38 貧血
すでに
日々の修業にますます力を入れ始めたある日、一希は全身の重だるさとともに目を覚ました。目の前の大机で新藤が何か書き物をしている。一希ははっと身を起こしかけたが視界がぼやけ、思わず
「起きたか?」
「あ、先生、すみません私……」
「気分はどうだ?」
「あ、何とか大丈夫です。あの、私……寝ちゃってました?」
「そのようだな」
穴があったら入りたいとはこのことだ。一気に記憶がよみがえる。
今日、夕食を終えた後のことだった。
「冴島、手
「あ、はい」
「これ、車に積むの手伝ってくれ」
新藤が指し示したのは、玄関脇の台車に積み上げられたプラスチックケース十数個分のストロッカ。解体処理済みの部品だ。
「……はい」
一瞬の
「いやなら別にかまわんぞ」
「いえ、まさか……」
慌ててケースの一つに手をかける。結構な重さだ。持ち上げる前にしばし呼吸を整える。
「どうした、具合でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です」
よっこらしょと持ち上げ、新藤の後について外に出ると、車は目の前に
一つ
何とか二つ目を荷台に上げて
気が付いたら一希はソファーに横たわっており、驚いて立ち上がろうとするのを新藤に止められた。しばらく横になってろと言われ、そのまま眠ってしまったらしい。
もともと調子が悪かったところに、最近出前が続いていたのが申し訳なくて、昨晩は
布団に入ってからも、道具渡しのイメージトレーニングをぐるぐると繰り返しているうちに目が
それに加えて今日はたまっていた洗濯。そこへきて新藤が部品運びを手伝えるかと言い出したのだ。本音を言えば早く横になりたかったが、新藤の方がずっと忙しいし疲れているはず。
新藤の仕事をできるだけサポートしたい気持ちもあるし、ここでへこたれていたら処理士どころか補助士にすらなれないかもしれない。そのプレッシャーは、一希にとって体の疲労よりもずっと身に
どれぐらい眠っていたのか
「何なんだ? 貧血か?」
「かもしれません」
「何か
「大丈夫です」
「お前の大丈夫は聞き飽きた。ここで隠したって、どうせ試験のときには健康診断でバレるぞ」
「いえ、病気ってわけじゃないので」
「じゃ何なんだ?」
「今日はちょっと調子が……」
「お前はちょっと調子が悪いと気を失うのか?」
「気を失ったのは初めてです」
「明日にでも病院に行ってこい」
「あ、その必要はないと思いま……」
「まったく急なことで原因不明なのか、慢性のものなのかじゃえらい違いだ。医者に聞いてはっきりさせておけ。予測が立つんならまだいいが、いつ意識を失うかわかりませんなんて奴に爆弾を任せられると思うか?」
まずい、このままでは完全に病気扱いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます