40 内省
翌日、「冴島の棚」は
一希は途方に暮れた。考えろと言われても、考えることだけをそう何時間もできるものではない。
洗濯でも、と思えばもう庭に干されており、ゴミもきっちり片付いていた。
そしてだめ押しのように、朝っぱらから大量の
――もうちょっと抜かりあってもいいんじゃ……。
それでいて、一希が何をしているかを監視する
仕方なく家の周りを軽く走ったり、自転車で街を走ってみたり、気が向けば台所にも立ったり。冷蔵庫の中身との兼ね合いはこの際無視して、自分が作りたい料理を時間に追われることなくのんびりと作ってみる。
「考える」ための環境を整えようと思うと、
元気を出す、という名目を用意してアイスクリームも買った。これまでは贅沢だと思って我慢していたが、生活費の管理権も新藤に一旦
ところが、冷凍庫に入れて一晩経ち、一希が容器を開けると、中身は早くも三分の二ほどに減っている。それを見てつい笑みがこぼれた。大きなスプーンでピンク色のアイスを容器から直接すくう新藤が目に浮かぶ。そして思い出される「共有財産」という言葉。この分なら次回買うときには生活費から出しても問題なさそうだ。
新藤は、一希に逃げられても困らないとの宣言通り、何の支障もなさそうに日々をこなしている。その様子を眺めるうち、一希は自分がここにいる意味を改めて悟り始めていた。
雑用を奪われてから四日目の晩、一希は一日の仕事を終えた新藤を呼び止めた。大机で師匠と
「優先順位を間違っていました」
「ん」
「本来安全が第一。それに次ぐ二番目を挙げるとすれば、予定された作業のまっとうです。私はその二つの前に、自己満足を置いていました。いつか先生がおっしゃった通り、優先順位を
新藤はじっと聞き入り、小さなため息の後に言った。
「いかに男と張り合うか。それが今のお前の最大の関心事だ」
「……はい」
答えを出すために与えられた時間だが、実際には自分でも薄々わかっていた答えを認め、口に出すための四日間だった。
「女であることが優先順位を見失わせるなら、俺だって反対せざるを得んぞ。『これだから女は』、『
「はい……」
歯切れの悪い返事を、黙って見逃す新藤ではない。
「何だ」
「……おっしゃる通り、です」
「それで?」
「そんなことでは務まらないってことはわかったんですが、これからどうすればいいのかが……」
「ああ」
「男社会でいかに対等にやっていくかって、もう長いこと考え続けてきた気がするんです。私にとっては大事なことでもあって、生き残るために必要な気もするし……だから、はい今から忘れます、って言える感じじゃなくて」
「そりゃそうだ」
「え?」
「はい忘れますと簡単に言うようなら、出直してこいと怒鳴らなきゃならん」
「先生……」
新藤は軽く伸びをし、天井を
「難しいことだな、偏見を捨てるってのは」
「偏見……ですか?」
「そうだ。お前の中にある偏見だ」
――私の? 周りのじゃなくて?
「お前は自分が女だと意識すまい、させまいとするあまり、
霧が晴れた気がした。言われてみればその通りだ。しかし、一希がようやく素直にうなずけるのも、四日間真剣に
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