第2話 ネタバラシ
そんな彼を前にして、セシリアは「あぁ」と独り言ちる。
彼が指して言ったのは、おそらくクラウンが無自覚のままにナイスアシストを決めてくれた例のアレの事だろう。
しかしあれは。
(「泣かされそうになっていた」のではなくて、真相は「泣かされてるふりをした」が正しいんだけど)
そう思ったのと、ゼルゼンが「おや、その様なことが?」と言ったのがほぼ同時だった。
その声色は、ただの疑問系だった。
しかしその実、目は明らかにセシリアの事を責めている。
(……分かってる、分かってるからそんな目でこっちを見ないで)
さも「十中八九勘違いだろ、説明してやれ」と言いたげな目だ。
現場では彼の思い違いを否定する事はできなかったものの、そんな目をせずとも元々この話は彼にきちんとするつもりだった。
だからそんなに責めないでほしい。
しかしこの目、間違いなく彼がクラウンの味方に立った証拠である。
ドレスを汚されて以降、ゼルゼンからは彼を激しく警戒している気配があった。
それも時間と共に徐々に軟化してきていたのだが、ここに来て彼の味方に立つまでの信頼が2人の間に出来ているとは。
2人の事をそれぞれ友人認定しているセシリアからすると結構嬉しやら、仲間外れにされて寂しいやら。
何だか微妙な気持ちである。
そんな気持ちを振り払うように咳払いを一つしてから、セシリアはネタバラシを開始する。
「クラウン様。実はアレは、演技だったです。宰相様が私のお友達からクラウン様を除け者にしたものですから、ちょっと腹が立ってしまって……出来心だったのです」
そう言って、シュンと肩を落として見せる。
確かに彼が除け者にされるだろう事は、一応想定していた事だった。
だからあの行動も、出来心などではなく用意していた選択肢の内の一つではあったのだが、しかしそれでも腹が立ったのは本当である。
決して嘘などではない。
「申し訳ありません」
そう言って謝れば、彼はキョトンとした顔になった。
しかしその後すぐにホッとしながら笑う。
「そうだったのか。いやまぁ、セシリア嬢が悲しい思いをしていないのならば俺はそれで良いのが……」
本気で心配してくれて、今も「良かった」と言ってくれる。
そんな彼と友達になれて良かった。
セシリアはそう思った。
だからフワリと微笑みながら「ありがとうございます」と笑顔で言った。
そして、こんな風に催促しておく。
「ぜひ今度、クラウン様の『お友達』を紹介してくださいね?」
敢えて茶化す様な声色でそう言えば、彼は少し驚いたような顔をした。
「知っていたのか……?」
「勿論です」
知っている。
彼に最近社交場で、新しい友人が出来た事は。
その人が、もし彼の探している『本当の友達』になってくれればいい。
そして、もしクラウンが自信を持って『そう』だと言える日が来たならば、是非とも紹介してほしい。
2人の交流を知った時に、セシリアはそんな風に思ったのだ。
「無理にとは言いませんが、これでも紹介してくれる日を楽しみにしているのです」
セシリアがそう言うと、彼は少し照れくさそうな顔になる。
「何だか少し気恥ずかしい気もするが……分かった。今度紹介しよう」
そう言ったクラウンに、セシリアは「えぇ今度」と言って笑ったのだった。
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