第2話 殊私の使用人



「僕らの歳だと、普通はまだ専属の使用人を連れて社交場になんて来ない。それはセシリア嬢も知ってると思うけど」


 レガシーは、まずはそう前置いた。



 実際、セシリアと同年代の子達には、使用人がほとんど付いていない。


 勿論この時期に使用人が同行する事も無くは無いのだが、例えばそれはかなりの病弱体質とか、逆に手に負えないほどやんちゃとか、そういう子達に限られる。


 それ以外の子たちは通常、「自分の付きの使用人を連れて歩くのは学校入学の時期以降」というのが多い。



 そしてどうやら、それはセシリアもちゃんと知っている様だった。


「しかしそれは『社交をしない子供にはまだ付き人の補助は必要ない』という事実があるからこそでしょう?」


 そう言って、コテンを小首をかしげてみせる。


「私は既に大人の方々に混じって社交を行いますから、つまりは『必要に迫られて』の措置ですよ?」


 言った彼女は、その声色と同じく「それの一体何が可笑しいのか」という顔をしていた。



 彼女の言は概ね正しい。

 

 貴族の社交場に使用人が同行するのは、飲み物や軽食を用意したり、色々と手配をしたり。

 そういう時の補助をするためなのだから。



 因みに、レガシー自身も親から「入学後以降はお前にも常に専属を付ける。その頃にはきちんと社交が出来るようにならねばならないぞ」と言い含められている。


 それはおそらく、親からすれば一種の布石なのだろう。

 今からソレを言っておくことでレガシーに心的負荷をかけ、近い未来にはその約束通りにレガシーを半強制的に社交場へと引っ張り出すための。



 しかしそれは、裏を返せば『通常、使用人がついているのに社交のしないのはおかしい』という社交界の常識があってこそだ。


 その点で言えば、現在既に社交を行っているセシリアに社交界の場で専属の使用人がついている事は、別におかしな事ではない。


「……まぁ、百歩譲ってそこは良いとしよう。でも」


 しかしそれでも、やはり彼女は異例だった。

 何故なら。


「こういう場で付く使用人は、普通はみんな成人済みなんだよ」


 そうでなくてもセシリアの年齢で使用人が付くのは珍しい。

 なのに、付いてる使用人も異例となれば、目立たないはずがない。


「君の使用人、せいぜい君より2、3歳年上っていうところなんじゃない?」


 少なくともレガシーには、彼女の執事がそういう風に見えた。



 レガシーのそんな指摘に、セシリアは「あぁなるほど」と納得の表情を浮かべた。


 しかし彼女に、それ以上の感情は浮かんでいない。

 焦りも驚きも何もなく、ただ納得だけした彼女は、まるで「それがどうした」と言わんばかりだ。


「確かに年齢的には若いかもしれませんが、彼は当家の筆頭執事のお墨付きを得ている人間です。殊私の使用人をするにあたって、彼はどの使用人よりも優秀ですよ」


 そう言った彼女の瞳には、深い信頼の色が宿っている。


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