第8話 勇者の休暇!?
勇者は王城へ足を進めていたがその途中の離れにある【カイムの村】へと向かっていた。
急遽【カイムの村】に向かおうとした理由としてまず本来の目的である自分の名前についての情報と魔王が勇者にかけた名前を消滅させる呪文について、何か聞き出せるかと思ったこと。
そして勇者はイスクールの町からだいぶ歩いてきたので体力的な疲れが出てくるのを意識し始めており、さらにはもうそろそろ日が沈んできたのでここらで宿を借りて泊まる準備をする必要があるため必要があった。
そんなことで勇者は森の中に続いている道を進んでいく。
「日が沈み切る前に村まで向かわないと……確かそろそろ見えてくると思うんだけどな」
勇者がそんなことを思って口に出した瞬間、木々の先から明かりが見えてきた。
勇者はその明かりが見えた方向へと歩いていくとようやく【カイムの村】の入口に到着した。
まだ夕方であり空もまだ少し明るくもあるが村には少し早くランタンの暖かい色の明かりが灯されていた。
何とか日が沈む前に到着できたことに安心しては勇者は早々に宿屋へと向かおうとする。
すると村の人々が村に訪れた勇者に気がついた。
「ん!! あれは勇者様じゃないか?」
「本当だ!勇者様だー!!」
「まさか!?やはり本当に魔王を討伐されたのですね!」
この前も似たような光景を目にした勇者はこれにどう対処してよいか分からず村にいた人々にあっさりと勇者の周りを囲まれてしまう。
いろいろと称賛の言葉やら魔王を討伐した経緯を聞かれたりしたがその後村の人がこの村に訪れた理由を聞いてくれたので事の成り行きはうまく収まってくれ村の人が宿屋へと案内してくれた。(場所は知っているが)
そのついでに勇者の代わりに村の人が宿屋の人に勇者の部屋を用意してくれるようと頼み込んでくれていた。
勇者は宿屋の人に手厚く歓迎をしてくれてようやく泊まる部屋に着いた。
「それでは勇者様ごゆっくりと……」
宿屋の人が部屋の扉を閉め、勇者は一人になることを確認すると部屋にあるベッドに背中から倒れこむ。
「はぁ~今後とも町や村に行くたびにこんなんじゃ勇者としてやっていける自信なくなるな~……」
勇者はベッドで休む前にふとこの村にある温泉に行こうかと思う。
だが、先ほどの村の人々からの手厚い歓迎がたびたびあると思うと、外出しようにも外に出れなくなってしまう。
そこで勇者は考え部屋に置いてあった宿泊客用の服装が一式置いてあることに気が付きあることを思いつく……
勇者は村の人たちに気が付かれることなく温泉がある場所へと向かう。
「よし、この服装であれば自分が勇者なんてことに気が付く人はいないだろう」
そんな勇者の格好は宿屋の部屋に置いてあったこの村の一般的な服装と自身が持ち合わせていたスカーフを首に巻き顔を隠しているといった服装になっている。
勇者は村の北側のほうへと向かっていくと空に湯気が立ち上がっていく建物が見えてきてその建物の入り口には【湯】と書かれているのれんが垂れ下がっていた。
まさしくここがカイムの村で有名な【温泉】であり多くの人々がこの温泉で疲れをいやしたりしている。
勇者はのれんをくぐると中から熱気が入ってきて勇者の顔に当たってきて顔全体にその熱気が伝わってくる。
勇者はスカーフを口元まで隠しているせいで息苦しく感じているが、我慢しながら受付を済ませて更衣室へと向かい服を着替えてから湯気が立つ温泉につかろうとする。
さすがにスカーフを巻きながら温泉につかることはできないので更衣室で外してから湯気が立っている温泉につかろうとする。
勇者が全身を温泉につかせた瞬間、体全体へと心地よい温度の暖かさが包み込んでくる。
「ふぁ〜〜!」
勇者の口からたまらずに声が溢れ出す。
それもそのはず、イスクールの町からこのカイムの村に来るまでは満足いく休憩も取らずに歩き続けていたため、宿屋に到着した時には既に相当疲れが溜まっていることに勇者自身気がついていた。
そんな疲れきったこの勇者の体にこの湯は効果絶大であった。
勇者はふと周りを見渡すも誰一人として自分が勇者であるということには気がついていないようだった。
そのことを知った勇者は安心して湯につかれると思い再び首から下全部を湯につからせた。
「それにしてもこの村はあいかわらず平和な村だな……以前まで魔物たちの脅威に晒されていたとは思えないほどだ」
勇者の言う通りこの村は勇者が魔王を討伐するために訪れた時も村の雰囲気も変わらず今と同じようにこの温泉にも入ることができていた。
そう考えるとこの村は魔物達による影響を受けていなかったのではないかと思わされる。
だがこの村も他の村と同じように魔物によって脅威に脅かされていたことを勇者は知っている。
勇者は温泉につかりながらこの村に訪れた時のことを思い出す。
当時、この村に勇者が訪れた際は魔物達による被害がなく村の人たちは平和に暮らしているのだと思い込んでいた。
勇者も数々の魔物達と相手をしてきた為、休養を取るといった感じでこの村の温泉に入ったりご馳走を頂いたりしており、この村での休養を満喫していて、勇者の気が緩みかけていたその時に……
勇者はあることを村の人から聞いていた。
「この村には実は……この大陸の南にある町を守る巨人を制御する鈴があるのですが……丁度魔王がこの国を支配してから、その町にいる巨人が突如として暴走してしまいその町の人々はその町から出られなくなってしまったのです……」
その南にある町には入口の門を守る巨人がおりその巨人は遥か昔からその町の守り神として称えられておりその巨人が急に町の人々や魔物見境なく攻撃するようになった。
実はその巨人が暴走したのは単なる偶然ではなく魔王の仕業だということはいずれ判明するのだが……薄々この時の勇者も魔王の仕業だろうと感づいてはいた。
「この村の人々はそのことを知った後に軍の方々に鈴を届けてもらうように頼みましたがボロボロな姿になって王城へと帰還したことを軍の方から聞かされてからはこの村の者たちもその町へ鈴を届けることを諦めかけていました、その町の中で暮らす人々がどのように生活していたのかも分からずに…………」
このカイムの村の周辺は森で囲まれておりその木々の成分に魔物が嫌う成分が含まれておりその成分によって魔物を寄せ付けていなかったがその森を向けてしまえばあたり一面魔物が住み着いている世界となるわけだ。
そんな理由でこの村の人々はこの森を抜け出せずにいたというわけだ。
「勇者様!無理も承知の上ですがどうかこの鈴を持ちになりその町の巨人の暴走を止めていただけないでしょうか?」
勇者は村の人の頼みごとを当然のように引き受けることにして、その村人から巨人を制御する鈴を渡された。
勇者は緩みかけていた気を張り直し、村人に返事をする。
「お任せください!勇者であるこの私がその町の巨人を鎮め、町を解放いたします……その後は魔王を討伐しこの世界を平和にいたします!」
当時の勇者は相当自信があったのか今となっては恥ずかしいと思うぐらいに自信満々に言ってはこの村を出てその町へと向かっていったかな…………
勇者は湯につかりながらぼ~っと当時のことを思い出していた。
よくよく思い返してみてもこの村に他の町や村から訪れている人も前より多くの人がいることに気が付いた。
まして、この世界の魔王を討伐した勇者に皆気が付いていないほどだ。
そんな変わらない街の姿の細かい変化に気が付いた勇者は少し微笑みながら、湯から出て温泉の宿を出た。
「いや~~気持ちよかったな~!また今度訪れた時に入りに行きたいな~」
そんな独り言を言いながら村を歩いている勇者を周囲の村の人々が見ると声を上げた。
「おいっあそこにいるの勇者様じゃないか!?」
「おおっまちがいねぇ!あの勇者様だー!
「本当に勇者様だわ!!カイムの村によくぞお戻りになられて!」
何故か急に村の人々が勇者に気が付いてはいつものように駆けつけて来て瞬間で包囲されてしまう。
勇者はその場ではっと気が付き首元を手で触るとスカーフを着けていなかったことに今更気が付く。
「やっちゃったよこれ…………」
あっという間に勇者の体は冷めきり宿に帰ることになった。
勇者はこの【いつまでも平和な村カイムの村】によって気が緩まされていたことに後悔した。
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