第15話 容赦ないセシリア、涙目のテレーサ
先程までの冷たい目とワントーン落ちた声も怖かったが、その後のこれである。
これはこれで「より一層恐ろしい」と怯える気持ちも分からなくはない。
そしてそれは今のセシリアにとっては好都合だ。
「別に恩を着せようという気などは全く――」
恐ろしいが、反論しなければ肯定と取られてしまう。
それを恐れたテレーサの言葉を、セシリアは。
「あら、もしかしてお気付きでは無いのですか?」
そんな言葉で再び遮る。
「利益を分けて『あげたい』と貴方は言いました。『あげたい』とは、本来上の者が下の者に施す事です」
怯えさせて、弁解の邪魔をして。
それは少し可哀想な気もするが、セシリアにだって立場はある。
これに関しては「友人だから」といって手を抜くことなど決して出来ない。
「確かに当家は伯爵家、あなたのお家よりも格が1つ下がります。ならばこの『あげたい』とは、爵位が上の者が下の者に施すという意味なのでしょうか。だとすれば例え仲良くなどしていなくても、貴方からの施しは頂けそうですけれど」
そう言ってセシリアがクスリと笑えば、テレーサが何かを言おうと口を開いた。
しかしそれが言葉になる前に、セシリアはまた話を再開する。
「一緒に頑張って、一緒に立ち向かって、一緒に利を分け合う。そう貴方は言いました。しかし、そんな事は今でも十分可能です、同じ国の貴族として」
もし何の利害の一致もなくしてそんな事が出来たとしたら、それはとても素晴らしい事だ。
しかし『その気』さえあればいつでもできる事にも関わらず、現状ではそれが出来ていないのは、貴族達が皆個々に様々な思惑を抱え、自身の利益のために動くからだ。
「ねぇテレーサ様。現状のままでも達成出来る事をする為に、何故私が殿下と婚約する必要があるのでしょう?」
結局『セシリアの事を考えて』なんて言葉、ただの方便に過ぎないのだ。
その裏には、間違いなく『保守派』の思惑が潜んでいる。
「つまり貴方のあの物言いは、自分の利のために他者を従える事を許容し、その為の方法として私達に恩を売ろうとしたという事なのですよ」
「私には本当に、そんな気など全くありませんのに……」
「例え貴方が意識的にそうした訳ではなかったとしても、貴方の言動がそうであると示しているのです」
俯いたテレーサに対して、セシリアは容赦なくそう言った。
セシリアからすれば、今は彼女が意図的であろうがなかろうが関係ないのだ。
大切なのは「結果的にどうなのか」でしか無いのだから仕方がない。
しかしテレーサからするとそれはただの鋭い凶器でしか無かった。
「……酷いです、セシリア様」
明らかな涙声だった。
思えば先程から周りからは時折グスリと鼻を啜る音が聞こえて来ている。
しかも、複数人から。
幾ら統率されているとはいえ、流石に此処まで大人数が泣きの演技に長けているとは思えない。
おそらく本気泣きなのだろう。
しかしそんな彼女たちを前にしても、セシリアは揺らがない。
「別に酷くはありません。貴方は貴方の思った事を主張した。だから私は私の思った事を答えただけではないですか」
セシリアからすると、相手と同じことをしただけなのだ。
当然の権利を行使しただけのだから、攻められるのは道理に合わない。
しかしそんな主張も感情論を前にすれば簡単に押し流されてしまう。
「でもそんな言い方……私達、お友達なのに」
言い方については確かに10歳児に対して向けるべきものでは無かったかもしれないし、そもそも彼女自身が何か策謀を巡らせていた訳でも無いだろう。
しかし、それだけでは今のセシリアを止める材料にはなり得ない。
「そう、私達は『対等』なお友達です。私は最初に言いましたよ? 『貴方が私に対等を求めるなら、私との間に意見的な対立の可能性を覚悟してほしい』と」
そう言うと、彼女はおそらくその時の事を思い出したのだろう。
肩がピクリと反応する。
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