セシリアの本気は容赦なく突き刺さる
第1話 ずっと心配していた者たち
謁見の間を出ると流石に、セシリアも息を吐いた。
達成感、そして安堵。
それらは計画していた事が全て上手く成せた証のようなものだ。
クラウンとの件について綺麗サッパリ決着を付ける。
見つけた不正を告発し、同時にセシリアを取り込もうとした『保守派』、基宰相を牽制する。
そして、セシリアの周りを騒がせていた婚約問題を明確に諦めさせる。
あれだけの人の目の前でそれを成したのだ、どれも有耶無耶には出来ないだろう。
(それに加えて、最後に私の行動理念について皆の前で披露出来たのは僥倖だった)
そんな風に、セシリアは独り言ちる。
権力を始めとした面倒を嫌っている。
それを示す事に成功したお陰で、今後はおそらくそういった類のちょっかいも減る事だろう。
少なくとも、セシリアを敵に回したくなければ。
本当に良い仕事をした。
そんな風に思いつつ、セシリアは他の召喚者達と共に来た道を戻る。
すると、三重扉の最後の一つを過ぎたところで良く見知った影を見つけた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
伯爵家の面々に対して恭しく頭を下げる、筆頭執事のマルク。
その隣には、同じように敬礼をする後の2人の姿もある。
おそらくこの三人は用意されていた部屋で謁見の終了をいち早く聞きつけ、早々に辞去してきたのだろう。
流石はマルク、王城でさえもその仕事には死角ない。
彼の挨拶に、ワルターが短く「あぁ」と応じた。
すると通り過ぎた主人の後ろ付き従いながら彼は尋ねる。
「――それで、旦那様」
「あぁ問題ない」
本題なんてまだ何も言っていないのに、ワルターはマルクが何が聞きたいのかをどうやら早々に察したようだった。
そしてマルクも、ワルターの相手は心得ている。
この「問題ない」が『万事上手くいった』という意味である事をすぐに理解し、フッと柔らかな笑みを浮かべた。
「それはようございました」
その声は朗らかだった。
そしてそれを決して裏切らない、仕事中の彼にしては実に珍しい素の笑顔。
それらを見聞きして、セシリアは「どうやら彼にも相当に気を揉ませてしまっていたようだ」という感想を抱く。
マルクならワルターの手腕をよく知っている筈である。
それでもこんな顔をするのだから、おそらくこの謁見召喚の当事者がセシリアだった事を気にしてくれていたのだろう。
しかしセシリアはもう一人、彼以上に気を揉みながら待っていただろう人間を知っている。
だからその人物が後ろに寄り添ってきたところで、セシリアは彼にこう言った。
「特に問題なかったよ?」
「それは非常に疑わしいですね、またやりすぎたのではありませんか?」
「……人を過激派みたいに言わないでよ」
せっかく気にしていると思ってすぐさま安心させる為の言葉を口にしたのに、全く信じていない。
そんなゼルゼンに、セシリアは思わず口を尖らせる。
外だから一応敬語ではあるが、陣取っているのが一団の最後尾であり、話しているのが小声だからなのか。
言っている事が結構ひどい。
「別に何もなかったよ」
「本当ですか?」
「本当に」
「なら良いのですが」
仕事に勤勉な彼の事だ。
「良いのですが」の後にはきっと、「何かあったときにフォローするのは俺なんだからちゃんと教えておけよな」という言葉が続くのではないかと思う。
フォローもその為に色々と知っておく事も、確かにセシリアの専属執事である彼の仕事だ。
帰宅した後で今回の筋を一通り彼に話しておこうと思い、セシリアは心の中で小さく頷いた。
そんなセシリアの後ろから、「何もなかった」というセシリアの言に異議を唱える声が掛けられる。
「そんな事は無いだろう? 現に宰相に泣かされそうになっていたし」
言ったのは、一緒に謁見の間を退室してきたクラウンだ。
周りを見れば、彼の父・グランは、今正に『ワルターの前を歩く』という優越感を抱く以外には何の役にも立たない実績を積み上げている最中であるし、彼らの使用人もまだ合流していないようだ。
お陰で今のクラウンに目を留める者は居ない。
おそらく監視もなく手持ち無沙汰だった上に彼にとってゼルゼンが見知った人物だった事で、こちらの会話に参加することにしたのだろう。
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