第9話 召喚されし地へ

 勇者はカイムの村で少しばかりの休息を終えて今、王城へと向けて足を進ませている。

 

 地下大洞窟から続いている大きな川に沿って歩いているとその川は次第に広くなっていきようやく大きな湖へとその姿を変える。

 

 その広い湖の反対側にはかつて自分が魔王を討伐した魔王の城がひっそりと立っている。

 

 そして、その魔王の城に対するように勇者の前に見えてくる魔王の城と同等ぐらいの巨大な城が勇者の目的地でもある王城またの名を【キャスタール城】である。

 

「ここまで来るのにずいぶん遅くなっちゃったな……みんな心配してるかな……」

 

 王城にいるみんなのことを考えながら城の前まで来ると門の前で警備をしている門番二人が遠目から確認できその二人も勇者に気が付くと急いで鎧をガシャガシャと鳴らしながら勇者の元へと駆け付けてきた。

 

「勇者様!!よくぞご無事にお戻りになられました‼」


「王様は勇者様の帰りを待たれておりましたよ!!さぁそれではさっそく王の間へとお向かい致します」

 

 門番の2人は勇者の両側に付き、王様がいる王の間へと案内される。(場所は知ってるけど)

 

 勇者が王の間へ向かう中で周りからなにやら声が聞こえてくる。

 

「勇者様‼よくぞ王城までお戻りになられまして」

「勇者様がお戻りになられたぞ‼」

「あの魔王を討伐してくださってありがとうございます‼」


 次第に人が集まってくるが両側にいる門番たちが近づかないよう抑えてくれている。


「皆の者控えよ!!勇者様はこれから玉座の間に行かれるのだ!」

「あまり迷惑はかけずに道を通してくれ!」


 門番の人達が抑えてくれたおかげで何とか玉座の間に無事向かうことができた。


「勇者様、われらはここにおりますので……」

「謁見が終わり次第われらにお声掛けしていただければ我らがお着き致しますので……」


「ここまでありがとう二人とも、もし何かあればまた二人に頼るよ」


 勇者がそういうと二人の門番はその場で敬礼をしてから王の間への扉を開ける。

 すると、扉の向こう側から何者かの影がこちらに向かってきた。

 

「勇者様~!お待ちしておりましたよ~!」


「えっ!……」


 勇者は何が起きたかを理解できないままその者を抱えたままその場に倒れこんだ。


 何が起きたのか勇者は抱えていた人を見る。

 

「お……王女様……?」


 勇者が王女様に声を掛けると王女様はその場で顔を上げる。


 その王女様の顔には目から涙が浮かんでいた。


「……もう一度勇者様の顔を見られることができ私は本当に嬉しいです……よくお戻りになられましたね勇者様……」


 その顔を見たとき勇者の脳裏にはあの地下大洞窟でドラゴンを倒した後の顔が思い浮かび照らし合わされる。


「だいぶ遅くなりました王女様……すみません長らく心配をかけてしまい……」


 二人はゆっくりと立ち上がり王女様が涙を拭いていると後ろから大臣様が何か息を切らしながらこっちに向かってくる。


「王女様!そのようなことをされては困りますよ……勇者殿のお体にはまだ魔王との戦いで残った疲れが多少なりともあるはずですから……」

 

 大臣が息を整えているとその後ろから白髭を立派に生やした人物が近づいてくる。

 

「王女よ、勇者は長旅で疲れておる……あまり気を使わせるのではないぞ……」


 自分も合わせ周りの大臣と王女様までも王様に対して頭を下げようとするが王様は慣れた手つきで崩すように手で合図を送り、勇者の元へと歩み寄る。


「わが娘が迷惑をかけてしまったようだな勇者よ……よくぞ魔王を討伐して無事にこのキャスタールへと戻ってくれたな」


「ただ、そなたの報告はそのことだけではないのだろう?娘からいろいろと聞いておるが……」

 

 王様はどうやら名前を消されたことを王女様から聞いてすでに知っていたようだ。

 

 それならば話が早くて済む。

 

 勇者は改めて自分の身に起きている出来事を魔王を討伐してからここまでの道のりのことなど勇者が話せるだけのことをすべて話した。

 

 側にいた王女様と大臣までこの話を真剣に聞いていた。


 

「なるほど……そのようなことが…………」

 

 王様は勇者の話を聞き終えると玉座に座りながら肘を立てて顔を預けると目を閉じて思い悩んでいた。


「あの魔王がそのような呪文を……この期に及んでいったい何を企んでおったのか……」


「ただ魔王を討伐して私とお話をした時から特に異常は感じられなかったのですよね?」

 

「そうですね……特には呪文にかかる前と変わりはありませんでした」


 この場に少しばかりの静寂が走る。

 

 すると王様が……。

 

「我もその”名前を消滅”させる呪文についてはよく知らぬが、少しばかり思い当たることがある」


「……昔の時代、この世界が闇により支配されていた時代の勇者、まさに”伝説の勇者”の名前は一部の説では存在していなかったと書かれていたりするのじゃ」


「伝説の勇者って、あの先代の勇者様のですか!?」


 勇者はその時、不意にもイスクールの町で村長のこと思い出す。


「うむ、その根拠が先代の勇者について調べてみると名前についてのことが一切かかれておらず全ての文に”伝説の勇者”としか書かれていないのだ。今になって考えてみれば意図があったようにも読み取れる」


 王様のその言葉に勇者は動揺していた。

 

 まさか自分と同じように先代の勇者も名前を消されていただなんて。

 

 勇者は動揺しており、そんな動揺を隠せていなかった勇者に対し王様は声をかける。


「あまり思い悩むでないそなたはあの魔王を倒したのだ、今宵は盛大に祝すとしようではないか!」

 

 王様は思い悩んでいる勇者の肩にやさしく手を置き笑みを浮かべる。


「そうですよ勇者様。ぜひ宴会の場で勇者様がどのような冒険をなさったのかキャスタールにいる者たち全員に話していただけると嬉しいですわ」


 王女様が目を輝かせながらいった。


「それもそうですな、話の中には我らの知らぬ未開の地の話もあるかもしれぬぞ」


 大臣もこの話にとても興味をそそられている。


 確かに勇者は今までの魔王討伐までの出来事などを誰かに話す機会もなかったため、そのように言われるとその波乱万丈の数々を話してみたくなってしまう。


「わかりました。宴の際にいろいろとお話しさせていただきます」


 三人ともそのことに喜んでおり、さらには勇者の顔には自然と笑顔が戻っていた。


 

 その後、キャスタール場では各地から数々の人を招いて宴会が行われた。

 

 集まった人々は盛大に宴会を楽しんでおり、勇者も大勢の人に冒険話を聞かせていたりしていた。

 

 そんな宴も終わりが近づいてくると少し寂しくなる。

 

 そして勇者は一人で馬を連れ、王城の橋を渡っていた。


 実は宴会の最後に、勇者は王様からあることを聞いていた。



 

「勇者よ、先ほど言っていた【伝説の勇者】について何かしら情報を持っているものが【エルガトの町】にいるそうなのだじゃがそのことについて調べてもらうのと同時に町の状況も調べてきてもらいたいのだが良いだろうか?」


 勇者はその王様の要望に応えるとともにその伝説の勇者の情報を得るためにエルガトの町へと向かうことにした。

 王様には後日、馬を用意していってもらうと提案されたが勇者はなぜか伝説の勇者の噂を聞きたくて今宵のうちにでも王城を出て、メルキドの町に向かおうとしていた。

 王さまの話を聞き今回の名前が消されたことに関してはどうもいやな気持ちが振り払えそうにない。

 

 伝説の勇者と今の自分が偶然ではなく意図的に名前を消されたのだとするならば……。

 

 勇者の脳裏に最後の魔王の言葉が思い浮かぶ。


 もしかしたらこの国にまた魔王の手がさしかかろうとしているのではないのか……。


 勇者はメルキドの町へ向かうため借りた馬に乗り王城の門を抜けようとするところで目の前に人影が現れた。


「勇者様、こんな夜遅くにおひとりでどこへ向かおうとしているのですか?」


 その人影は声を聞くまでは王女様だと気が付かなかった。

 いつも豪華で華やかな服装をしている王女様が一般な町娘みたいな服装をしており髪型までも違ったためである。


「王女様!?どうやってここまで……」

 

 すると王女様は指で城の上層部にある王女様の寝室の隣に位置するドレッサールームにある窓を指した。

 そのドレッサールームはちょうど人目につかない場所に窓が付いているため警備も手薄になってはいるが……。


「実はこの今着ているこの衣装は使用人の方にお借りしたものです、どうでしょうかにあっていますでしょうか?」


 勇者は多数の処理が追い付けず、とりあえず王女様を元居た寝室までお返しするよう説得することにした。


「こんな夜遅くにこんな場所におられては城の人たちが心配しますよ……」


「それもそうですね、それでしたら勇者様も同じようにご一緒にお戻りいたさければみんな心配なさりますよ」


 その言葉に笑顔の表情一つ変えない王女様をみて、勇者は言葉に詰まりそうになる。


「……申し訳ありませんが、私は今からエルガトの町へ向かうつもりですので王女様だけでもお城にお戻りください。」


「それでしたら私もご一緒いたしますわ」

 

「はぁ!?」


 あまりもの驚きで勇者の口からついそのような言葉がこぼれてしまい、焦りながらも口を慎み、勇者は冷静を取り戻す。

 

「勇者である私だけであればいかなる状況でも対処できますけれども王女様とご一緒となると保証はできませんよ」


「そうですか、それならば問題ありませんね”いかなる状況”も対処可能であれば私がいても特に問題ないはず……それにこれは王に代わり王女が下す命令です、さて勇者様いかがいたしましょう?」


 どうやら勇者は少々冷静さを欠いていた。

 堅実さでこの世界の物事を捉えてきたこの国の王に……平常な自分であれば気が付けたはずだ。

 そして、そのような人物を一番側から見ていた人物がここにおりどこか似ているということに。

 勇者は言い返す言葉を持ち合わせておらず、仕方なく王女様の命令に従うしかなかった。

 

 それともう一つ、かつて王女様との約束をかなえるためでもある……。


「わかりました……では城の兵に見つかる前に向かうと致しますか」


「えぇ、そういたしましょうか」


 勇者は馬に乗っかり、王女様の手を取ると勇者の背に乗せると手綱を握り馬を走らせる。

 すると、馬が二人を乗せることに慣れていないせいか勢いを出すぎてしまい王女様の体が後にのけぞる。

 

「きゃ!?」


 王女様は瞬時に馬から落ちないように勇者の背中を抱えながら言った。


「王女様、大丈夫ですか!?馬には少し速度を落とさせるようにいたします」


「えぇ、そうさせてもらって……どうやらこのお馬さんも勇者様みたいにとても勢いづいているようですね」


「……そもそも王女様がいなければこんなことには……」


 勇者が王女様には聞こえない程度の独り言をボソッとつぶやく。


「勇者様、とりあえず城の者が来る前に早く行ってくださりますか?」


 先ほどの勇者の独り言が聞こえたのか、王女様のその声にはどこか冷徹さを感じ、勇者の背筋に寒気が走る。


「はいっ‼直ちに!」

 

 勇者と王女様は戸惑いながらもキャスタール城を出ていき、王の間から二人を王様は見守っていた。

 

 「王様、ただいま勇者様と王女様がともにエルガトへと向かわれました」


 「あぁわかっておる……」

 

 「良いのですか?お二人だけで行かせても……」


 王様は冷静にも玉座に座り込む。


 「良いのだ、止めに止めても二人は行くに決まっておる、ならばいろいろと気を使わせずに行ってもらった方がこちらも助かるものよ」


 「それに王女にはこの世界のことをいろいろと見て知ってほしいのだ、勇者と一緒ならば危険もなく世界を見て渡れるだろう」


 「……勇者に至っては我にも分らぬことだが先代の勇者と同じ道をたどることになるとこの国に未来は無い、何か起きないためにも王女と一緒にいることが最善だ」


 ――先代の勇者――王族のある言い伝えによるとこの者の行く先には絶望があったらしい、その道と同じ道をたどろうとしていることに勇者、王女は知らなかった。

 

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