第5話 与えられた、たった一択
彼には、どうしようもなく王子としての自覚がない。
それが最悪の形で現れた瞬間が、正しく今だ。
反射的に、そう思った。
例え考え無しだろうと、熟考の末だろうと、彼の言動には等しく大きな力が伴う。
そして。
(残念ながら、私にはそれを聞かなかった事にする権利など無い)
彼がどんな人間かはいまいち測りかねる為確証は得られないが、文脈だけを読めばもしかすると「今後俺とお前は友達だ!」という安い意味だったのかもしれない。
しかしもしそうだとしても、彼の地位とセシリアとは異性であるという事実が事態を軽く受け取ることを許さない。
このやりとりが周りに知れれば、間違いなく変な勘ぐりをされるだろう。
そう、例えば。
(第二王子が婚約者候補を指名した、とか)
近い未来、そんな言葉がこの耳まで届いてくるだろう事は容易に想像できてしまう。
そしてそんなもの、セシリアにとっては迷惑以外の何物でもない。
だって、どう考えても面倒そうじゃないか。
それに、だ。
(百歩譲って大人たちがそんな勘違いをしなかっとして、それでも周りから『王子のお友達』として認識される事には変わりない)
それだって、セシリアにとってはひどく面倒で迷惑な事なのである。
つまり。
(私にとってはマイナスばかり、何一つとして嬉しい要素が無い)
聞かなかった事にはできない。
ならば、せめてこの場でスパッとお断りしたい。
それが今のセシリアの本音だった。
しかし残念ながら王子の言葉を真っ向から切り捨てるだけの地位も、お断りするだけの正当な理由も、今はまだ持ち合わせていない。
そういった準備が出来ていない状態で断るには、王族に対して失礼だ。
そして高位な者に対する失礼は、極刑に直結しかねない。
となれば、セシリアが取れる選択肢など一つしか存在しないのである。
「……ありがたき幸せにございます」
苦虫を噛み潰したような気持ちになりながら、セシリアはよそ行き顔で彼に礼を述べた。
すると彼が満足そうに「よし」と言って頷いたのだった。
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