第13話 盗賊参上!?

勇者と王女は少年が連れていかれた【災いの洞窟】の入り口付近に到着する。

 一度入り口に盗賊の仲間がいないか偵察をするが入り口には人一人見当たらなく人がいる気配もない。

 だが洞窟内には盗賊がどこにいてもおかしくないため中に入ってからは慎重に移動しなくてはならない。

 勇者と王女は洞窟の中へと入っていくと周りが暗くなっていくので勇者が明かりを灯す呪文を唱え洞窟を進んでいき、何事もなく二人はあっという間に最奥部へと到着してしまった。


 最奥部にある空間には祭壇がありその祭壇付近には盗賊が四人おり、その盗賊の側には縄で縛られている少年の姿が見える。

 どうやら少年は無事なようだ。

 

 勇者はその光景を目にして盗賊が少年をさらった目的がなんとなくわかった気がした。

 

 おそらく勇者が考えるに、もしかしたら盗賊たちは身代金が目的ではないだろか?

 連れ去った少年をよそに盗賊たちはまるで誰かを待っているように見える。

 その誰かというのが定かではないが恐らくは勇者自身か近くの村にいる誰かしらだと思う。


 現在、王国の兵士はここより離れた町や村の復興で忙しく急にはこのような洞窟へ来ることはできないのでこの洞窟から近くの町や村の多少腕の立つ者か交渉のための金銭を持った人でなければここには来ないだろう。

 さらには先ほど逃がした盗賊が自分のことを話していればここに来るかもしれないと思っていてもおかしくない。

 

 勇者はそのような答えが導き出されたのだが…………盗賊たち全員が何かに焦っているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 そんなことを考えるよりとりあえず今は少年を助け出すことを考えなければいけない。

 

「勇者様……いかがいたしましょう?」


 少年のいる位置的にこっそりと近づいて縄をほどくこともできないので堂々と正面から渡り合うしかない……。


「王女様、何かあるときまでここにいてください。」


 勇者はそう言うと一人で祭壇にいる盗賊たちのほうへと歩み寄ると一人の盗賊がこちらに歩いてくる勇者に気が付く。


かしら!?来ましたよ例のあいつです!」


 この盗賊のリーダーらしい一人の男が勇者をみる。


「あいつか……一人で来るとはずいぶん威勢がいいな!」


「あんたがこの盗賊のリーダーか?」


 勇者がそう尋ねるとその盗賊のリーダーらしき人物は気高く笑う。


「あぁそうだ!お前は一人であの母親からの依頼でこの子供を取り返しに来たってわけか……見たところ武器の一つも装備していないようだが?」


「無傷ってわけにはいかないだろうけどその男の子は返してもらうぞ!」


 勇者がそういうとリーダーを除く盗賊三人が剣を構えこちらに向かってくる。


 勇者は盗賊との距離が離れているうちにキーラの呪文を唱え運よく一人を眠らせることに成功するがもう一度呪文を唱える前に盗賊たちがすぐにこちらに詰めてきたので呪文を阻止されてしまう。

 盗賊はこちらに向かってくる勢いとともに剣を勇者に振るが勇者は難なく回避して拳でカウンターを決める。

 ダメージは浅かったが拳を受けた盗賊はのけ反り、もう一人が勇者に剣を振るう。

 こちらも勇者は蹴りで対処したが……先ほどカウンターを決めた盗賊が立て直し勇者に剣を振るってきてこれには対処することができず攻撃を受けてしまう。


「へへっ、見かけによらず少しはやるようだが相手が悪かったな!」


 勇者は先ほど攻撃を受けたところを手で押さえ痛みに耐えながら盗賊のリーダーの横の縄で縛られている少年を見る。

 

 勇者は自分の行いを後悔した。

 

 どうにか少年さえ救出できれば勝機はあると思っていた。

 自分が何とか盗賊三人を引き連れて時間稼ぎをしていればいつか隙を見て王女様に少年を救出できる時間ができると思ってはいたが、そのためには盗賊全員を勇者に注意を引かせる必要がある。

 ただここにいる二人にさえ手間を取っていたらリーダーをこちらに引きつかせることもできなくなってしまう……。


 勇者が諦めかけ王女様に逃げることを伝えるために口を動かそうとしたその瞬間。


「ぺスタ!」


 その言葉と同時に勇者に光が集まり盗賊から受けた傷がみるみるうちに治っていく。

 この呪文は勇者も覚えている治癒の呪文であり魔物から受けたダメージをこの呪文を唱えると回復することができる呪文だ。


「勇者様、私もご一緒させていただきます!!」


 すると勇者の背後から先ほどまで隠れていた王女様が姿を現す。

 勇者が驚くと同時に盗賊二人は顔を合わせて言った。


「今……あの女あいつのこと勇者って言ったか?」


「いやっまさか!!……」


 勇者は特に王女様には何も言うことはせずに一言だけ『回復をお願いします』とだけ言った。

 盗賊はこちらが二人になったことで同数になり身構えると勇者が隙をつきキーラの呪文を唱える体勢に入る。

 呪文を唱えた勇者を止めるべく盗賊は勇者に切りかかる。

 だが、そこで勇者は盗賊が切りかかる動きを冷静に見て瞬時にキーラの呪文を唱えるのをキャンセルして切りかかってきた盗賊の剣を避けて盗賊の脇腹に渾身のカウンターを決める。

 無防備な勇者に追撃しようともう一人の盗賊が勇者に向かって踏み込もうとした瞬間に王女様が呪文を唱えると盗賊は王女様の呪文を止めるべく狙いを王女様に変えようとするがその隙に勇者が呪文を唱えていることに気が付いていなかった。


「キーラ!!」


 すると王女様を狙っていた盗賊がその場で倒れこみ眠る。

 

 先ほど勇者にカウンターを食らわされた盗賊が勇者に向かって剣で切りつけて傷を与える。

 その盗賊は笑みを浮かべると勇者も同じように笑みを浮かべさせる。

 すると王女様が唱えていた呪文ペスタが勇者の受けた傷を癒していく。


「そんなのありかよ⁉」


 勇者はすかさず盗賊の懐に入り後方へと追いやる蹴りを食らわせ距離が空いたこのタイミングでキーラの呪文を唱え始める。

 

「やっ……やめろー!!」


 キーラの呪文を受けてしまった盗賊はその場で眠りについたが夢の中でうなされていた。


 運よくキーラの呪文は二人連続で成功することができ、勇者の残り《MP》もほとんど残っていなかったのでもし盗賊がキーラの呪文で眠っていなかったら危うかったかもしれないが今回はどうやら勇者たちに運が味方してくれたようだ。


 そして残るは盗賊のリーダーが一人残るだけとなり、盗賊のリーダーは微動だにせず顔をうつむかせていた。


「さぁ残るはあんた一人だけだ、おとなしく少年を返してもらうぞ!」


 すると盗賊のリーダーはゆっくりと顔を上げると憎悪のこもった目で勇者を睨む。


「お前さっき勇者と言っていたな、なぜ勇者のお前がこんな辺鄙へんぴな洞窟にいるんだ……?」


 盗賊は怒りの表情を変えず勇者に問いかける。


「……俺たちは王様の命令でエルガトの町に向かうこととなっていて、その途中で母親から息子を連れ去ったあんた達からその少年を連れ戻すよう頼まれたんだ」


 すると突如として盗賊のリーダーが叫びだす。


「冗談じゃねぇ!!ふざけるな!!」


 この勇者たちがいる空間全体に盗賊のリーダーの声が響きわたる。


「あの勇者様がの討伐に向かいもしないでなんでこんなところで道草くっているんだよ!!」


 (…………ん?)


 勇者は盗賊が言ったことに対して頭に『?』が浮かぶ。


「はぁ…、勇者っていう存在には呆れたがまぁいい、この洞窟にいると契約した以上邪魔はさせねぇ!!」


 さっきから盗賊のリーダーから発せられるいくつかの言葉に勇者は呆然とする。


「あの~先ほどおっしゃったとはいったいどうゆうことでしょうか?」


 すると王女様が呆然としている勇者の代わりに聞きたいことを聞いてくれた。

 勇者が思うにはこの世界の魔物という存在は魔王が消滅したことにより一緒に消えたはずだ。

 しかし万が一例外があり生き残っている魔物が存在しているのだとしたら……?


からこの洞窟に突如現れた強い魔物だよ……。えらく待っているんだが一向に現れねぇ」

 

 数日前からだとするとだいたい魔王を討伐した日と重なるな…………。


「え~とっ……その魔物は今どちらに?」


「ちょうど今、その魔物がここに来るのを待っていたんだがいくら待っても来ねぇんだ、もしかしたらあいつは契約を無視して町や村を荒らしに行ったんじゃ……」


 この時、察しのいい勇者と王女の二人は互いにあることに気が付くと王女様がある質問を盗賊に投げかける。


「あの~……数日前に魔王が討伐されたと同時にこの世界の全ての魔物も消滅したことはご存知でしょうか?」


「まっ魔王が討伐された……⁉」


 盗賊は今までの怒りの表情から突拍子もない驚いた表情に変わり、しばらくこの空間に沈黙が走る。

 

 この沈黙を先に破ったのは盗賊のリーダーだった。


「ふっ…ふざけんな!!ついこの前その魔物と戦ったばかりだぞ!!」


「えぇ……それであなた達が生贄になる子供を探している時にすれ違いですでにその魔物は消滅したのではないのかと……」


 またもやこの空間に先ほどよりも長い沈黙が再び走る。

 盗賊のリーダーも急には現実を受け止めきれないのだろう。

 

「……そういうことだからあんたが特に少年を人質ににさせる理由もなくなったし少年を渡してもらってもいいか?」


「あっハイ、どうぞ……」


 盗賊のリーダーからは先ほどの威厳とは正反対な弱々しい言葉とともに少年を預かった。


 

 勇者と王女は少年を無事に助け出し災いの洞窟から抜け出すことができた。

 洞窟を抜けて母親が待つ町へ向かうところに後ろから盗賊が勇者に話しかける。

 

「勇者さん、今回の件は本当に申し訳なかったです!!そしてもしよければその子の母親にも反省の意を伝えていただけないでしょうか?」


 今回の件ではこの盗賊たちも悪意でやったことでないことは知っていた。

 魔物から周辺の町や村を襲わない代わりに子供の生贄を持って来いと言われた盗賊たちは仕方なくその魔物の契約に乗るしかできなかったらしい。

 

「あぁ伝えておくよ、それともうこんなことはするなよ……」


 勇者はそう言うと手を振ってくる盗賊たちを背に母親が待っている町へと着くとすでに母親は息子を出迎えており少年は母親を見つけると勇者の手を離れその母親の胸元へ飛び込んでいった。

 その母親から感謝の言葉を頂き盗賊が言っていたことを伝えると少年のほうからも元気いっぱいな感謝の言葉をもらい勇者と王女はその場を離れる。

 

 勇者と王女は先ほどの盗賊との戦闘で疲弊していたため今日中には目的のエルガトの町に向かうことは難しいと考え現在勇者がいるこの町【ロウドーン】で休息をとることにした。


 ただ、この町は魔物の襲撃により人が生活できない荒廃した町となっており、エルガトの町から復興のために集まった人たちによる簡易的なテントがいくつかある集落のような感じに今はなっていてここに住んでいる人たちは度々暗い表情を浮かべていた…………。

 

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