第2話 蓄積されるモノ



 王城パーティー以来、セシリアはとある二つの噂の当事者となっていた。

 しかしモンテガーノ侯爵側の動きが活発でありその上に彼の失態が続いた為、今まではそちらに注目が集まっていた。

 だからその注目度の高さに隠れて、第二王子・アリティーとの件は相対的に目立たなかったのだ。


 しかしそれも、現在少しずつ沈静化しつつある。 

 それはセシリアが納得した事を受けてオルトガン伯爵側がかの家に対する水面下での情報操作を辞めたのと、モンテガーノ侯爵の社交が功を奏し始めている事が重なった結果だ。

 

 しかしそうなれば、今度は残された『第二王子との件』に注目が集まるのも仕方がない事ではある。

 

 そこにアリティーの毎回の声掛けだ、同年代の令嬢やその親からやっかみを買わない方が逆におかしい。


「周りはしきりに『伯爵家の娘の癖に、殿下に媚びを売っている』と言ってるからな。まぁ公爵家は殿下に合う年齢が居ないからアレだけど、侯爵家には一人居るからな」


 知ってはいたが改めてゼルゼンの口から実際のところを聞かされて、セシリアはため息をつかずにはいられない。


「はぁ……、噂って本当に勝手よね。私がどういう思いで彼の相手をしてるのかなんて想像なんて全くしないで、無責任に邪推して」


 机に肘を突いて、掌の上に自身の顎を乗せて。

 少し遠くなった目で窓の外を眺めながら小さく呟く。


「正直言って煩わしいんだけど、あの方たちどうにかならない?」

「ならんわ」


 貴族の子女をどうにかするとか、そんな事を簡単に言うなよお前。

 そう言って、ゼルゼンは友人を嗜める。


「それにお前、そんな事言って周りに『セシリアが殿下の事を嫌がっている』なんて知られたら、それはそれでマズいだろうが」


 彼の言葉に、セシリアは「ふむ」と考える素振りを見せた。

 そして「確かに」と頷く。


「……まぁそうね。そうなったらなったで、きっと『伯爵家の娘の分際で殿下を袖にするなんて』とか言うんでしょうね」


 第二王子と関わりがある時点で、どちらにしろ何かしらのやっかみは買う運命なのだ。

 その理由がすげ変わった所で、周りから向けられる視線の種類に大きな差は無いだろう。


 


 現状、この件への対処手段をオルトガン伯爵家は、否、少なくともセシリアは思いつかない。

 相手が王族なだけに、これは手出しが実に難しい案件なのだ。



 だからこの状況は仕方がない事ではあった。


 しかしだからといって必ずしも現状が煩わしくない訳では無い。

 そしてそれは、それに相応する不満も然り。

 そんな感情がセシリアの中には確実に折り重なり、積もりつつある。



 ゼルゼンはそんな主人の精神的状況をよく分かっていて、よく分かっているからこそ彼女に対して危機感を抱いていた。


 セシリアが一体いつ火を噴くのか。

 そう危惧しているからこそ、このプライベート時間に愚痴を吐き出す機会を与えた。

 ここでのこの話題は、おそらくそういう訳だったのだろう。


 だから。


「セシリア、くれぐれも――」

「分かってる」


 ゼルゼンの釘刺しに、セシリアは勿論こう答えた。


「何もしないわ。……今は」


 語尾はポソリと呟くだけに留めた。

 しかしどうやらゼルゼンの耳まで届いてしまっていたようである。


 何も分かっていないじゃないか。

 そんなジト目がセシリアを向いたのだった。

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