41 ハンデ


「『女だから不利だ、でも頑張って乗り越えてみせる』。その発想をまず捨てろ」


 それが一希の無意味な自己満足の正体だ。


「女が歓迎される世界じゃないのは前にも言った通りだ。だがそれは体力的におとってるからじゃないぞ。まあ口実としてそういうことを言う奴は多いがな。実際は前例がないから何かと面倒臭い。それに同種の者だけで固まってた方が人間は常に快適だからだ」


 そうかもしれない。これまで一希に嫌味いやみをぶつけてきた養成学校の教官や埜岩のいわの軍員たちの顔を思い浮かべると、新藤の論理はに落ちた。


「つまり、能力的に負けてないと証明したところで、奴らが急に味方になるわけじゃない」


「そう……ですね」


「この世界にはお前もよく知ってる資格制度がある。それだって人間が作ったもんだから完璧じゃないが、業界の重鎮じゅうちんたちが頭を寄せ合った結果だ。応募要項には『男に限る』とは書いてない。身体機能の審査は一般的な運動能力試験と健康診断だけだ。男だってこの部分で落ちる奴はたまにいるが、再受験は自由だ」


 確かに。初級の応募要項はすっかりそらで言えるほどだが、養成学校の体力テストで一希はすでに基準をクリアしていた。


「先生のお父様は、この資格の誕生を指揮した方ですよね? 当時、女性が受験する可能性って想定してらしたんでしょうか?」


 新藤の片方の口角こうかくがわずかにほおにめり込む。普通の人でいう笑顔に相当するらしいことは、一希も日々の観察から学んでいた。


「ああ。女性だけじゃない。身体障害者でも条件さえ満たせば資格を与えられるようにとこだわり続けた。何をするにも少数派のことを考える人でな。そのせいで敵も多かった。補助士の資格についてもあちこちでさんざんやり合ったが、そのお陰でもろもろの条件は妥当なところにおさまってると俺は思う」


「先生、女性の処理士や補助士はまだいないですよね?」


 そんな話があればとっくに新聞やテレビをにぎわせているはずだ。


「ああ、まだだ」


「障害のある方っていうのも実際にはさすがに……」


「どうだろうな。あり得ないとは言えん。正規の条件を満たして毎年資格を更新してさえいれば、協会も表立って文句は言えんはずだ。ただし、実際に仕事にありつけるかどうかはあくまで本人次第だが」


 一希は自分のハンデしか見ていなかったが、女以外にも弱者はいるのだ。身体障害者となれば、歓迎されないという点では女性と同じかそれ以上だろう。


 それでも受験でき、基準を満たしさえすれば不発弾処理にたずさわれる。今から三十年近くも前にそういう制度を固めた新藤隆之介を、一希は改めて尊敬した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る