エピローグ【第二王子編】
第1話 主人が上機嫌な理由(ワケ)
アリティー第二王子の側近・ジェームズ。
彼は今、執務室で執務に勤しむ主人を眺めている。
王族には幼い頃から執務が割り当てられている。
とはいっても所詮は子供なので、そう難しいことはない。
これはあくまでも、将来きちんと執務が為せるようにするための教育の一環であり、執務を習慣化焦るための措置。
だからまだ10歳になったばかりの王子に与えられているのは『難易度の低き書類を読み確認証明の判を押す』、ただそれだけの作業でしかない。
加えてこの後王妃が同じ書類を再確認するので、例え上の空で書類を処理していようと実務に影響はない……のだが。
「殿下、そんなに楽しかったですか? 先日の、アレが」
与えられた執務を鼻歌交じりに熟す主人、それは明らかにいつもと異なる姿である。
主人の性格を考えれば、すべき事はきちんと熟している上での鼻歌なのだろう。
それは分かっているので執務の方はあまり心配していない。
しかし敬愛する主人の様子が違うのだ、「変化の現況が何なのか」という部分はどうしたって気になってしまう。
数日前から、彼はずっとこんな調子だ。
そして「こんな調子になったのはいつか」と問われれば、ジェームスには「『彼女』と会った後からだ」としか答えられない。
そんな状況だ、最近の主人の上機嫌が『彼女』と何ら関わり無いなんてそんな事、むしろ思う方が難しいだろう。
ジェームスの問いに、アリティーは「あぁ」と短く答えてみせた。
そして、まるで何かを思い出すような視線を、窓の外へを向ける。
「あれはとても楽しい時間だった」
感慨深そうな主人の声に、ジェームスの口からこんな言葉が零れ落ちた。
「あんな、ただの無礼な女」
「――ジェームス」
告げられたその声には、明らかな咎めの色が灯っていた。
主人からそんな物を向けられれば、ジェームスの肩がビクリと震えた。
ジェームスは、成人していないとはいえ背丈はもう大人のそれに近い。
だからこそ、2人の図は『大人が子供に怒られている』ような図を作り出した。
見た目には、違和感しかない。
しかし2人の関係性と現状を知っていれば、誰だって「それは的確な図だ」と言うだろう。
まるで叱られた子犬のように不安そうな顔になっているジェームスには、自分が主人に対して出過ぎた物言いをしたという自覚があった。
しかし、一度口から出てしまった言葉を無かった事には出来ない。
だから別の防衛策に出るしかない。
「だってあの女、殿下の言葉をないがしろにしたり、殿下の与えた『権利』を拒否したり。あまりに殿下を愚弄しすぎですっ!」
ジェームスには、彼女が『主人の恩情を無下にする無礼なやつ』に見えてならない。
そんな気持ちを全面に、先に自身が零した言葉を養護する。
つまり言い訳をした訳なのだが、その防衛方法は果たして正しかったのか。
その答えは結局の所分からなかった。
しかし、少なくとも彼を楽しませる材料にはなったようだ。
不機嫌そうな顔から一転、殿下は「ふむ」と言いながら顎に手を当てると口角を釣り上げてこんな風に口を開いた。
「そうか、お前には彼女がそう見えたのか」
まるで独り言のようなその声に、ジェームスはすかさず疑問を挟む。
「それは、『殿下にはそう見えなかった』という事なのでしょうか……?」
「あぁ、彼女はきちんと無礼にならないの範疇の言動をしていたさ」
それこそ、こちらが口を挟める隙がないくらいにね。
そこまで言うと、彼は持っていたペンを机に置いた。
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