エピローグ

第1話 リスクがあっても



「良かったね、仲直りできて」

「えぇ、ありがとうございます。レガシー様」


 彼女との話が終わった後、レガシーがやってきてそう言った。

 結果なんて全く教えていないというのに、彼は何故か結果を当てて、その上サラリと言ってみせる。

 


 しかしそんな彼が、安定の定位置に腰を下ろすと少しバツが悪そうな顔になった。

 

「……ごめんね、口止めされたたのに」


 告げられたその声は、いつも以上に弱々しい。

 しかしその理由も謝罪の意味も、セシリアにはすぐに分かった。


 

 テレーサは、クラウンが事の詳細を知っているかについては触れなかった。

 しかし、経緯を知らせずにクラウンを動かす事は出来いだろう。

 そう思っていた為、突然それを詫びる言葉を投げかけられてもセシリアは特段驚かない。


 そして、彼の事を責める気もない。


「確かにレガシー様は私の『他の方には内緒で』というお願いを叶えてはくださいませんでしたけれど……代わりに私の本当の願いを叶えてくれました」


 そんな方に対して一体何を怒るんです?

 そう言って、セシリアは本心からの微笑を浮かべる。


「それに、レガシー様は『クラウン様なら漏らさない』と判断されたからお話ししたのでしょう?」

「まぁ、根拠なんか無かったけど」

「それでもご自分が被るかもしれないリスクを冒してでも話す気になったのでしょう? レガシー様は」


 セシリアがそう指摘すると、彼は「お見通しか」と言わんばかりに苦笑した。

 

「……そうだね。『保守派』貴族の僕が『革新派』貴族の彼に、『保守派』が隠そうとしている件を漏らすのは極めてリスキーだ」


 あの時のレガシーは、下手をすれば「『革新派』の内通者」というレッテルを貼られかねない立場だった。


 それを押しても彼に事実を伝える決心がついたのは、確かにセシリアの指摘通り、ただ彼女を助けたいという一心だけが理由ではない。


「僕は、彼がこの件を決して政治的な道具にはしないって信じた」


 彼がセシリアに見せた、謝罪という名の誠意の中に。

 どんなに風当たりが強くても背筋をピンと張り、貴族然としているその背中に。

 そして、彼の瞳の奥に。


 レガシーは信用を見い出していた。


 決定的な根拠では無い。

 しかし、彼はそんな『形無いモノ』にこそ価値を見出した。


「少なくとも『クラウン様個人』は、セシリア嬢に不利益を齎すような事はしないだろうから」

「……そうですか」


 呟きにも似た彼の声を、セシリアは肯定しながら微笑んだ。


 そして。


「レガシー様、今回は本当にありがとうございました」


 彼と彼に出来たのだろう新たな友人に、改めて心からの謝意を述べたのだった。


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