第11話 時給いくらだったら働ける?

「じゃあ、あなたの交渉が終わったから今度は私の番ね」


空太郎さんが緊張した面持ちで店長を見つめる。

さっき「よろしくね」って言った後に交渉条件を並べるのか……。


「私が思うにあなたはまず接客業に慣れるのに時間がかかる。接客業の経験もないと思うし、声も少し通りにくい。最初のうちはレジでお客さんと話すだけで疲れると思う」

「そうっすね……」

「将太郎は今、主にレジで働いてもらっているの。見ての通り、うちのカフェはレジでお客さんが注文するセルフ式。お客さんの手を煩わせる分、レジでは気持ちよく注文してもらいたい。誰とでも円滑にコミュニケーションができる将太郎を信頼してレジを任せてるの」


将太郎、ちゃんと店長に信頼されてるんだ……。

すごいじゃん……。


「まだ働き始めて2か月なのによく頑張ってて偉いのよ」


褒められて得意げな将太郎。


「うちにはほかにもスタッフがいるけど、私が一人で回してる時間も長いの。だからこの店のメニューはドリンクとパウンドケーキ、フレンチトースト、その日の気分で私が作ったお菓子しかないの。こんなちっちゃなお店だけど、私はもっともっと儲けたいの。でもメニューを増やしすぎるのはコストもかかるし、フードロスも生み出してしまうからリスキー。じゃあ今より儲けるにはどうしたらいいのか……。あれよ」


店長が指差す先には店の外にある可愛い水色の自転車があった。


「配達に参入したいの」


なるほど……。


「幸いこの辺には有名なカフェチェーンってないし、参入してみるだけの価値はある。でも最近流行のFuber eatsとかは手数料とかもちょっと高めなの。だけどもしあなたを雇って配達をやってもらいながら、ドリンク作りもやってもらえれば私にとってはそっちのほうが安上がりなのよね。配達とドリンク作り、できそう?」

「時給によりますかね……」

「あら、交渉上手になってきたわね。まずは950円でどう? 昇給ありだけど、働きぶりにもよるわね。ちなみに将太郎は950円スタートで2か月経った今は960円とちょーっとだけ上がってるの」

「うーん……」


考え込む空太郎さん。

確かに950円という時給は決して高くない。

居酒屋や少し高級なレストランであれば時給1,000円越えはおろか、都心まで出れば1,400円くらいは狙える。


「うーん……」


なんと空太郎さんはその場で考え込んでしまったのだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る