第12話 働きたくねえなあ~~~
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働くということ自体をナメていた。
自分が今まで家でゲームをしたり、テレビを見ていた時間で働いて950円を手に入れる。
正直、そこまでして950円を手に入れたいという気持ちがわかない。
「すぐには決められないでしょ。やってもいいなと思えたら、また来て頂戴」
店長はそう言うと、俺と世里奈ちゃんに「今日は余ったから」と売り物のパウンドケーキを持たせてくれた。
「空太郎さん、なんでムショクなんかになっちゃったんすか?」
将太郎くんのド直球な質問に少しひるむ。
「いやー、まあ……」
働きたいという意欲もわかなければ、やりたいことも見つけられなかった。
働くということ自体にまだ納得がいっていない。
言ってしまえばそれだけのこと。
自分でもあまりに子どもじみているのはわかっているから、将太郎くんには言いにくい。
「働きたくないんすか?」
「まあ……」
「空太郎さんって大学は卒業したんすか?」
「一応……」
「空太郎さん、腹から声出てないっすよ」
「ははは……」
「俺、大学卒業するころになったら働く決心つくかと思ったんだけど、違うんすか?」
「ふつーの人は決心つくんじゃないかな」
「ふーん」
いや、滅茶苦茶聞いてくるじゃん。
将太郎くん、意外と俺に興味あったんだなとか思ってしまう。
「空太郎さん、無職生活ってどうっすか?」
「どうかって言われても……」
インスタを見なくなった。
大学同期や先輩、さらに後輩までもが就職先を決めていく。
中にはブラック企業に入ってしまって辛そうな奴もいるけど、その辛さに耐えてる奴らが格好良く見えた。
一歩を踏み出せなかった自分と、一歩を踏み出した彼らとの間に何の違いがあったかはわからない。
とにかく俺は一歩を踏み出すことができなかったし、一歩踏み出そうとしなかった。
自分で選択したことなのに、インスタで見る彼らの姿は眩しくて、劣等感ばかりが募っていった。
「なんかやりたいこととかやってみたいこととかないんすか?」
「んーわかんないな……」
「そんなんだったら俺と店長ととりあえずバイトしましょうよ。何が好きか嫌いか、やりたいかやりたくないかわからないならとりあえず何でもやってみたほうが早いっすよ」
「そうかな……」
「そうっすよ。てかさっきからなんもしゃべらねえじゃん、世里奈。どうした?」
「いや、なんか気のせいかもしれないけどなんか体調すぐれなくって……」
気のせいではない。
俺があそこで働こうか迷ったのは時給だけが原因ではなかった。
そう、霊的なヤツである。
あのカフェはひっきりなしに幽霊が出入りしているカフェとして俺のなかでの地元ナンバーワン有名心霊スポットだったのだ。
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