第2話 どうしようもなく嫌な予感
普通、一伯爵家宛に召喚命令が発令される事などありはしない。
侯爵や公爵家、または王族と懇意にしている家ならばそれもあるかもしれないが、オルトガン伯爵家にはそういった縁がない。
否、今まで避けてきた。
そもそもワルターの父親が王弟と仲が悪かった。
それに加えて、ワルターの過去の『やらかし』もある。
王族としても、オルトガン伯爵家は『触りたくないパンドラの箱』に近いだろう。
最近はセシリアが第二王子と何かと接触しているが、どちらかというとそれは『個人同士』の付き合いだ。
個人同士の付き合いだけで王城への召喚命令を出すなど職権濫用も甚だしいし、他貴族へも説明が付かない。
少なくとも外向きの理由が必要になる。
そうなると、もう一つ。
何らかの不正や失態による聴取が召喚理由として挙げられるが、こちらも同じく心当たりが皆無である。
むしろそんなものが見つかったのなら是非とも聞かせて欲しい。
まぁもし本当にそうなった場合、そんなものを用意した張本人には、全力でそれ相応の報いを受けて貰う事になるだろうが。
しかしあり得る可能性を全て潰した所で、セシリアはまた疑問にぶち当たる。
(じゃぁ一体、どんな理由があるのだろうか)
そんな疑問だ。
セシリアが知る限り、王族に呼ばれるほどの案件といえば、思い浮かぶのは例の『保守派』の企てに関する事くらいだ。
(もしかして、探っている事があちらにバレた?)
だから王城に呼び出して、こちらに何らかの釘を刺そうとしているのでは。
そう考えて、しかしすぐにそれを却下する。
何故なら、もしそうならそもそも王城に『召喚』という正式な形で呼び出すのはおかしな話なのだから。
国内の政治派閥は、現在それらは絶妙なバランスを保っている。
クラウンの一件があったため、現在はやや『保守派』優勢ではあるらしいが、それでもまだ決定的にはなっていない。
かなりギリギリではあるものの、両者の均衡はどうにか保てているのである。
そんな微妙な情勢の中、もし今どちらか一方の肩を持ってしまえば。
そう思えば、例え『王族』という権威があってもそれは流石に出来ないだろう。
(なら、探られたくない人の工作で、ありもしない罪をでっち上げられた、とか?)
これは先程思い当たった二つ目の召喚理由に類似するが、この場合の目的は「伯爵家を陥れる事」ではなく「あわよくば見せしめ、無理なら牽制」といった所だろう。
しかしこれも考え難い。
(お父様とお母様がそんな隙を見せるとは、とてもじゃないけど思えない)
それほど、セシリアが知る2人は甘くない。
親から社会を継いだ時、自分の首を絞めるのも厭わず自領の悪事を粛清し切ったワルターと、それを知っていて自らそこに嫁いできたクレアリンゼだ。
どんな些細な不正も自身に許しはしないし、偽の証拠をでっち上げさせるような暇さえ相手に与えないだろう。
召喚なんて事態になる前に相手は返り討ちにあっている筈だ。
(でも、じゃぁ何故――)
何故召喚などされたのだろう。
結局どの考察もしっくり来ずに、心の中でとそんな言葉を唱えてみれば、どうやら兄姉達も似たような思考に行き着いたようだ。
「お父様、それで召喚の名目は一体何なのですか……?」
顎に手を添えながら、キリルがそう父に尋ねた。
そしてそれに、マリーシアも同意を示す。
セシリアも気になって同じように両親へと視線を向けた。
すると何故かワルターが、他の兄姉ではなくセシリアだけを真っ直ぐに見る。
そして、告げられた。
「今回の召喚名目は『王城パーティーにおけるセシリアの途中退場』だ」
その言葉は、セシリアにどうしようもなく嫌な予感を齎した。
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