第8話 母ちゃんはなぜがめついのか

『求人 未経験』

『求人 リモートワーク』

『求人 駅チカ』


検索履歴がつまらない単語で埋まっていく。

検索しては真面目に就職先を考えるわけでもなく、ただただみじめな気持ちで求人を眺める。

眺めては嫌な気持ちになって、考えるのをやめる。


「別に働かなくてもいいんじゃない?」


ユキトが宙をクロールしながら言う。


「お前、他人事だと思って……」

「だって他人事だもん。それに現状困ってないでしょ」


確かに、困っていない。

父親が死んだときの遺産を資産運用することに成功した母ちゃん、大学卒業後専門商社に勤め、現在フィリピンに駐在しながら時々送金してくれる兄貴。

この2人のおかげで贅沢しなければ俺は今後10年は少なくとも働かずして食っていけるだろう。

母ちゃんは口では「働け」というけれど、俺を本気で怒ったりしない。

母ちゃん自身、過去仕事ができないことに悩んでいたからだろう。


「やりたいことをやってみればいいんじゃない」

「そんなものはない」

「じゃあできることとかできそうなことから始めてみなよ。正直、俺と毎日ゲームするだけっていうのも味気ないでしょ」


ユキトは時々悟ったようなことを言う。


「別にお前と過ごすのつまんねえとか思ってねえし」

「俺は空太郎と毎日あつ林するの飽き始めてるんだけど」

「なんだと!?」


求人検索をしながら、思ったことがある。

多分5日間ぶっ通しでは働けない。

ましては1日8時間以上なんか今までぐうたらしまくってたのに働けるはずがない。

そんでもっていきなりスーツ着たりするのも想像できない。


「やっぱ働きたくはねえわ」

「えぇ……」

「いいからユキト、野球しようぜ」

「中島かよ……」

「空太郎、ちょっと牛乳買ってきて――」


ユキトとの会話中、部屋に勝手に入ってくる母ちゃん。


「ちょっと、その子誰」


手に持っていた洗濯籠を落とす母ちゃん。

こんなにはやくバレるとは思ってなかった……。


* * *


「これからは一緒に夕飯食べましょうよ」

「いや、幽霊なので食事はしません」

「穀つぶしの空太郎と違って省エネね~」

「ぐはっ」


母ちゃんの辛辣な言葉に胸を貫かれる。


「怖くないのかよ」

「別に怖かないわよ。子どもじゃない」

「まあ」

「でももし特殊な力があるなら、私の持ち株の株価を上げてね」


一介の中学生に何お願いしてんだよ……。

母ちゃんのがめつさを久々に見た気がした。

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