第14話 光の先

勇者と王女は【災いの洞窟】で起きた一件を終えてロウドーンの町へと訪れていた。


 この町は勇者が召喚される前から魔物たちの襲撃によって壊滅した…………。


 ロウドーンの町に住んでいた人々は隣のエルガトの町まで避難することとなりその際にエルガトへ逃げる人々は様々な物や形に残らないものまでをもロウドーンに残していくことになった…………。


 現在は魔物も消滅したことによりロウドーンの町周辺も安全になりエルガトの町からロウドーンの町まで訪れる人も多くなり町の人達は町のあちこちにテントを張り町の復興に向けて頑張っている。


 

 そして盗賊の一件がありエルガトに向かう前にこの町で泊まることにした勇者と王女もこの町の復興に向けてせっせと働いていた。


「ゆ……勇者様⁉そろそろ休憩をされては?」


 勇者は結構な重さの石材を二つ両肩に掲げて運んでいると筋肉質の男に声を掛けられる。

 その男も勇者と同じ大きさの石材を一人で一つ運んでいた。


「じゃあここの石材を全部持って行くからそしたらみんなで休憩にしようか!」


 筋肉質な男は目を丸くして答える。

 

「わっ……分かりました……。」

 

 勇者は町の人々とせっせと石材を所定の場所へと運んでいる。

 勇者が石材を所定の場所まで持ってきて肩から降ろすとズシンと地面から重たそうな音と振動が響く。


「ふ~…結構量あるな」


 所定の場所には結構な量の石材が置かれておりちょうどそこに勇者ぐらいの背丈と筋肉質な男二人が一つの石材の両端を抱えながら重たそうに持ってきて置き場に置いていってはまた石材を二人で取りに行っている。

 よく見れば他の人達は基本的に二人で一つの石材を運んでいるようだ。

 そうなると勇者はほとんどの丸太を一人で運んでいたことになるわけだが…………。

 勇者は暑さのせいかあまり考えたくなく何も考えずに次で最後になるであろう石材を運びに向かった。


 勇者が最後の石材を運び終えると早めに仕事が終わったため食事がまだ完成してないので先ほど石材を運んでいた連中で急遽、腕相撲大会が開催された。

 難なく勇者が筋肉質の男に勝利し優勝するとちょうどのタイミングで食事ができたらしいのでみんなお腹をすかせながら食事を提供しているテントへと向かっていった。


 勇者はトレイに盛られたカレーを手にテント近くの木陰ができてる木の下で座りカレーを食べる。

 口にした瞬間、カレーの辛味と旨味が口全体に広がる。

 正直この世界でこれほどうまいものは食べていなかったかもしれないと思えるほどだった。


「勇者様、お口に合っていましたでしょうか?」


 勇者の背後から突然王女様がやってきて勇者の隣に座る。


「私も調理させていただいていたのですが上手く調理できたかが不安でして……」


「はい、とてもおいしいですよ。お代わりを頂きたくなるようなおいしさです!」


 王女様は笑顔で喜ぶとカレーを一口食べる。

 

「これからも世界がこのように平和であり続ければ喜ばしいですね」


 すると突如として吹いた風によって生じた木の葉の隙間から照らされた光が王女様の笑顔を華やかに照らす。


 勇者はその瞬間にタダルの町の宿で王女様が言っていた言葉を思い出した。


 『最後の瞬間まで側にいさせてください』


 勇者はその言葉をふと思い出すと心が揺らぐ。

 その言葉を聞いた時から勇者は心の奥底で思い考えていたことがある。

 

 たぶん自分が思っている最後と王女様の思う最後の瞬間というのは互いに違うものであると。


「王女様、タダルの町の宿で王女様が自分に言っていたことを覚えていますか?」


 王女様は少し上を見上げ宿の出来事を思い出す。


「はい、覚えています。あの時のことを思い出すのは少々お恥ずかしいですが……」


 勇者も続きを話す前に少し覚悟を決めて改めて話の続きを王女様に話す。


「自分と王女様が思っている最後の瞬間というものは互いに違うものだと思っています。それでももし自分がこの世界から去る時が来た場合は王女様が側にいてほしいです……」


「これから先、何が起ころうとも一緒にいてくれますか?」


 勇者は真剣な表情で王女様にプロポーズ紛いな発言をすると王女様が少し顔を俯かせて答える。


「勇者様……ただでさえこの町は日差しが暑いのに熱い告白をされても涼もうにも涼めませんよ…………」


 勇者も王女様にそのように言われると次第に恥ずかしくなってくる。


「……タダルの町で王女様が言っていた時も同じような気持ちでしたよ……それよりも先ほどの王女様が聞かれている時は口元が緩み切っていて満更でもなさそうでしたけど……」


 勇者も恥ずかしさを紛らわせるようにさりげないことつぶやくと王女様はさらにその顔を赤らめる。


「わっ……私口元を緩ませてなんかいません‼」


「笑いをこらえるのが必死になるくらい変な顔をしていましたよ王女様……ぷっ」


 勇者は笑うのを堪えていたが抑えられずに笑いだしてしまう。


「そ……そんなこと……ふふっ」


 王女様も笑っている勇者を見てかつられて笑いだしてしまう。


 そんな笑っている二人の元にこの町の霊媒師らしい人から声を掛けられる。


「勇者様と王女様、お話の最中に申し訳ありませんが、もしこの後夕方にかけてお時間空いておりましたら町から少し離れた湖にて儀式が行われますのでよろしければご参加なさってくださいませ、町の人達もきっと喜ぶことでしょう」


 霊媒師のような方かた勇者たちは夕方は特に用事もなかったのでその儀式に参加することにした。

 

 

 空も暗くなり夕暮れ時になると町の人々は町離れの湖に集まっていた。

 

「町の人達が次々に湖のほうへ集まって行きますね」


「そうですね、エルガトから来た人たちは少数の人達かと思っていましたけれども集まってみると結構な人がロウドーンの町に訪れていたことがわかりますね」

 

 勇者たちも町の人達についていくように湖のほうへと歩いていく。

 実は昼休憩の時に霊媒師の人は勇者たちが参加を希望するとこの今から行われる儀式について話をしてくれていた。


 焚火を燃やすことによって出た煙が天高くまで登っており、その煙がどうやらこの世に残留し続ける魂をあの世へ帰るための道しるべになるらしい。

 霊媒師の人が言うにはかつてこの町は魔物の襲撃により壊滅し、その時に亡くなってしまった町の人々の魂がまだこの町に多く残っているという。


 しばらく霊媒師が炎の前でなにかを唱えていると町の周囲から突如小さな光の物体が焚火から出ている煙へと向かっていく。

 さらにその光は次々に町の周辺に現れては炎のほうへと集まってくる。

 煙へと集まって行った光の集合体は煙の周りを螺旋状に連なって登っていく。

 その光景はとても美しいもので天高くに突き出た光の柱の様になっている。


「すごいお美しいですね……」


 王女様もその美しさに自然と言葉がこぼれる。

 勇者は言葉が出ずその光景に目を奪われていた。

 どこまでも続くその光の柱をただずっと見ていた。

 

 世界各地からでも見えていたロウドーンから天高くまで連なる光の柱はこの世界を生きる人々にとって永遠と忘れられないものとなったであろう……。

 

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