第12話 思いと想い

勇者はタダルの町の宿で目を覚ました。

 自分が寝ていたベッドの横のスペースには少しばかり人が寝ていた痕跡が残っている。

 勇者は一緒のベッドに寝ていたはずの王女様がこの部屋にいないことに気が付くと、すぐに部屋を出て宿の受付の方へと向かう。

 早々と階段を降りて受付の人に声をかける。


「おや、勇者様おはようございます、ゆうべはお楽し……」


「急ですいません、一緒にいた女性の姿を見ませんでしたか?」


 勇者は受付の人が話す前に王女様を見かけたを聞き出そうとした。

 受付の人は切羽詰まった勇者の姿を見て早々に言った。


「えぇ、先ほど宿を出ていきましたけれども、どうやら勇者様を……」


「そうですか、ありがとうございます」


 勇者は受付の人の言うことを最後まで聞かずに急いで宿を出るとそこには近所の子供たちと遊んでいる王女様がいた。


「あら、勇者様お目覚めになられたんですね」


 朝から元気ないつもの王女様をみて唖然としながら勇者は自分と同じ表情を浮かべていた受付の人を見ると。


「……なんかどうもすいません」


 深々と頭を下げ謝罪した。

 

 

 

 勇者と王女はこの町を出るための支度を終えてから町の入り口に止めてある馬に乗り込む。


「タダルの町もとても美しい町でしたわ」


「そうですね、またいつか訪れに来ましょうか」


 少なからず町の人々に見送られながらも二人はタダルの町を後にした。

 

 ここからはエルガトの町までは泊まれるような町や村もないためノンストップでエルガトの町まで向かうことになる。

 馬のほうもゆっくり休めたようでどうやら調子が良く、勇者と王女の二人を乗せて走ることにも慣れてきていた。

 この調子ならば問題なくエルガトの町までは無事につけるだろうと勇者はこのとき思っていた。


 だいぶ南に馬を走らせていると盗賊と思われる男三人の集団が親子だと思われる母親から少年を連れ去ろうとしている場面を勇者と王女は目撃することになる。


「勇者様‼あれをっ!」


 王女様が勇者に目の前の盗賊たちを指さす前に勇者は馬から降りて王女様に手綱を任せると盗賊集団のほうへと急いで駆けつける。

 母親から少年を奪った盗賊の一人が勇者の接近に気が付くと少年を抱えたまま一目散に他の二人を置いて東の山脈のほうへと逃げていき、盗賊二人は近づいてくる勇者を止めるべく母親を人質にするが構うことなく勇者は走り盗賊に接近する。


 現在の勇者は武器や防具等の武装をしておらず、それに対して盗賊は剣や防具を身にまとっており誰が見ても不利に見える状況だが勇者の考えの中には勝機は存在していた。

 

 盗賊に接近しながら勇者はある呪文を唱える。


「キーラ‼」


 勇者が呪文を唱えると目の前で呪文を受けた盗賊は急にその場に気絶したかのように倒れる。

 母親を人質にしていた盗賊は目の前で起こったことに驚いているこちらに急接近してくる勇者にとっさに反応することができず手に持っていた剣を勇者のけり足によって弾かれる。

 勇者は取り押さえられていた母親を救出することに成功すると盗賊と一度距離を取り先ほどの盗賊に使った呪文を再び唱えるがどうやら先ほどみたいに盗賊は気絶せず、何事もなかった。

 盗賊は自分の身に何も起こっていないことに気が付くと不気味な笑みを浮かべる……。

 

 すると急に盗賊の後ろからやってきた馬が盗賊の背中めがけて思いっ切り衝突する。

 馬に衝突された盗賊はきれいに前方に身を投げ出して倒れた。


「ごめんなさい、どうしても急に止まれなくなってしまい」

 

 その馬の背には王女様が乗っており、どうやら王女様を乗せた馬が制御できずにそのまま盗賊めがけて突っ込んだらしい。


「いえ、助かりました……少々野蛮ではありますけれども……」

 

 勇者は最初に気絶した盗賊の元へ寄ると身動き一つしない盗賊を見て王女様は言った。


「そのお方は大丈夫なのでしょうか?」


 すると勇者は自信ありげにこう答える。


「大丈夫ですよ、先ほどのこの人にかけた呪文は相手を眠らせる呪文ですから気概は与えていないですし当分は起きないことでしょう」


 勇者がそういって盗賊の顔を王女様に見せるように上げると盗賊はどこか気持ちよさそうな顔をして寝ていた。


「そんな呪文もあるのですね……ですけれども先ほど私が付き飛ばしてしまった盗賊の方には効いてはなかったみたいでしたけれども?」


 その王女様の質問に答えると同時に勇者は救助した母親の元へ歩き出す。


「この呪文は確率で唱えた対象を眠らせる呪文でして正直なところあの場面は王女様の助けがなかったら危うかったです」


「そうでしたか、それは良かったです」


 とりあえず勇者は助けた母親の元まで行くとまずは気持ちを安心させてからいろいろと話を聞くことにした。


 


 どうやら母親は先ほどまで盗賊に連れていかれた少年と近くの町のために薬草の調達に来ていたらしい。

 その薬草を採取しているところを盗賊に見つかってしまい襲われてしまったということだった。

 

 勇者は苦しくもいろいろと話してくれた母親を安心させようとする。

 

「安心してください、僕が息子さんをあの盗賊から取り返してきますので、お母さまはみんながいる町で待っていてください」


 勇者は母親を馬に乗せて王女さまにその近くの町までいっしょに運んでもらおうとしたが。

 

「勇者様、今回は私もご一緒させてください」


 王女様はそう言ってはいるのだが、勇者はすぐには答えを出せなかった。

 勇者としては王女様を同行させることに関しては賛同の意見だった。

 ただ今回は相手が魔物ではなく人であるため勇者も何が起こるか予想を付けられない。

 勇者だけではどうしようもできない場合を考えたらもしかしたら王女様のお力が必要になるかもしれない。

 しかしその反面、王女様には危険が付きまとうリスクがある。


 勇者が答えを出せずに困惑していると王女様が……。


「大丈夫です勇者様、もしものことがあれば私が何とかします」


 王女様は普段では見せない真剣な表情を浮かべて勇者をみる。

 勇者もそんな王女様を見て決意をする。


「分かりました、ただ危険と判断したらすぐに逃げることを忘れないようにしてください」


「えぇ、それは勇者様も同じですよ」


 そう二人は約束すると母親だけ乗せた馬の手綱を母親に任せて馬を走らせた、勇者と王女の二人は恐らく少年が連れていかれたであろう【災いの洞窟】へと足を向けた。


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