第6話 彼女が求めているものは



 テレーサは先程、ここに来た理由を「貴方とお話がしたくて」と説明していた。

 しかし、セシリアからするとそれはどうにも不自然に思えてならない。

 

(何か、そうさせる理由が彼女にはあるのだろう)

 

 そんな風に当たりをつける。


「それでテレーサ様、何をお話ししましょうか?」


 テレーサには申し訳ないが、セシリアの方には彼女に用事が無い。

 取り巻き達の視線も痛い事であるし、ならば早くこのやり取りを終わらせてしまいたいと思うのは尤もと言えば尤もだ。


 

 これは、だからこその話題の催促だった。

 だってこうなればもう、なるべく早く彼女の用事を終わらせるのが一番手っ取り早いのだから。



 しかしセシリアの発した問いに、テレーサは煮えきらない答えを返してくる。


「何を、と言われましても……」


 言いながら彷徨う視線は、明らかに適当な話題を探す動きをしていた。

 そんな彼女の反応に、セシリアはまた少し驚く。



 セシリアとしては「前置きなんて気にせず早々に本題に入っていただいていいのですよ?」という意図も込めた言葉だった。

 テレーサも、それを喜んで受け取ってくれると思っていたのだが、どうやらその想定は外れてしまったらしい。


 その反応で、セシリアは流石に自分の考えを改めざるを得なくなった。

 

(もしかして、本当に話の内容には頓着していないの……?)


 今までセシリアは、彼女の言葉の裏を読んできた。


 しかし、もし裏など無いのなら。

 もし彼女が大した会話的な目的を持っていないのだとしたら。


 そんな状態で突然「具体的な話を振れ」と言われて困る気持ちも分かる。



 そこまで思い至れば、今までの全てが彼女のソレを裏付けている事に気がついた。

 そしてソレに気がつけば、こちらとしても打つ手は見いだせる。


「それでは、私の方から1つお聞きしても良いでしょうか?」


 何かを話してみたい。

 しかしその話題は思いつかない。

 だとしたら、セシリアとしては相手の要望を叶えつつ自分の糧にすれば良い。

 そもそもセシリアは、会話の主導権がある方が落ち着くのだから尚更だ。



 そしてセシリアのそんな提案に、テレーサはとても嬉しそうに微笑んだ。

 それを了承と取り、口を開く。


「テレーナ様は、先程『私と外聞の無い所で話したかった』と仰いましたが、何故その相手が私なのでしょうか?」


 もしテレーサが本当にそういう理由でセシリアと話す事を望んでいるのだとしたら、何故自分が選ばれたのか。

 セシリアにとっては、それが一番の疑問だった。


 だからこそ第一声で尋ねたのだが、彼女からするとまさかそんな話を振られるなどとは思っていなかったのだろう。

 テレーサは、その声にキョトンとした顔になった。

 しかしすぐに「そうですね」と言いながら思案顔になる。


 しかしそれも、ほんの2、3秒の事だった。


「……私は普段、周りの令嬢達に対して模範的な態度であらねばならないと思っています。そして周りも私にソレを求めて接してくる。それを悪いとは言いません。しかしそれが故に、私には『対等』な相手というものが存在しないのです」


 そんな言葉を聞いて、セシリアはまず始めに「それは確かにそうだろうな」と思った。

 

 だって皆の上に立つ者としての教育を受けている人間が、まさかその教育の場で作れる筈など無いのである。

 もしかしたら最上であるべき人間の立場を揺るがす様な、『対等』なんてそんな存在(もの)を。



 しかしテレーサは、その事に真面目に悩んでいるようだった。

 そして彼女の今の言葉を聞いて、セシリアは分かってしまう。


「……テレーサ様にとっての『対等』に、私が成れると?」


 言葉は少なく、直接的な言い方はしていなかった。

 しかし少なくともセシリアの耳には、最早そういう風にしか聞こえなかった。


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