ですらあった。
「ぼぼぼぼボクククくくくゴトゴトナナ七なんてて手テテヒドヒドヒドいいいい!!」
爆撃をモロにくらった筈のブギーマンが俺の横に無傷で立って不満をもらしてくる。
「悪い悪い。俺悪い子だから味方ごと殺りたくなったんだ。」
「ヂヂヂヂャアアァァ〜鹿鹿死死死カタカタ奈々奈々いないなあぁ!!」
ブギーマンを召喚するにはある条件がある。それは召喚主が悪い子であること。『ブギーマン』それは人々の持つ不定形の恐怖を分かりやすい形に変えたものである。世界中様々な地域で語られる存在であり、地域事でその姿形や伝承は異なるが共通しているのは悪い子の元にだけ現れると言う伝承である。
その伝承を召喚獣として召喚した時の能力は主に3つ。それは『闇世獄落』『千変万化』『恐怖の象徴』である。
爆撃されても無傷だったのは1度粉々になった後『恐怖の象徴』の能力で俺の横に復活。そして不満を垂れ流しているのが今である。
「喧しいぞ道化。静かにできんのか?」
吹き飛んだスプリガンが帰ってきた。スプリガンの種族は妖精。その能力の1つ『妖精の躰』。彼に攻撃を通すには特殊な材料で作った武具を使うか、物理的ではなく精神にダメージ与える攻撃しか有効打になり得ない。
(アルジ、ヤツの魂ハ健在だ。気をツケろ。)
頭の中に声が響く。甲高い男の声だ。
(この声、ウィルオウィスプか?)
(是ダ。アルジよ。)
そんなやりとりをしていると爆心地を覆っていた煙が急に晴れた。
「いやはや、まさかこんなに早く『纏雷』を使わされるとは思わなかったよ。」
そこには雷を纏い淡く光る無傷のアランさんがいた。
「ピエロの召喚獣は素早い上に変形するし不死身かな?小人の様な召喚獣は巨大化とダメージの軽減。黒い人形の召喚獣は高火力且つ、物理的、精神的なダメージを与えてくる青い炎。本当に初見殺しな召喚獣達だね。僕も危うく殺られるところだったよ。」
「そんな涼しそうな顔で言われても説得力ないですよ。アランさん。」
そう指摘すると苦笑しながら頬を掻くアランさん。
「本心なんだけど…そうとられても仕方ないか。」
「そうですよ。んじゃ第2ラウンド始めましょうか。」
宣言と同時にブギーマンの腕が16本に増え、スプリガンは始めから巨大化し4メートル程になり、ウィルオウィスプはランタンに灯る炎が青から蒼に変わっていく。
「これからが本番みたいだね。僕も気を引き締めないとね。」
アランさんが纏う雷がより多く明るくなる。
「いいい良イイ子ここコはは死死死死にサラサラせせせえええぇぇぇあアああ!!」
ブギーマンの罵倒で第2ラウンドの火蓋が切られた。
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スキル名『恐怖の象徴』
それは人々の恐怖の象徴。人がいる限りそれが滅びる事はない。自らを認知する存在が多いほどその力は増大していく。このスキルを持つ存在がいたなら気をつけなければならない。それは人に理解できるものではないのだから。
それは笑う、
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