第3話 使命

勇者はどこかの寝室のベッドで目を覚ました。

周りには他の誰もいない。

勇者は起き上がるときに自分の体をみて驚く。

その理由が体中に包帯がまかれていたからだった。

巻き方からしても丁寧に巻かれていてここの住人が巻いてくれたのだろう。

勇者は何とか体を起こしてベッドから起き上がろうとするがまだ完治してない傷口が痛みだす。

ふらふらになりながら近くに置いてあった洋服に着替え廊下を歩き階段を降りると食卓が並び、すぐ隣には調理場があってそこでちょうど何かを料理していた女性が階段から降りてくる勇者に気がつき急いで駆けつけてくれた。


「勇者様!!大丈夫ですか!?」


その女性に何とか手を貸してもらい食卓の椅子に座らせてもらうことにした。

女性は急いでくんできた水を勇者に差し出す。


「あぁ……ありがとう」


「傷口はまだ完全に塞ぎきっていないんですからゆっくり休んでいてください。今ちょうど食事を作っていまして……」


女性がそういうと確かに調理場の方からおいしそうなにおいがしてくるとそれにつられて

勇者の腹から情けない音が鳴ってしまう。

それを聞いた女性はクスッと笑い


「すぐに料理を持ってきますのでお待ちになっていてくださいませ」


女性はなぜか嬉しそうに調理場へと足を向けた。

勇者はイスに深く座り込み食卓から見える窓を見ていた。

まだ勇者は寝ぼけていて頭が回らず、ただぼーっと考えることしかできなかった。

妙にこの空間に現実味を感じてしまってまだ夢を見ているのかそれとも今見ているのが現実で今までの事の何もかもが夢の出来事なのかと混がらがっていた。

勇者がいろいろ考えているとさっきの女性が勇者のために作ってくれた食事を持ってきて食卓の上に置いた。


「さぁどうぞ勇者様!体にも悪いのであまり無理しないでゆっくり食べてくださいね」


食卓には確か以前に魔王を討伐する際に寄った町で食べた魚料理のごちそうが並んでいた。

勇者が早速手を合わせていただこうと思うがさっきから女性の目線が勇者から離れないことに気づいた。


「え~と……どうかされましたか?」


勇者は疑問に思いながら女性に声を掛ける。


「あっ!すいません……ただ村長からも言われているんですけれどもどうしても言いたいことがありまして……」


勇者に少しだけ緊張が走る。

いやさすがに告白とかではないと思うんだけれども女性と対面してそんなこと言われると何故だか緊張してしまう。

勇者が何とか動揺を隠そうと冷静さを装う。


「いいですよ、聞かせてください」


勇者は女性が話してくれるまで待つとゆっくり女性の口元が動く。


「実はどうしても勇者様に感謝の言葉をお伝えしたくて……実はこの世界に勇者様が召喚されたと聞いた時は素直に町のみんな希望は持てていませんでした……」


実はこの世界に召喚されたとき王城の王様から先代にも召喚された勇者は魔王によって消されてしまったという話を聞かされた。

召喚には何人もの人々が苦労を掛け数年間の末ようやく召喚が可能になるらしい。

なので先代の勇者が魔王にやられてしまうとその数年の間この世界の人々は魔物による脅威に耐えて生活を送らなければいけない。

先の例があって自分がこの世界に召喚されたとしても絶対的な確信がなければ絶望の淵で真に希望を持てないのも事実だ。


「それでも勇者様は私たちに希望を持たせてくれることをやめませんでした……時に人々からは罵詈雑言を受けながらも一人でこの世界に平和を取り戻してくれたことを本当に……感謝しています……」


女性の目から涙がこぼれてくる。

勇者はすぐさま女性の傍により慰めようとした。


「いいえ……自分が魔王を討伐できたのもこの世界の人々の支えあってですよ、僕もこの町の人々には勇気をもらいましたからこちらこそ感謝していますよ」


そうすると女性は涙を拭き笑顔で笑ってくれて自然と勇者もその顔をみて笑顔になる。


勇者はようやく女性の言葉により夢から覚めたことに自覚する。

そうだ、僕は魔王を倒しこの世界に平和を取り戻した勇者なんだ!

お前にはまだやるべき使命がたくさんあるはずだ!

勇者は喝を入れ自分のやるべきことを忘れないよう心に留めた。

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