第二章:とある侯爵令嬢との紆余曲折
プロローグ
第1話 周りの目
第二王子との接触があって以降も、セシリアは相変わらずの平常運転だった。
周りと比べると比較的少ない割合で社交場へと顔を出し、社交ノルマを順調に達成。
そしてその後はレガシーの元を訪れるという所までがワンセットだ。
当初セシリアが抱いていた「あちらが何か仕掛けて来るかもしれない」という疑念は、現在まで空回り。
そもそも当たってほしくない予想だったのでセシリアとしては嬉しい結果だが、その一方で少々不気味でもある。
しかしある程度は平和だったとはいえ、何も無かった訳でもない。
「あれ以降、第二王子殿下はセシリアが参加するお茶会に、何かにつけて現れる様になったな」
とは、今日の社交直前ティーブレイクでゼルゼンに言われた言葉だった。
その言葉に、セシリアは思わず渋い顔になってしまった。
それこそまさに、今『面倒』を視界に入れてしまったかのようなしかめっ面だ。
「――別に、同じ社交場に居合わせる事自体は良いのよ。私がとやかく言う筋合いも無いし。一々私の所にやってくるから『面倒』なのよね」
そう言って、彼女は自身の心を微塵も繕わず、ただ本心に素直に深い深いため息をついた。
アレ以降、セシリアは自身の出席する社交場の条件に、わざわざ『第二王子が出席しない』を加えて選んでいる。
だというのに。
「ゲリラ的に社交場へと参加するなんて、主催者側の迷惑なんて全く考えていないんでしょうね、きっと」
そんな風に、セシリアは自らの苛立ちを彼女にぶつける。
しかしこれは何も嘘じゃない。
主催者側は実際に困っている事だろう。
何故なら王族が自ら主催するパーティーに参加するという事は、それだけ大事なのだから。
王族を招くには、それなりの準備が必要だ。
だというのに、彼は主催者側に事前に一報を入れてパーティーに参加をしている形跡がない。
主催者も知らない、王族のパーティー参加。
そんなものを食らって準備など出来ている筈がなく、そうである以上主催者にとって彼の存在は『面倒』以外の何物でもない。
「あの方が話し掛けてきているのにまさか無視する訳にもいかないし、『対処のしようが無い』というのは本当に困ったものよね」
そんな主人の物言いに、ゼルゼンがジト目を向けた。
その目はまるで「お前が言うな」とでも言っているかのようだ。
しかしまぁその辺の気持ちは、視線だけで十分セシリアにも伝わっているだろう。
そんな察しがあって、彼は別の事を口にする。
「でも殿下は二言三言会話をしたら満足して帰っていくんだから、まだマシなんじゃないのか? 」
「まぁそうだけど」
それは確かにゼルゼンの言うとおりだった。
しかしだからといって、手放しで頷ける話でもない。
だからため息交じりにこんな風に言葉を続ける。
「でもその代わりに『殿下からパーティーの度に毎回話しかけられる』事で、私は充分要らぬやっかみを被っているでしょう?」
確信めいたセシリアの声に、ゼルゼンは頷かずには居られなかった。
「あぁー、まぁ、それは……うん」
歯切れの悪い返しと、辟易とした様な表情。
そんなものを付属した彼の肯首には、実感が籠もっていた。
しかしそんなのは当たり前だ。
だってゼルゼンは、突然どんな飛び道具で精神的に他貴族達をはっ倒すか分からない。
そんな主人のフォローをする為に、いつだってセシリアとその周りに目を配っていた。
だから気付いていたのだ、あれ以降セシリアに向けられる目に変化があったのは、早々に。
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