第10話 幾年の時より
王城キャスタールを出た勇者と王女は南に位置する町【エルガト】へと向かっていた。
ただしエルガトの町はキャスタール城からただ南下して行けば到着するという訳ではない。
その訳とは、キャスタール城から少し南に位置する場所には高い山脈が広がっておりエルガトとキャスタール城までの道を通せんぼをしてしまっている。
そのために山脈の向こう側へ向かうには一度北へ向かい遠回りをしてエルガトの町へと向かう必要があるためであった。
勇者たちはとりあえず行く途中にある北の町を目指して、エルガトへと向かうことにした。
そして勇者はその町へ向かう前にどうしても寄っておきたい場所がある。
勇者はそのことを王女様に伝えており勇者たちは今、その場所へと向かっている途中だった。
キャスタール城からしばらく北西へと向かって馬を進ませていると目の前に誰かが作ったと思われる洞窟が見えてくる。
この洞窟こそが勇者が寄っておきたかった【伝説の勇者】が眠ると噂されている場所である。
勇者が初めてここに来たときはこの地に召喚され町で装備を調達してすぐの話になる。
王女様に関してはどうやらこの場所は初めて訪れるらしい。
当然、洞窟の中は真っ暗なので勇者は明かりをともす呪文を唱える。
魔王が討伐される前のこの世界にはいたるところに魔物が潜んでいたものだが不思議とこの洞窟内には当時、魔物は住み着いていなかった。
魔物は薄暗い場所を好むはずなのだがその答えのようなものがこの洞窟の最深部に存在していたからだ。
「王女様、足元をお気を付けて進んでください」
「はい、勇者様も気を付けてくださいね」
勇者は王女様の手を取りながら先頭を進み慎重に洞窟の最深部へと向かっていった。
洞窟内はとても静かで二人の足跡が響くだけであった。
「この洞窟……とても気味が悪いですね……」
王女様はこの気味の悪い空気感を紛らわすため勇者の手ではなく肩より下の腕全体をぎゅっと握りしめた。
勇者はそんな王女様の不安を和らげようと話をする。
「ご心配なく、この洞窟には魔王を討伐する以前から魔物は住み着いておりませんでしたから」
すると王女様は不思議そうに首をかしげて勇者に問いかける。
「なぜ、この洞窟内には魔物が住み着いていないのでしょうか?」
その問いかけに勇者は自信をもって答える。
「それはこの洞窟の最深部に向かえば自然とその答えは出てきますよ、王女様もご覧になればきっと感動すると思われますよ」
「へぇ~それは早く見てみたいですね!」
王女様は先ほどの不安もどこかに行ったかのように楽しそうにしていた。
洞窟内をだいぶ進むと薄暗い暗闇から光が差し込む場所が見えてくる。
「勇者様!あそこが例の場所ですか?」
「えぇ、もうすぐそこです」
二人はその光が射す場所に出るとそこには洞窟内とは思えないような場所になっていた。
「まぁ!素晴らしいですわ!」
洞窟の地下で地上の光は入ってこないはずなのにそこは草花が生い茂っておりその空間の中心には大きな木が佇んでいてその手前に石碑が置かれている。
どうやらこの場所には空間全体に聖属性の魔法がかけられており光を放ち続けているようだ。
「すごい神秘的な場所ですね……」
「えぇ、どうやらこの空間の中心にあるあの大きな木には聖属性の魔法がかけられていることによりこの空間を照らし、外側からくる魔物を止めていたのでしょう」
「勇者様はこの場所には何度もお越しになられたんですか?」
「いえ、まだ二度目です、魔王を討伐するためあまりここには寄ることはできなかったですね」
「それにしてもこの世界に来てからはあちこちを見て回りましたがやはりこの場所は特別に感じます」
勇者は目的のものである木の前にある石碑の前に立つ。
「この石碑が勇者様がお目にかかりたかったものですか?」
この石碑には文字が書かれており勇者が魔王を討伐するための冒険の序盤で目にしたものである。
書かれている内容としては魔王の城に行くために必要なものがあり、その必要なものをある者に渡しまたこの世界に脅威が迫った際に後より召喚される勇者に渡してほしいとだけ書かれておりその必要なものがある場所は記されていなかった。
当時はその場所も書き残してほしかったものだが今より昔は地形なども違っていたことを想定すると困惑しないようあえて記さなかったのだろうと思える。
「はい……私の最終的な目標である魔王を倒すための冒険はすべてこの石碑から始まったともいえます」
勇者がこの地に召喚されてからは魔王を討伐することを伝えられてからはその魔王の城にまで行くための情報一つ持っていなかった。
勇者は不安を感じながらも次の町へ行くために魔物を討伐しながらこの世界をただ歩いているとこの洞窟が勇者の前に現れ石碑へと導いてくれた。
それからの勇者は石碑に記されていた魔王の城に行くための必要なものを探しにこの世界を冒険した。
今の勇者の状況をこの世界に来た時みたいに伝説の勇者が自分に何か残しているのではないかと期待してはみたもののやはり期待してみるだけ無駄だったようだ。
勇者は伝説の勇者が残した石碑の前から離れる。
「ここに来れば今の自分の状況が変わったりするかもと思いましたが……すいません王女様このようなことのために寄り道してしまい……」
「いえ……このような場所に来られただけでもよかったですわ」
二人は共に石碑に背を向けこの空間から出ようとすると…………
『ありがとう……』
石碑の方から青年のような声が聞こえ勇者は石碑のほうへと顔を向ける。
だが当然そこには誰一人としていない。
王女は石碑のほうを見て立ち止まっている勇者をみて声をかける。
「勇者様……大丈夫でしょうか?」
勇者は一瞬だけ微動だにしていなかったがすぐに王女様の方へ振り返る。
「えぇ大丈夫です、出口へと向かいましょう」
二人は無事に洞窟の出口に到着してから北にある町へと向けて馬に乗る。
勇者が石碑の前で聞いたあの声……もしあの声が伝説の勇者のであれば……。
そのようなことを考えていると勇者の顔はどこか純粋な少年が興奮したときに浮かべていそうな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます