第15話 終点

 勇者たちはロウドーンで行われた儀式を見た後は町の人達に借りたテントで一泊させてもらっていた。


 そして翌朝になり勇者と王女様は馬を連れて本来の目的地であるエルガトへと向かうことになる。


「王女様、準備ができるまでに馬を町の入り口に待機させておきますね」


「はい、すいません。よろしくお願いいたします」


 勇者は町の人に預かってもらっていた馬を町の入り口まで連れていき馬におとなしく待つように指示してから王女様がいるテントまで戻る。

 勇者は昨日の儀式で見た空を見上げる。

 いまだに勇者の中にはあの光景が鮮明に残っている。

 ただ勇者にはそんなことを考える間もなく町の人々が勇者を見つけては声を掛けてくるので勇者も一人一人と返事をしていく。

 それは王女様がいるテントまで続いた。


 王女様も準備を終えたので一緒に馬を待機させている町の入り口まで向かう。


 勇者と王女はロウドーンの町の人々に見守られながら用意した馬に乗りロウドーンの町を出てエルガトの町まで向かって行く。


「勇者様、ここから先は何も起きなければ本来の目的であるエルガトの町へ向かい伝説の勇者のことについて知る人物を見つけるのですよね」


王女様は2人がエルガトの町に行く本来の目的を確認する。


「はい、エルガトの町まではそこまで遠くはないのですぐに到着すると思いますがこの前みたいに盗賊集団に合わなければ良いのですが……」


 勇者はまた厄介ごとが起こることを考えていたが道中は何事も無く険しい道も馬が難なく通ってくれたおかげで勇者たちは無事にエルガトの町には早々に到着することができた。


 エルガトの町は周りを壁で囲まれており魔物の襲撃を受けないようになっている。

 今となっては魔物がいないので特に意味は無くなっている。


 勇者たちは町に入るための入り口となっている門の手前で馬を降りて、門を通ろうとする。

 門には二人の門番がいて一人はひげを生やした男でもう一人は小さくて丸い水色の体をしたスライムがいた。


 勇者と王女はそのまま門を通ろうとしたがもう一人の門番の存在に目を疑い足を止めた……。


「ス……スライム!?」


 勇者が大きな声で驚くとスライムはびっくりして体をプルプルと弾ませる。


「わわっ……僕は悪いスライムじゃないよ!」


「いや……それは聞いてないけど……」


 勇者はこの光景を見て正直に驚いている。

 

 魔物がまだこの世界にいたことに……。

 

 するともう一人のひげの人が勇者とは気が付いていないが勇者に説明をしてくれる。


「いや、すいません。どうやらこのスライムは魔王が消滅したときに悪意を持っていなかったって理由でこの世界に残ってしまったらしいんですよ。そんなに悪い魔物でもありませんしこの世界のために役に立ちたいっていうものだからここで門番の仕事をやってもらってるんです」


 ひげの門番に説明してもらった勇者だがまだ現実を受け止めきれなかった。


 そんな中、王女様は魔物にどうこう関係なくそのスライムに近づこうとする。

 王女様が近づくとそのスライムは少し王女様に恐れたのか近くの物陰に隠れて体を震わせている。


「これが魔物なんでしょうか?魔物にしてはずいぶんとかわいらしいように見えますが?」


「まぁ、一魔物ではありますね……」


 スライムが物陰に隠れて体を震わせているものだからこちらが悪者の様に感じてしまう。

 今まで魔物に対してこんな感情を抱いたことがなかったためどこか不思議な感じがする。


「王女様……あまり詰め寄るのもかわいそうですし行きましょうか」


「そうですね」


 勇者と王女様は馬を連れて門を通っていく。


 物陰に隠れていたスライムは門を通っていく勇者の後姿をただじっと見つめていた。

 それを見ていたひげの人がスライムに言う。


「いいのか?あの勇者様に何も言わなくて」


 このスライムはかつて強い魔物達にいじめられていた。

 そんなスライムがいつものように強い魔物にいじめられているとそこへある人物が現れその強い魔物達を倒してスライムを助けてくれた。

 その人物は傷ついていたスライムにを回復させると何も言わずにその場を去ろうとした。

 スライムはその人物に名前だけでも聞きたいと思いその人物に名前を教えて欲しいと伝えるとその人物は……。


『名もない勇者さ』


 それだけスライムに言うとその名もなき勇者はその場を去っていった。


 スライムはその時に助けてもらったお礼を言いたかったが、そのことを言い出せなかった。

 しかし勇者の後姿を見つめていたスライムはそれでいいと思っていた。


「いいんだよ、僕も勇者様と同じように誰彼構わずにみんなを助けられるような存在になると決めたんだ!」


 スライムはそう言うと胸を張って自分の仕事に戻る。



 門を超えた勇者達は馬を預けると町を散策していた。

 エルガトの町は人口が多くいつも人で賑わっていたが今日は一段といつもより賑わっていた。

 

「勇者様!エルガトの町は大変にぎわっているのですね!」


 町の市場や酒場までいろんなところでこの町は活気づいていた。


「そうですね……この町で伝説の勇者の情報を仕入れるのは簡単にはいかなそうですね……」


 勇者達は町のあちこちに行き伝説の勇者に関する情報について知っている人物について町の人達に聞いて回った。


 町の中を聞いて回っているときは誰も自分たちが勇者と王女であることに気が付いている人はいなさそうだった。

 それでもこの町の人々に聞いて回るとなるとどうしても相当な時間がかかってしまう。



 勇者と王女の二人は町の人々に聞き込みを行っていたが王女様の方に疲れが出始めてきたのでいったん宿を借りてそこで休憩をすることになった。


「はぁ……歩き回ってしまい疲れてしまいましたわ……それに伝説の勇者の知っている人の情報も得られませんでしたね」


 王女様は宿のベッドに腰掛ける。


「そうですね、やはりこの町でそのことを知っている人はわずかな人しかいないということですかね…………自分はこの後、疲れが癒えるようなものを買ってきますので王女様はここでお休みになられていてください」


 王女様は申し訳なさそうに勇者に一礼する。

 勇者は再び伝説の勇者のことを知る人の情報を得るのと王女様のために買い出しへと向かうことになった。


 

 エルガトの町を見渡せる高所に一人の兵士がいた。

 その兵士はこの高所の場所から町の危険を監視しているのが仕事だがこの兵士は高所の床に寝そべり空を眺めていた。

 この兵士は魔王が倒される前から見張り役であり門の上から魔物の軍が攻めてこないかを見ていた。

 当時はロウドーンに魔物が攻めてきたということもありエルガトの町の防衛に関してはとても厳重なものとなっていたが今となってはとても平和だ。

 いつ来るかわからない魔物の軍勢を門の上から見張る時は常に頭の隅にもし数えきれないほどの軍勢がエルガトの町へ押し寄せてきたらどうしようかなどの不安を持ちながら警備をしていたものだ。

 現在の子のエルガトの町は魔王を討伐してくださった勇者様のおかげで警備の者たちも暇になってくつろぐほどに平和だ。


 兵士がどうでもいいことを考えながら空を見ていると兵士の後ろから誰かしらの人影が見える。


「やっぱり町を見下ろすにはここが一番だよな~」


その人物は兵士には気が付いていなかった。

(この人どうやってこの高所まで来たんだろう?)


 兵士は不思議そうにその人物を見つめるとその人物が兵士がいることに気がついて声をかけてきた。


「あのーすいません、少し聞きたいことがあるんだけど……」


 兵士はこの人物の顔をみてどこかで見たような気がしたと思った瞬間にその人物の正体を思い出した。


「ゆ……勇者様!?」


「はい勇者ですけれど?……」


 兵士は慌てすぎて思考が停止する。


「……え~とっなぜここへ?……」


 兵士が恐る恐る勇者に問いだす。

 兵士の頭の中には先ほどまで寝っ転がっていた姿を勇者様に見られてしまったから何か言われるのではないかと思っていた。


「まぁ…この町には情報を手に入れたくて、それでここから少し町を見渡してみて知っていそうな人を見つけるためにここにね……」


 兵士は少し安堵の表情を見せて勇者に質問をする。


「それで勇者様、手にしたい情報とはいったいどのようなことで……もし私の知る限りではお教えいたしますが……」


「あぁ実はこのエルガトの町で”伝説の勇者”について何か知っている人がこの町にいると聞いてね……先ほどからその人のことを見つけてはいるんだけれどもなかなか探せなくてね……」


 その兵士は”伝説の勇者”という言葉を聞いて口を開けたまま固まっていた。

 

「さすがに、この町の人達からそのことについて知っている人を探し出すには簡単にはいかないよな……」


 すると勇者は改めてこの高所から人が集まっていそうな場所を見渡しだすと兵士が口を動かし勇者に伝える。

 

「……勇者様は'伝説の勇者'は神の子と言われていたことをご存知ですか?」


 勇者は兵士の口から勇者が知らない伝説の勇者に関することが出てきたことに驚きその兵士に目を向ける。

 兵士は真面目に勇者の顔を見ている。


「その話……詳しく聞かせてもらってもいいか?」


 勇者はエルガトに来て初めて伝説の勇者のことを知っている人を見つけ話を聞くことが出来たのだった。

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