セシリア、第2王子と初バトル

第1話 セシリアには「変」がいっぱい



 クラウンの件があってから、数日後。

 次の夜会でもセシリアはすべての義務を果たした後でレガシーの隣に居座っていた。


 

 今日の二人はお茶会会になっている庭園の片隅、ちょうど子供二人が入れるくらいの大きさの木陰の下だ。

 

 下には綺麗に揃った芝生の絨毯がある。

 そこに二人して腰を下ろし『大人たちの社交劇場』を眺めながらする今日の話の議題となっているのは、常々話に出てくる「セシリアは変」という言葉の意味についてだ。


「レガシー様は何かにつけて私の事を『変』って言いますけれど、一体どこが『変』なのか、懇切丁寧に教えてほしいところです」


 そう言って口を尖らせるセシリア本人には、その自覚が全くない。


 気付いていない。

 まさにそれこそが周りとの意識や認識の壁であり、彼女が彼に『変』と言われる所以でもある。

 だから。


「そもそも自分が『変』だっていう認識がない時点で、どこが変なのかを知っても大した意味にはならない思うけど……」


 指摘されたところで、どうせ自分が「変だ」と思っていない事だ。

 おそらく直したりしないだろう。


 そう予想して、まずはそんな風に前置いておく。

 しかしそれでも彼女のリクエストだし、別に言い渋る理由も無い。


レガシーは指折り数えながら、彼女の『変』ポイントを一つずつ上げていく。


「そうだな、まずは毎回わざわざ僕に話しかけにやってくる事」

「それのどこが変なのです、友人に話しかけるのは別に普通の事でしょう?」

「・・・・・・それでもこんな隅っこまでわざわざやってくるのなんて君くらいものだよ」


 レガシーが少し言葉が詰まったのは、彼女が『友人』だなんて言葉を使ったからだ。


(そんな風に平然と『友人』なんて言えちゃう辺りも、僕からしたら十分変わってる)


 早い話が、照れたのだ。



 照れ隠しに、彼は一度コホンッと軽く咳ばらいをした。

 そうして場を整えてから、照れの感情ごと今のやり取りを一旦横に避けておいて本題に戻る。

 

「次に、色んな事を深く知り過ぎている所。少なくとも鉱物関係については僕の話についていけるのは君くらいなものだ。しかも君はその他の事象についても必要以上の知識があるよね」


 それくらいの事、ちょっと会話をしてれば僕にだって分かる。

 レガシーがそんな風に付け足すと、彼女は「それは別に」とすぐさま反論してくる。


「知識を集める事は一種の趣味ですから。貴族令嬢として、趣味に走ることは何も変な事ではないでしょう?」

「それにしたって特殊な趣味過ぎるよ。そんなものが趣味になるなんて話、少なくとも僕は聞いたことが無いよ」


 まるで当たり前のように「趣味だ」と宣ったセシリアに、レガシーは思わずといった感じで「やっぱり変だよ」と呆れ気味なため息をつく。

 しかしセシリアは、別に謀ろうとしてそんな事を言った訳ではないのだ。

 だから「何が?」と小首を傾げる。



 そんな彼女を前にして俺はすぐさま白旗をあげた。


(これはもう、そういう物だと思うしか無い)


 例えば僕が『鉱物』に対して並々ならぬ興味を抱くのと同じように、彼女は『様々な知識』に対してそうなのだろう。

 ならば仕方がない。


 そんな風に、どうにか自分を納得させる。


 しかし彼女の変わったところは他にもあるのだ。


「あと、貴族としての自覚の高さ」

「自覚が高くて一体何がいけないのです?」

「高くて悪い事は無いけど、君の場合は自覚が年齢に釣り合ってないんだよ。だからどうしたって周りと足並みがズレる」


 足並みがズレれば、どうしたって目立つ。


 レガシーがそう言うとそれには少なからず自覚があったのか、これには一定の理解を示した。

 「なるほど」と感心した様に呟く彼女に、俺は最後の極めつけを指摘した。


「あと、この年で常時社交に連れているその執事」

「――ゼルゼン?」


 そう言われ、セシリアは後ろの従者を振り返る。



 セシリアの視線に誘われるようにレガシーも彼へと目を向ければ、そこにはいつも通り彼女の後ろに付き従う、静かな従者の姿があった。


 素直に驚きを顔に出しているセシリアに比べ、彼は見事に職務を全うしていた。

 突然話の引き合いに出されても顔色一つ変えず、全く動じた様子も無い。


(本当に躾の行き届いた執事だ。でも)


 彼という存在がセシリアの「変さ」加減に拍車をかけていることは間違いない。


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