第2話 何故こんなにも
ゼルゼンの目から見ても、確かにここ最近のセシリアはテレーサとの会話を楽しんでいた。
だから「仲よくしたい」「嫌われたくない」と言う事は、別に意外でも無ければおかしいとも思わない。
それでも彼女がああまでテレーサを追い詰めるに至った原因は、十中八九彼女の諸々がセシリアの『貴族』の部分に障ってしまったからだろう。
今までずっとセシリアを見てきたゼルゼンだからこそ、それはよく分かる。
しかしセシリアの悩みが「テレーサとの仲」ならば、話は早い。
「じゃぁ仲直りすれば良いんじゃないか?」
セシリアが相手を怒らせたのなら未だしも、今回は相手がセシリアを怒らせた形だ。
ならばセシリアが「もう怒っていないから」と示すだけで、事は済む。
そう言ってみたのだが、セシリアの反応はあまり良くない。
首を横に振ったようだが、元々布団に突っ伏しているセシリアだ。
ゼルゼン側から見ると、残念ながらリネンに顔面を擦りつけるようにしか見えない。
その仕草があまりに年相応に子供っぽくて、しかし普段のセシリアっぽくはなくて。
だからゼルゼンが思い出したのは、出会った頃のセシリアだ。
あの頃のセシリアは喜怒哀楽に素直で、ちょっと目を離すと何をしでかすか分からないような女の子だった。
そこまで思い出して、思わず笑う。
(いや、何しでかすか分からないのは今でも同じか)
例えば、あの頃に比べて小さな怪我をする事は減った。
しかしやはり今でも彼女は、ゼルゼンにとって目の離せない、否、目が離し難い相手である。
それはずっと変わらない。
そう思えば「もう長い付き合いなんだなぁ」と、心中でしみじみ独り言ちた。
そんな風に、1人勝手に和みつつあるゼルゼン。
しかしその一方で、セシリアの深刻げな吐露は続く。
「……あんな形で中座しちゃったし、テレーサ様は私の事、もう嫌いになっちゃったかも。それに、もし関係修復したとしても例えばそれが義務や建前としてのものだとしたら、それは『偽物』でしかない」
偽物。
彼女が気にしたソレはきっと、社交界には溢れている。
セシリアだって普段は『社交の仮面』で武装している。
それも十分に偽物と言えるだろう。
そしてそれは、きっとセシリアだって分かっている筈だ。
それでも彼女は「嫌だ」と、「本物が良い」とそう言った。
それはセシリアがテレーサの事を既に「居ないと寂しい」と思っている事に他ならない。
(最初は警戒しか、していなかったのに)
セシリアの当時の様子を振り返れば、思わず微笑ましくなった。
彼女と『対等』なお友達になってから、丁度最近1カ月が過ぎたところだ。
その間の交流の回数も一桁で、決して多いとは言えない。
しかしその心眼は、おそらく彼女マイナス面と共にプラス面もきちんと見抜いていたのだろう。
でなければ、今セシリアはきっとこんなに萎れていない。
(そういうのを見極めるの、コイツは得意だからなぁ)
呆れる様な、感嘆する様な、そんな気持ちで彼女を見遣る。
弱気に丸まった彼女の背中は、いつになく弱々しい。
そしてゼルゼンは、そんな彼女に首を傾げずにはいられない。
人間関係の構築は、セシリアの得意分野な筈である。
昔からセシリアには「人心掌握に長けている」というイメージしか無い。
それは彼女が相手を良く見ているからなのだろうと思う。
だから決して壁を感じさせない。
だから初対面の人とだってすぐに仲良くなる事が出来るし、意図せず相手に悪印象を与える事は絶対にない。
それは彼女が今までずっと自身の言動で実証し続けている事だ。
例えば、4歳の時のゼルゼンとの初対面や『おしごとツアー』。
セシリアは出会いこそ色々あったものの、今のなってはゼルゼンやユン、グリムとも、良好過ぎるくらい良好な関係性を築く事が出来ている。
最近で言うならば、クラウンが正にそうだ。
彼とだって出会いのキッカケはトラブルだった。
自分の殻に籠っていたレガシーだって、持ち前の観察力と判断力、そして知識力を駆使してで思いの外スムーズに仲良くなった。
それなのに、何故こんなにもテレーサ相手には弱気なのか。
一体何が違うのだろうか。
そんな風に考えて、少ししてから腑に落ちた。
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