第9話 結果は『白』

 先程からの彼女を見る限り、彼女の殊自身の感情をひた隠しにするスキルは大したことがない。

 本心を見出す事にはそう苦労はしないだろう。


 もし彼女にセシリアの言葉の意味が理解できなかったならこの『試し』は成立しないが、前評判を鑑みても、そしてこれまでの会話を振り返てみても、彼女はこちらの常識から大きく外れる事は無かった。

 ここまで彼女は、ある程度の理性と理屈に則った話運びをしてきている。


 その上、今回は特に『権力には屈しない』という直接的な言葉を使っているのだ。


 その意志があって尚且この言葉の示唆する所が分からない程の考えなしには思えない。

 それが、セシリアの彼女に対する評価だった。




 そしてその『試し』の結果はどうだったのかというと。


「それはとても良い心がけだと思います。皆様にも是非見習っていただきたい事ですね」


 言いながら、テレーサは自らを囲む令嬢たちを見回す。


 視線で示した同意の求めに、案の定と言うべきか。

 周りから口々の同意が返ってきた。

 そんな彼女たちを眺めながら、セシリアはこう結論づける。


(もし何かしらの目的があったのだとしても、彼女は決してその手段に権力を用いたゴリ押しを使う事は無いだろう。……少なくとも、現時点では)


 これはセシリアが自らの目で見極めた、新鮮な確定情報だ。

 少なくとも今日は、この情報を指針に動いていいだろう。


 そう思い至ったからこそ。


「セシリア様のご両親は、セシリア様にとってとても自慢の方々なのですね」

「――はい、とても自慢の両親です」


 テレーサからのこの言葉を、セシリアはただ素直に受け取る事が出来た。


 勿論今は社交中だ。

 だから社交の笑みは崩さなかったが、それでも大好きな両親の事を褒められればそんなの嬉しいに決まっている。

 友好的な笑みになるのは当たり前だった。



 セシリアの微笑みに、テレーサが嬉しそうな顔でふわりと笑う。

 その結果、両者の間に流れる空気は和やかなものへとなっていた。



 セシリアの意識に「ならば彼女が話しかけて来た意図は一体どこにあるのか」という疑問が掠めていくが、すぐに「まぁ今は良いか」という結論に至った。

 


 もし彼女に明確な目的があったのだとしたら、それを成すためにこの後何らかの行動に出るだろう。

 そうすれば自ずと分かる。

 

 ならば。

 

(こちらから探るよりも、彼女に言いたい事を言わせた方が余程効率的だ)


 どちらにしろ最初に危惧した『面倒事』の最たるものは、つい先程「起こらない」と結論づけたばかりだし、こちらには心当たりも彼女と話したい事も取り立ててありはしないのだ。

 セシリアに出来る事といえば、精々それに備えて心の準備をしておく事くらいなものだろう。



 そう思った時だった。

 テレーサが、こんな言葉を掛けてくる。


「私、セシリア様と以前からお話ししてみたいと思っていたのです」

「――そうなのですね」


 彼女からの思わぬ言葉に、セシリアはほんの少し反応が遅れた。


 

 それはほんの一秒ほどの動揺だった。

 お陰でテレーサを見る限りでは、彼女はこちらの感情の揺れに気付いてすらいないようだ。

 しかしセシリアは、敢えてそれを明示する。


「ありがとうございます。しか正直に言えば少し驚いてもいます、まさかそんな風に思ってくださっていたなんて」

「? 何故?」

「だってテレーサ様の家と私の家には、浅からぬ因縁があるでしょう?」

「因縁?」


 セシリアの声に、テレーサはコテンと首を傾げた。


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