第19話 見えてきた企ての輪郭
裏で国を揺るがす様なやり取りや個人の域を出ない物品交流である事という条件の下、監視が付いたやりとりではある。
が、それ以上の縛りはない為レレナもクレアリンゼも甘んじてその扱いを受けているのが現状だ。
そしてそんな状態なのだから、普通のルートで共和国産の茶葉を手に入れる事など出来る筈が無い。
まず、共和国産のものなどもちろん市場には出回らない。
闇市場で共和国産の物が出回らない事は無いが、それにしたって出回るのは粗悪品ばかりだ。
高級な茶葉が出回る事など決して無い。
他に考えられる可能性は『個人的にルートを持っている人間が貰った茶葉をプレゼントした』というものだろうが、それもあり得ない。
何故ならば。
(共和国へのチャンネルが少ない事は周知の事実。そんな中でチャンネルを持たない人間が共和国産の品を持っていると知られたら、周りから「もしかして共和国との間に不正な外交ルートを持っているのではないか」って疑われる可能性がある)
セシリアにさえ、そうと分かるのだ。
そんな懸念の存在にあの二人が気付かない筈などは無く、分かった上で容易にソレを第三者へと譲る程浅はかでも無いだろう。
しかし、そうなるとやはりこの疑問に立ち返る事となる。
(かの家にあったあの茶葉は、一体どこからやってきたのか)
そう自身に問いかけて、しかし答えはすぐに一つへと絞り込まれた。
今までの思考を全て攫えば、答えなどたった一つしか無い。
そして。
(そこから逆算すれば、彼らの企ての輪郭も朧げに見えて来る)
そして、それはクレアリンゼも同じだった様である。
「ありがとう、セシリア。共和国と『保守派』の裏の繋がり有無について、少し探ってみる事にしましょう」
そう言って、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべる。
「『保守派』の理念、そして国交断絶中の共和国産の茶葉。そこから考えられる可能性は……『和平条約の調印』。この辺りが妥当なんじゃないかしら?」
そんな彼女に、セシリアもコクリと頷いた。
テレーサは、ソレが叶えば『保守派』の権威が上がる事は間違いないと言っていた。
他国との条約を以って近隣諸国と取り纏めるべきだという『保守派』の理念に沿いながら、尚且つ『革新派』を大きく突き放す。
そんな方法なんて、それくらいしか思いつかない。
そんな答えを出した娘に、おそらく母は気が付いたのだろう。
満足げな顔で娘を眺める彼女の横顔は、しかしそれだけに留まらない。
彼女の瞳には既に未来が映っている。
調査し、把握し、そしてもしもオルトガン伯爵家の害になるような何かが企てられていたならば。
「その時は、本格的に動かなければなりませんね」
そんな事を呟きながら、クレアリンゼはティーカップに口を寄せる。
彼女達にとって、これはまだ『本格的』の域には入らない。
彼女達が本格的に動く時。
もしかしたら、それは国ぐるみの大事になる時なのかもしれない。
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