第3話 能あるタカ
アリティーの悪あがきは、ほんの数秒間だけ続いた。
しかしすぐに「彼の気が他へと逸れる事は無い」と察し、それと同時に潔く諦める。
そして諦めた彼は。
「私に掛かればこのくらい、どうという事は無いよね」
開き直ってそう言った。
満面の笑み込みで答えた主人に、ジェームスは眉間を人差し指でグリグリと揉みほぐす。
そして。
「そうやってテストの点数で『遊ぶ』事が出来るのですから、その気になれば100点だって取れるでしょうに・・・・・・」
何故貴方は、そういつもいつも。
そんな風に呟いて、わざとらしく深い深いため息をついた。
確かに、ジェームスの言うことは大方正しい。
68、69、70と、綺麗に1点ずつ上がっていく点数。
それは彼の言う通り、確かにアリティーが点数で『遊んだ』結果に他ならない。
そしてそんな精密な点数操作など、全ての問題の答えが分かっていなければ決して出来はしない。
少なくとも2度以上の前科があるアリティーに対しては、『偶然』という言葉は使えない。
『必然』でしか、あり得ない。
ジェームスは、そんな彼の前科をきちんと把握していた。
尚且つ、身をもって彼がそれを行える力量を持っている人物だと知っているのだ。
だから全く疑わない。
アリティーは、100点だって簡単に取る事が出来る。
「貴方には、周りに隠している才がある。それに本来、努力だって惜しまない。それでも100点は取らない・・・・・・」
いつだって、彼は狙って60点台や70点台を取る。
決して高くはないが、そう低くもない。
そんな絶妙な点数を。
そして手持ちぶさたになると「暇つぶしに」と、こうして点数で『遊ぶ』のだ。
ジェームスはアリティーに対し、いつだってこれを「悪癖だ」と指摘する。
しかし。
「100点なんて取っちゃったら、日頃の努力が台無しじゃないか」
アリティーだって、必ずしも好きでそんな状況に甘んじているわけではないのである。
だからそこをあまり突かれすぎると、どうしたって煩わしく思ってしまうのだ。
顔を顰めながらジェームスの言葉を拒絶して、アリティーは右手でシッシッと彼を追い払うような手振りをしてみせた。
しかし。
「『できるだけ目立った成果を上げない様に』という貴方のスタンスは、勿論私も知っています。でももう少し成果を上げても良いと、私は思うのです」
彼のお小言はまだ紡がれる。
出来るのにしない。
それは、とても勿体無い事のように思えるのです。
ジェームスはそう言った。
彼としては、おそらく能力のある主人が周りに評価されない事が悔しいのだろう。
そう思ってくれる事自体は、アリティーも主人として嬉しくはある。
しかしそれを分かっていて尚、彼は側近の言葉を汲んでやれない。
「そんな事をして、変に兄上のプライドを擽っちゃったらどうするんだよ。それが嫌でこっちはわざわざ『爪を隠してる』っていうのに」
それじゃぁ私が努力している意味がないだろ?
そう言葉を続けた彼に、ジェームスはお小言顔から真剣なものへと表情を変える。
そしてゆっくり3秒ほど何やら考え込むような素振りをみせた後で「つまり、それは」と呟いた。
「そんな事で第一王子に並んでしまう、と?」
「あの人はプライドが高いのに、変なところで心配性だからね。少しでも自分よりも上を行く可能性のある対抗馬を見逃す筈がない」
第三王子がどうなったか、お前も知っているだろう?
そう問えば、彼はピクリと肩を震わせた。
そして深刻そうな顔になり、こう答える。
「……そうですね」
その声は、いつもより確実に1つトーン下がっていた。
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