第16話 こっくりさんはやらないほうがいいと思います

「あ、い、う、え、お――」


紙に五十音、はい、いいえを書く空太郎さん。


「空太郎さん、これって……」

「こっくりさんね」


店長がナッツを食べながら言う。


「なんでこっくりさん形式で対話しちゃうんすか!? 普通に筆談してくださいよ!」

「こっちのが雰囲気出るかなって思うじゃん」

「雰囲気とか別に求めてないんすよ!?」

「お、そんなこと言ってる間に動かしに来たぞ」


紙の上の10円玉がすーっと動いていく。


「もうだめだーーーー! 殺される!!」


心臓が破裂しそうなくらいバクバクと音をたてる。


『こ、ん、に、ち、は』

「ちわー」


空太郎さんの適当な返事に不安しか感じない。


「目の前に今おっさんが座ってる」

「ああああ……」


怖すぎてもう見てられず、目を塞ぐ。


『て、ん、ち、ょ、う、を、だ、せ』


「だそうですけど、店長」

「え~、私?」


空太郎さんと店長が座席を変わる。


「なんか幽霊たちがざわつき始めましたよ」


『こ、の、か、ふ、え、が、き、に、い、つ、て、い、ま、す』

「ありがとう」

『い、つ、も、お、き、れ、い、で、す、ね』

「日々精進してますから」


いや、なんだこの会話――。

これってもしかして、ただの――。


『か、れ、し、は、い、ま、――』

「ただのナンパじゃねえか!!」


わざわざこっくりさんをしてわかったのは、どうやらこの店が市内屈指の心霊スポットだったのは、綺麗な店長を毎日眺めに大量の霊が来ていたからという本当にしょうもない事実だった。


「ねえ、でもそのせいでこの店が儲からないんだったらダメじゃない?」

「まあ確かに」

「除霊しかないわね」

「でもなんか可哀想な気もするんだよな」


空太郎さんは謎に霊に同情し始めた。


「可哀想ってそんな……」


いいから除霊できるならしてくださいよ、という言葉を言いたかったのに、霊がこの場にいると思うと怖くて何も言えない。

霊に憑かれるのだけは絶対に嫌だ。


「ちょっと待って。私いいこと考えついたわ」


もう絶対いいことなんかじゃない。

俺にはわかる。


「うちのカフェに幽霊専用スペースを設けましょう」


ほら、もう最悪!


「でもこのスペースは働き者の幽霊しか使えないの。幽霊たちにはポスティングとかのお仕事を頼んで、ノルマを達成できた人はこのカフェでのんびりしてもいいことにしましょう。人生はギブ&テイクだし、悪い提案じゃないでしょう」


俺は店長の話を聞きながら、限界を迎えていた。

そんな気味が悪い話があるか。

ユキトくんのようなまだかわいい中学生くらいの霊ならまだしも、俺は知らないおっさんの霊なんか受け入れられない……。

バイト、やめよっかな……。


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