第12話 第二夫人 照美

わたしが樫山の家にきたときには、大奥様とともに二人の奥様が旦那様に仕えていました。

第二夫人、石原照美様。

大奥様は他の夫人についてわたしには特になにも話しませんでした。

けれど

この家を語る上で、大きな役割を果たしていくおふたりを

抜きにするわけにはいきませんので、わたしが知っていることを書いていきましょう。


照美様、かつて商売上手な夫、野村某氏のもとで幸せに暮らしていました。

美人で

しっかり者、良い商いをする夫に似合いの妻と評判で店はよく繁盛していました。

ところが、その野村氏が流行り病であっけなく亡くなったのです。

照美様は

お店を人に譲り、夫の遺産で空虚な日々を過ごしていました。

それまではよく夫と遊びに行っていたのが、ぱったりと外へも出なくなり。

周りの者たちの

心配は尽きなかったそうです。

名家では妻の後追いが美徳とされていましたのでね。

月日が

過ぎても照美様が塞ぎ込んでばかりなのを見兼ね、引っ張り出したのがあるご婦人でした。

とある宴で、まだお若い照美様の新しい恋を応援すると張り切っていたとか。

照美様は

全く乗り気でなかったところ、偶然出会ったのが樫山の旦那様。

旦那様と照美様は一目で恋に落ちたのです。


以来おふたりは時間があると逢瀬を重ねました。

二つ年上の照美様が、姉のように旦那様を可愛がる

愛し合い方でした。照美様の顔だちは、特に小作りで整った目鼻が人目を引くのです。

旦那様は

性に貪欲な方。玄人の女人ともいくらでも遊んでいましたが、さすがに人妻との経験はなく…

それに近い照美様には随分興をそそられたのでしょう。

やがて離れがたくなったおふたりは、照美様を

第二夫人として樫山家に迎えるというかたちで、その恋を成就させたのです。

大奥様は

一言も苦言を呈することなく、照美様に立派な離れを用意しました。

樫山家に嫁いだからには当然いつかはあることと

割り切っても、妻としては苦しいことだったと思います。

そんな照美様と第三夫人の立花安恵様は、わたしが

樫山家に来た当初から、こちらが気になって仕方が無いご様子でした。

ある時、お稽古のお約束の時間に参りますと、

急なご用事で大奥様が手が離せない時がありました。

お支度をして待っていたわたしに、すっと近づいてきたのはこの奥様方でした。

召使いたちに

見られるのを恐れたのでしょう、ちょっとだけといいながら、物置部屋の方へと連れていかれました。

驚いている

わたしに、おふたりは両手を差し出しわたしの手をしっかりと握ると

「来てくれてありがとう。本当に本当に助かったわ!」

なんのことでしょう?と戸惑うわたしに、大きな目を

きらきらさせて話しだしたのは、第三夫人の立花安恵様でした。






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