第5話 取り巻き達の視線が痛い
セシリアから向かって右側。
丁度子供達の社交場になっているその場所の一角に、何人もの令嬢達が固まって座る場所があった。
その彼女達が、こちらを、否、セシリアを睨み付けてきているのだ。
よく見れば、どれも『保守派』陣営の家の子ばかり。
テレーサの取り巻き達で間違いない。
嫉妬に満ちた鋭い視線に攻撃されながら、セシリアは『面倒事』の襲来を自覚した。
彼女達が一体何をどう思って嫉妬に走っているのかは分からないが、余程『主人』と引き離された事が不満らしい。
あれじゃぁ陰口は愚か、下手をすれば何かしらのアクションがあってもおかしくはない。
「テレーサ様、皆様に一体どのようにお伝えしてきたここに来たのです……?」
『面倒事』の種を眺めながらテレーサにそう尋ねると、少し不思議そうな表情でセシリアの視線の先を目で追ってその正体に辿り着く。
その直前、令嬢達はちょうどギリギリセーフのタイミングでこちらから視線を外した。
そのため彼女の瞳に映ったのは、にこやかに歓談しているように見える令嬢達の姿だけだ。
お陰で彼女たちが抱いた反感は、辛うじてテレーサの目には入らずに済んだ。
あまりに絶妙なタイミングだったので、例えば「そういった事を彼女に隠す訓練をしているのだ」と言われたならば、納得するどころか感心さえしていただろう。
そんな訳で下の者の粗相は視界に入らなかったものの、セシリアが一体誰の事を指して言っているのかはどうやら分かったようである。
「『どのように』と言われましても……普通に『セシリア様と2人でお話がしたいから少し席を外してくれないかしら』と言っただけですよ?」
そんな風に彼女は答えた。
困惑気味な声色からは「私、何か悪い事でもしてしまったでしょうか?」という感情が見て取れる。
そんな彼女に「そうですか……」と答えながら、セシリアは心の中で「同じ事を言うにしても、もう少し言葉に気を使ってほしかったなぁ」と独り言ちる。
その言い方だと令嬢達は十中八九「テレーサに邪魔者扱いされた」と思っただろう。
何で自分達がその場に居てはいけないのか。
いつも一緒に居るからこそ、理由も告げずに突然距離を取られればそんな反感を持ってしまう。
そして、いつもと違う彼女の言動の原因を探り、それがいつもと違う『何か』の中にあるのだと考え至る。
そうなれば、みんな同じ答えに辿り着くだろう。
――『主人』と私達の間を引き裂いたのは『セシリア』という異分子だ、と。
手に取るように分かってしまった彼女達の嫉妬の変遷と、それに伴い発生するだろう新たな『面倒事』の匂いに、セシリアのテンションは急降下だ。
本来ならば、その面倒は『主人』であるテレーサが執り成すべきだろう。
それが当然の帰結だし、何よりも最も摩擦が無くて済む。
しかし、残念ながら彼女にはまだその技量が無い。
その為の『練習場』なのだから、彼女が発展途上なのは当たり前だ。
それは仕方がないだろう。
こうなれば、セシリアが何かしらのフォローをする他ない。
勿論「あの令嬢達の感情を裏から操ってセシリアを間接的に攻撃している」という可能性が無い訳ではないのだが、セシリアの観察眼は「彼女は『白』だ」と言っている。
そして「彼女がセシリアの目を欺くほどの強者だ」という可能性も捨てきれないが、母親やヴォルド公爵夫人の内情も、その全ては読めないまでも「何か裏がある」事くらいまでは察する事が出来るセシリアだ。
テレーサが2人以上という事は流石にあるまい。
(結局、分からないものはいくら考えた所で仕方が無い。それよりも、今日の彼女の言動の意図だけど)
そんな風に思考を切り替えて、セシリアは前を向く。
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