第11話 ノートンの裏工作
テンドレード侯爵・ノートンは、深く項垂れていた。
というのも、どうやら策略が失敗に終わったらしいからだ。
これは『あの方』直々のご希望だった。
それを成せなかった事で、今後一体どのような影響が出てくるか。
考えるだけでも気が滅入る。
(だからこそ、わざわざあんなにも用意周到に事を運んだというのに)
オルトガン伯爵家の子供がどういう人間かという事は、誰よりも自分が良く知っている。
何故ならば、何を隠そう数年前に自らそのせいで痛い目を見たのだから。
しかしそれでも今回は自信があったのだ。
何故なら「大人気ない」という自覚があるくらい、彼女を心理的がんじがらめにしたつもりだったのだから。
事の一部始終は、その場に居合わせた使用人から今しがた聞いたところだ。
本当は当事者本人の口から話を聞きたかったのだが、テレーサは塞ぎ込んで部屋から出てこないという。
セシリアに言われた言葉がそれ程堪えたのだろう。
ならば、少し放っておいてやった方がいい。
しかし、それにしても。
(まさかセシリア嬢がお茶会を自ら中座するとは、な)
そんな風に独り言ちる。
セシリアが今年の王城パーティーで中座した事は、まだ記憶に新しい。
その時に、彼女は『中座』というものが如何に問題行動なのかを学んだ筈だ。
(その辺の教育を怠る様な伯爵では無い。きっとあの後、親から懇々と言われた筈だ。それなのに)
彼女は今回も中座した。
今回は、侯爵家の主催するお茶会だ。
勿論王族主催のパーティーとは比べ物にならないが、それでも3侯爵家の内の1家であり、セシリアの家よりも爵位の高い家が主催するパーティーだ。
例え「子供だけのお茶会だ」と言っても、主催として侯爵家の名が掲げられている以上、中座へのハードルは変わらない。
だから今回は、前回に懲りて中座せざる負えないような事をするのは避けるだろう。
そう思っていたのだが、そんな予想は打ち砕かれた。
余程腹に据えかねたのか。
それとも他に理由があるのか。
その場に居なかったノートンには、残念ながらその答えは分からない。
しかし一つ、思う事はある。
(まさかテレーサがこんな大コケさせられるとは思わなかったな)
話を聞くに、今回の失敗はテレーサの力量云々というよりも、セシリアがノートンの予想を大きく上回る行動をしたからだと思われる。
こちらがどれほど予想しても、彼らは更にその上を行く。
悔しいほどに、忌々しい事に。
今回ノートンは、裏で様々な手を打った。
お茶会の主催者にテレーサの名前を出した事。
大人の横やりが入らない様に大人禁制のお茶会にする事。
そして、周りの令嬢達に予め話を通させておき、集団の力を使わせた事。
そしてその上で彼女に対する足枷を2つ、用意した。
1つ目は、テレーサにはあくまでも自発的に行動させる事。
(セシリア嬢の母君はあの方だ。キリル殿の当時の出来上がり具合を見ても、セシリア嬢が人の思考や顔色を読めるかもしれない事は、十分考慮に入れる必要があった)
だからこそノートンは、テレーサに納得を促し、彼女が自身の行動を「これは正しい事だ」と信じる様に誘導した。
事実がどうかは関係ない。
テレーサが善意だけで行う事なら、その裏の策略は読めないだろうと踏んだのだ。
そしてそんな思惑は、おそらく成功したのだろう。
それは報告してきた使用人の話に出てきたセシリアの物言いからも明らかだった。
しかし。
(善意の塊のような相手の言葉を拒否するのはさぞかしし難い事だろう。そう思っていたのだがな)
その思惑は、結果的に大きく外れた。
2つ目は、テレーサに『友人アピール』をさせる事。
それを促す為に、ノートンはテレーサとの会話の中で、努めて『友人』という言葉を多用した。
テレーサにそう言えば、彼女は必ずセシリアの話す時にその言葉を多用するだろう。
これはそう踏んでの事であり、こちらも話を聞く限りでは成功しているようである。
(こちらは「幾ら社交は領地や家の利益が第一とはいえ、目の前で友人アピールをされれば少なからず情に流され甘くなるだろう」と思っての事だったのだが……)
結局手痛い反撃を受けたのだから、意味がない。
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